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「はあ……、はあ……。最悪。よりにもよってこんな日に寝過ごすなんて……」
大小様々な人と車で埋まる大通りの交差点、世話しなく点滅する信号機、建ち並ぶビルの山、その合間をぬって生える満開の桜並木。
そんな緩やかに
ここは首都東京から、少し離れた位置にある
一見どこにでもある、少し都会ぶった普通の町。
ほら、その証拠として一歩、この国道を外れたら、田園を中心とした田舎の道へと早変わり。
こんな田舎でも、交通や環境維持などのために、道路工事などのお金がいるから、お役所さんも大変だ。
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──季節は、春うららかな4月の後半。
紺のブレザーに黄色のネクタイで、緑のチェックなスカートの制服姿の私は、先ほどの前振りの通り、国道の脇にある街路樹が並ぶ歩道をひたすら駆けていた。
その私がすれ違うたびに私を見つめ、
中には『あんな可愛い娘が、大股を広げて走るなんて、はしたない』と言う中年のオジサンやオバサンもいた。
確かにスカートだと、足がスースーして走りづらい。
いくらパンチラ防止のためにスパッツを履いてるとはいえ、乙女として少し抵抗がある。
まあ、昭和の世代に流行っていた、露出がきわどいカボチャパンツのようなブルマに比べたら、いくらかはマシなんだけどね……。
『……昔の女性達は、勇気があって凄いなあ』と感心する。
ああ、そんなことよりも急がないと……。
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それよりも時間がない。
このままだと確実に遅刻する。
校門で待ち構えている、
もし遅刻したら、今回も罰として廊下に立たされ、約一時間、水の入ったバケツを両手に持たされるのだろうか。
いつの時代の生活指導か。
今のご時世、パワハラとして十分に立証できる。
でも、柳瀬はああ見えて、普段は人柄が良くて優しく、よく生徒を見ている。
どうやら職務の指導員としては、厳しく接しているが、その裏では生徒の更正を計っているようだ。
由緒正しい伝統校である、
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「しょうがない、ぐるりと近道をしますか」
私は大通りから離れ、次の右の曲がり角にそって曲がった。
すると……。
「きゃっ!」
「わっ!?」
『ドカーン!』
先の曲がり角には先客がいて、立ち止まる暇もなく、正面衝突する。
思わず、地面に尻餅をドンとつく私。
「アイタタタ……。
ちょっとあなた、どこ向いて走ってるのよ!」
私が激怒して、ぶつかってきた輩に文句をぶつける。
「ごめん、僕も急いでいて、悪気はなかったんです……」
その見た目はどう見ても学生で、少年のように若い男子だった。
私の通う学校の男子と同じ、黒のブレザーに緑のネクタイ、灰色のズボンの制服を着ている。
「悪いとかの問題じゃないわよ!」
「……って、はっ……」
ふと、私が怒りから不意に態度を改める。
男子、いや、彼は絵に描いたような好青年だった。
多少、目つきは悪く、鼻の下が長めだが、優しい顔立ちのイケメン。
それを見た私の体が本能を呼び起こし、カッと心から
まさに、一目惚れだった……。
(マズい。体がムズムズしてきたわ)
私の体内の女としての血がたぎり、あの能力が発動する……。
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(……大丈夫かな。この子?)
彼が心配そうに私を見つめている。
どうやら、彼の心の意識に繋がることに成功したようだ。
(とりあえずは立たせないと、黒いパンツ? が丸見えだし……)
まあ、男だからしょうがない。
「大丈夫ですか?
良かった、怪我はないようですね。
立てますか?」
その心理とは裏腹に、手を差しのばす優しい彼。
「心配しないで、私は平気だから……」
……と口ずさんだ瞬間、
(あっ、あああああああー!?)
私の脳内に大きな叫び声が鳴り響く。
あまりの
しかし、彼の心の声には意味がない動作だ。
(……おっ、おっぱいにマーガリンがベッタリついてる。どうしよう!?)
「えっ?」
私は気になって自分の胸元を見ると、ブレザーに食パンが埋もれていて、パンからの液体で胸を中心に飛散していた。
指で軽く触っても、サンオイルを塗ったかのようにベタベタである。
(僕も、あの豊かなおっぱいに挟まれたい。いやいや……)
彼が胸ポケットから、コンビニのポケットティッシュを私に差し出す。
「もしよろしければ、これ、使ってください」
「ありがと」
(くそー、このティッシュ、結構高いのに、最悪だな)
優しいとは裏腹に心の声は全然違う態度の彼。
まあ言い出して、向こうが出したなら、貰うしかない。
ティッシュだけでは落ちない汚れだが、無いよりはマシだ。
今はこの彼の好意に、素直に甘えておこう。
(しかし、この子、
……よく見ると美少女だな)
さて、ここでようやく男の本音がきたわ。
今日も朝からシャワーを浴びて清潔にして、髪型は綺麗にセットし、ピンクの輪ゴムで留め、ポニーテールに若者向けの薄化粧。
それプラス、パッチリとした二重に、マスカラを重ねたキラキラとした瞳で、どんな男子もイチコロのはず。
それからオプション追加で、この自慢の豊満なEカップの胸元のボタンを開けて、セクシーな鎖骨をさらけ出し、彼に目を合わせて、唇をペロッと舐め、ここぞとあまりに誘惑してみる。
さあさあ。
どういう態度に出るかな、可愛い
そこにある公園へ、私を誘い込んで、何かしでかすのかしら。
──すると、その私の色気仕掛けに何かを感じ取ったのか、彼の動きが急にピタリと止まる。
(……いや、待て待て。あの子には負けるか。この女、ただおっぱいが大きくて、ケバい女だからな)
「なっ、生意気なガキね。気持ち悪くて悪かったわねー!」
「ぐはっ!?」
その心の声を聞いて憤怒して、彼の顔面に黒革のスクールカバンを思いっきりぶつけて、そのまま立ち去る私。
(あのネクタイの色からして、三学年かしら。失礼なやつね)
私の学校では、学年別にネクタイの色が違う。
一学年は赤、二学年の
「あっ、大変だわ。もうこんな時間!
今日は一時限から体育があるから、早く着替えないといけないのに!」
その場でピクピクと、
そう、男なんて、みんな外見でしか判断しない、猿のような生き物だと……。