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第24話 俺が狼じゃなくて本当に良かったですね

 入れ替わりでシャワーを浴び終わった俺がリビングへ行くと、待っていた入奈はそわそわしておりどこか落ち着かない様子だった。


「なあ、この服はもしかしてだが有翔の趣味だったりするのか……?」


「いえ、俺のではなく完全に姉貴の趣味です」


 やはりそこに対してツッコミを入れてくるよな。多分俺が入奈の立場でも絶対に同じような反応をしたと思う。今目の前に立っている入奈が着ているものは肌の露出が多いカラフルで派手な服だ。

 入奈が休日に着ている比較的シンプルな服装とは百八十度タイプが違う。言うまでもなく入奈が好き好んで着るようなファッションではない。


「やはりこのままだと全く落ち着かないから今すぐ脱ぎたい」


「でも他に入奈先輩が着れそうな服なんてないですよ、もしかして下着姿でうちの中をうろうろするつもりですか?」


「それは流石にしないぞ。てか、私の体格ならば有翔の服でも問題無く着れると思うんだが」


 なるほど、確かに言われてみればそうだ。女性用の服限定で探していたから思いつきすらしなかったが確かに俺の物であれば問題なく着れると思う。

 俺は自分の部屋に行きクローゼットの中から適当にTシャツとズボンを引っ張り出し、再び入奈の待っているリビングへと戻る。


「とりあえず持ってきましたけどこれならどうですか?」


「うん、絶対こっちの方がいい。有り難く借りる事にするぞ」


 入奈も特に問題なさそうな反応だったため俺は部屋から持ってきた服一式を手渡した。すると入奈は俺も全く予想していなかった驚きの行動に出たため俺は思わず声をあげる。


「ち、ちょっと待ってください。俺のいる前でナチュラルに着替え始めようとしないでくださいよ!?」


 何と入奈は着ていた姉貴の服を俺がいるというのに脱ぎ始めたのだ。確かに付き合っていた頃はお互い目の前で着替えをする事は割と普通だったが、今の俺達の関係でそれをする事はまずあり得ない。

 それなのにそれがまるで当たり前と言わんばかりに入奈は服を脱ぎ始めたのだから俺が驚いてしまうのも無理のない事だろう。

 ちなみに俺の声を聞いた入奈はしまったと言いたげな表情になっていたため自分の行動が異常という自覚は幸いな事にあったらしい。

 とりあえず俺はリビングから出て入奈が着替え終わるのを待つ。しばらくしてリビング扉が開き俺の服を身に纏った入奈が出てきた。


「……さっきはすまなかった」


「急に目の前で入奈先輩が脱ぎ始めたのでマジでびっくりしましたよ」


「実は私自身もかなり驚いている」


「俺が狼じゃなくて本当に良かったですね」


「ああ、大丈夫、その辺りについてはそもそも心配していないから」


 その発言は男して見られていないと言われたような気がしてちょっと複雑なんだけど。そんな事を思いながら俺と入奈は適当にリビングに置いてあったクッションに腰掛ける。


「それにしても俺の服もかなり似合ってますね」


「メンズの服を着る事はたまにあるが大体同じような事を言われるな」


「やっぱり身長とか雰囲気とかが影響してるんですかね?」


「かもしれないな」


 例えばクラスの美少女である佐渡さんが同じ服を着たとしてもここまで似合う事は無いと思う。佐渡さんは小柄でザ女子という感じなのでメンズの服なんて着るようなイメージなんてそもそも無いわけだし。


「うーん、外の様子を見た感じまだ帰らない方が良いよな?」


「入奈先輩の服も多分まだ乾ききってないでしょうし、外も結構激しく雨が降ってるっぽいので何か急ぎの用事とかがないならまだ帰らない方が良いと思います」


 また雨に濡れてびしょ濡れなんかになって風邪でもひかれたらめちゃくちゃ申し訳ないし、もう少し勢いが弱くなるまでここで雨宿りをしてから帰った方が良いと思う。

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