入奈には雨が弱くなるまで雨宿りをしてもらう予定だったが想像していた以上に長く続いた。突発的なゲリラ豪雨のためそんなに長く続かないと思っていたため完全に予想外だ。
「ようやく止みましたけど外は完全に暗くなっちゃいましたね」
「ああ、もうすっかり夜って感じだな」
カーテンの隙間から窓の外を見ながら俺と入奈はそんな会話をしていた。冬よりは暗くなるスピードは遅くなったが夏であれば今の時間帯でもまだ明るいはずだ。
「家まで送りますよ」
「気持ちは嬉しいがそこまでさせるのは流石に気が引けるぞ」
「男には格好をつけたい事もあるんですって、それがまさに今です」
「そうか、そこまで言うならお願いしようか」
暗い夜道を入奈一人で帰らせて万が一何かあっては困るため家まで送るのは男として当然だろう。そんな事を思いながら部屋を出ようとしていると玄関の方から扉が開くような音が聞こえてきた。そして音の主はそのまま俺の部屋へとやって来る。
「帰ったわよ……って、その子は誰!?」
「玄関に知らない靴があったからわざわざ部屋まで来たのかと思ったら違うのかよ、この人は学校の先輩だ」
部屋にやって来たかと思えば入奈の姿を見て騒ぎ始めた母さんに俺はそう説明した。仕事終わりなはずなのにマジで元気だな。
「氷室入奈と申します、息子さんとは仲良くさせて貰ってます」
「へー、入奈ちゃんって言うんだ。あっ、せっかくだしうちで晩御飯を食べていったら?」
「えっ、いいんですか? 私の分まで作ると手間だと思いますが」
「大丈夫よ、普段から結構多めに作ってるし」
「母さんもそう言ってるので入奈先輩が嫌じゃなかったらどうですか?」
「じゃあお言葉に甘えさせて貰います」
このまま帰るのかと思いきや一緒に夕食を食べる事になった。とりあえず今から母さんが夕食の準備をするため一旦俺達は部屋に戻る。
「有翔のお母さんは何というかめちゃくちゃフレンドリーだな」
「母さんは昔からあんな感じですぐに誰とでもすぐに打ち解けられる人だから」
「私にはとてもじゃないが真似できそうにない」
確かに入奈と母さんは正反対なタイプだと思う。マジで出会ったばかりの頃の入奈は壁があまりにも厚すぎて仲良くなれそうな気がしなかったし。
そんな入奈と紆余曲折経て付き合って同棲までしたのだから凄いと思う。最終的には理由すらよく分からないまま振られたが。それからしばらくして夕食の準備が整ったため俺達はダイニングに行く。
「今日はカレーライスか」
「そうそう、明日食べる分まで作っておいたの」
「確かに日持ちするもんな」
今の母さんは正社員という身分では無いが結構ガッツリと働いているため夕食はこんなふうに数日分をまとめて作る事が多い。
前世とは違い今の俺はそれなりに料理が出来るため手伝おうかとも提案したが、学生なんだから勉強を頑張りなさいと言われて断られた。
もし俺の中身が高校生では無くアラサーのサラリーマンと母さんが知ったらどんな反応をするのだろうか。くだらない事を考えつつ俺達はダイニングテーブルに着く。
「それにしても有翔が
「連れ込むって言い方はなんかやらしく聞こえるから辞めてくれ」
そんな会話を母さんとしているとさっきまで黙って俺達のやり取りを聞いていた入奈がめちゃくちゃ警戒したような表情で口を開く。
「なあ、有翔。詩音とは一体どこの誰なんだ?」
そう口にした入奈は妙に迫力があった。もし嘘をついたら殺されてしまうのではないかと思ってしまうほどの威圧感がある。
「詩音は姉貴だ、さっき話した歳上の従姉妹の」
「そうか、従姉妹か……従姉妹とは結婚も出来るらしいし油断は出来ないな」
後半は何を言っているのかよく聞こえなかったがただならぬオーラが体から出ていて怖いので詳しく聞くのは辞めておこう。