「ところで入奈ちゃんは有翔からどんなふうに口説かれて家に連れ込まれたの?」
三人でカレーライスを食べ始めていると母さんはとんでもない事を入奈に聞き始めた。よく平然とそんな事を聞けるよなと俺は呆れる。
「どうせしばらく誰も帰ってこないから上がってくれって言われたような……」
「へー、まさか家に誰もいないアピールをして女の子を家に連れ込もうとするなんて中々やるわね」
「確かにそんな感じの事は言ったけどさ、いくらなんでも母さんは曲解し過ぎてだって。そもそも俺と入奈先輩は付き合ってないからな」
母さんは恋愛関係の話が大好きなので面倒くさい。ちなみに前世でも彼女が出来たと伝えた時は避妊だけはしっかりしなさいなどと平気で言ってきてたし。
「って事は付き合ってもいない女の子を有翔はホイホイ家にあげたんだ」
「母さんも知ってると思うけど午後に降ったゲリラ豪雨で全身びしょ濡れになったから助けるためにそうしただけだぞ」
「そ、そうです。有翔には下心なんて無かったと思います……多分」
「いやいや、そこはしっかり言い切ってくださいよ」
下手に含みを残すと母さんがまたそこをつっこんでくるから。そんな事を思ってると母さんはニコニコしながら口を開く。
「美人な入奈ちゃんと普通すぎる有翔は正直釣り合わないと思ってたけど案外お似合いじゃない」
「さらっと俺のメンタルに大ダメージを与えないでくれ」
「私と有翔がお似合い……」
俺は母さんに対して文句を言い入奈はいつものように自分の世界に入っていた。それにしても普段はいない入奈がいるからかいつも以上に食卓が盛り上がっているな。
父さんは基本的にめちゃくちゃ帰りが遅いので夕食は母さんと二人がほとんどなわけだし当然か。そんなこんなで始まった夕食も気付けば全員が食べ終わっていた。
てか、今更だけどそう言えば入奈と母さんって前世では一度も会った事がなかったよな。この家にも連れてきた時も毎回いなかったし。
入奈はまだコミュ障を発揮してぎこちない部分がありつつも母さんとはそこそこ楽しそうに話しているし二人の相性は悪く無いのかもしれない。
「そろそろ時間も遅いのでこれで失礼します」
「入奈ちゃんの事は気に入ったからまたおいで、いつでも大歓迎だから」
「じゃあ家まで送っていきます」
俺は入奈と一緒に家の外に出て、二人で入奈先輩の家を目指して歩き始める。雨は完全に止んでいるが地面のアスファルトはまだ濡れておりあちらこちらに水たまりも出来ていた。
「母さんが色々くだらない事ばかりしてごめんなさいね」
「全然大丈夫だ、むしろ元気そうで安心したよ」
「安心?」
「ああ、最後に会った時は酷くやつれていたからな」
入奈はそんな言葉を口にしたがちょっと意味が分からなかった。母さんと入奈は今日初めて会ったのではないだろうか。俺が怪訝そうな顔をしていると入奈はハッとした表情で口を開く。
「あっ、会ったというのは私の一方的な話だ。結構前にこの近所にあるスーパーで見かけた事があってな」
「ああ、なるほど。確かに母さんは近所のスーパーには入り浸ってますし見かけてもおかしくはないですね」
それに母さんは結構特徴的で一度顔を見たら忘れられないなどと他人から言われたりしている。結構前というのが具体的にはいつなのかは分からないが流石の母さんでも体調が悪かったりする事もあるので多分ちょうどそのタイミングでエンカウントしたのだろう。
「やっぱり元気なのが一番だ」
「そうですね、そこが良くないと人生が楽しくなくなりますし」
「有翔も体調管理にだけはしっかり注意するんだぞ万が一命に関わるような病気になったら目も当てられないからな」
何故だか分からないが入奈の言葉には妙に説得力があった。もしかしたら入奈の身近にそういう人がいたのかもしれない。
俺に関しても前世では極度の睡眠不足と疲労が原因で過労死した可能性が高いわけだし、せっかくやり直せたのにまた死ぬのは勘弁して欲しいので健康管理にはマジで注意しようと思う。