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第二十五章 影

本日の予定

「今日は研究所で一般公募の研究発表会があるのですが、皆様もご見学に参りませんか?」

 プラナム家の食堂にて。朝食を食べ進めていたところに、プラナムさんが今日の予定を提案してくれた。


 一般向けの研究発表会というのは興味深い。

 あったら便利だと思う物、欲しい物が形となって出てくるので、僕たちにも大きな学びがありそうだ。


「どんな題材で発表が行われるんですか?」

「今回は四種類から自分の得意とする物を選び、それについて発表するという形を取っております。さすがに何でもかんでも引き上げるというのは、我々としても難しいので」

 話によると、今回は生活、医学、通信、未来技術の四分野から発表が行われるとのこと。


 僕の研究も、レイカに協力してもらってから一気に進んだので、様々な人から意見を引き上げるのは良いことだろう。


「行ってみたい」

 レンが率先して手を挙げる。


 彼につられ、レイカとナナも手を挙げていく。


「どんな作品が集まってくるのか、ぜひ見てみたいですね」

「もちろん、私も行きます!」

 家族が行きたいというのであれば、僕が反対する理由は微塵もない。


 研究発表会、ぜひとも見学させてもらおう。


「ええ、歓迎いたしますわ! 研究成果が展示されるのは午後からとなります。時間になったら使用人に運んでもらうよう言いつけておきますので、それまではご自由にお過ごしくださいませ!」

 プラナムさんの言葉でこの話題は終了となり、食事が再開される。


 賑やかな食事の時間も刻々と終わりの時間へと進んでいく中、最初に食器を置いたのはレイカとレンだった。


「ごちそうさまでした。辛いですけど、美味しかったです!」

「ごちそうさまでした。舌がピリピリする」

「ふふ……。毎食、ありがとうございます。ただ、辛さにはもう少し気を配るよう、うちのコックに伝えておかねばならないようですわね。わたくしたちにとっては問題なくとも、皆様にとっては刺激が強いとなると、故郷に戻られた時が大変ですわ」

 僕たちが連日味わっている料理たちは、かなり刺激が強い。


 数々の香辛料が素材たちの旨味を引き上げているのは確かなのだが、穏やかな味付けが好まれる『アヴァル大陸』の料理と比べてしまうと食べにくい。

 僕たち向けに味付けを変えてくれており、最初と比べると食べやすくなっているのだが、姉弟の舌にはまだ刺激が強いようだ。


「そういえば、『アヴァル大陸』の料理を食べてもらった時、プラナムさんは料理に香辛料をかけていましたよね。ところ変われば食習慣も変わるとは言いますが……。故郷の味が最高ってことなんでしょうね」

「ええ、そうだと思いますわ。ふむふむ、いままでは特に気にしていませんでしたが、地域や種族ごとの好みを研究してみるのも面白いかもしれませんわね。万能の調味料を生み出すきっかけになるかもしれませんわ」

 プラナムさんは食事を終わらせると、どこからともなくメモ帳を取り出して現在の出来事を記入していった。


 こういった何気ない会話からも、研究に繋がる何かが見つかるのだろう。

 そうこうしているうちに皆の食事が終わりに至り、執事の皆さんが食器を片付けていく。


 食事の感謝を述べた後、休憩のために自室へと向かおうとしていると。


「そうそう、忘れておりました。研究所に移動した際に、ミスリル容器へ魔力の補充をお願いしてもよろしいでしょうか? 研究をしている間に少なくなってしまったので」

「分かりました。じゃあ、ついてすぐに作業をさせてもらいますね」

 返答に嬉しそうにうなずいたプラナムさんは、出かける支度を始め、研究所へと出かけていく。


 シルバルさんもついて行ってしまったので、時間になるまでは僕の家族だけで過ごすことになりそうだ。


「お兄ちゃん、ナナさん。時間があればでいいんだけど、レンの部屋に来ない?」

「うん、行かせてもらうよ。でも、急にどうしたんだい?」

 二人が僕たちの部屋に来ることはいくらでもあるが、自分たちの部屋に来て欲しいと言い出すことは珍しい。


 年頃ということもあって、踏み込まれることを恥ずかしく思ってしまうのだろうが、今日はどうしたのだろうか。


「地底湖の絵を描くのを手伝ってほしい。どんな色だったか曖昧な部分があるし、色使いとかも苦戦してて……」

「なるほど、確かにあの景色を表現するのは難しいかもね。じゃあ、行かせてもらおうかな」

「私も行かせてもらうね。お店で買ってきたボードゲームを持っていくから、作業が終わったらみんなで遊ぼうよ」

 話し合いの結果、午前はレンの絵描きの手伝いを、午後はオーバル研究所に向かい、研究発表会の見学をすることに決まった。


 予定通り彼の部屋に集合した僕たちは、地底湖の絵の製作に取り掛かる。

 ある程度描き終わったところで、残りは自分の手で描きたいとレンが言い出したので、ボードゲーム等で遊びながら約束の時間までを過ごすのだった。

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