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第三十三章 モンスター勉強会

新たな活動

「気持ちがいい日差しだねぇ……。このままお昼寝したくなっちゃうよ……」

「ワウ~……」

「キャウ~……」

 晴天のアマロ地方。自宅からもアマロ村からも少し離れた場所に生えている木の下で、僕、スララン、ルト、コバの一人と三匹はまどろんでいた。


 夏に近づいてきた強い日差しと、春の少し冷たい風が心地よい。

 穏やかな時間を楽しんでいたその時、喧噪と共に彼らはやって来た。


「みんなー! この辺りは、湖で遊んでいたスライムたちが休憩しに来ることがあるんだ~。せっかくだし、探してみよー!」

「わ~い! スライムさんたちどこかな~?」

 アマロ村の学校に通う子どもたちと、そんな彼らを引率していた、村長さんの孫娘ユールさんだ。


 どうやら今日は、課外授業を行っていたらしい。


「あ! スラランだー!」

「ルトとコバもいるよ! ソラお兄さん、こんにちはー!」

 子どもたちはこちらの存在に気がつくと、本来の目的などすっかり忘れ、モンスターたちと共に遊び出してしまった。


 邪魔をしたことをユールさんに謝罪し、モンスターたちを連れてその場を離れようとしたのだが。


「お気になさらず! これも授業の一環になりそうなので!」

 アマロ村には学校があるが、必ずしも専門の教師がいる訳ではない。


 そのため、村人たちの中から各分野に詳しい人物を選出、もしくは立候補をして子どもたちに勉強を教えているのだ。

 今日はたまたまユールさんが担当者となって、この場所を訪れたのだろう。


「授業の一環かぁ……。いまは何の授業をしているんだい?」

 僕の質問に、ユールさんは瞼を閉じ、口角を上げて笑みを浮かべる。


 再び瞳が現れた時、とても彼女らしい言葉が返って来た。


「それは……スライム勉強会です! スライムたちの生態や暮らしを学び、共生するための! 去年の満月祭が行われた時より距離が縮まってますし、ここらで一回お勉強するのも良いと思いまして!」

「なるほどね。最近スライムたちと遊ぶ子どもが増えたって聞いてたから、ちょうどよさそ――」

 そこで脳裏に一つの案が浮かび上がる。


 無暗矢鱈に近寄ったりしないよう、僕がスライムたちへの接し方を教えれば良いのではないか。

 同時に他のモンスターへの啓蒙も行えば、モンスターから人への被害を大きく減らせるかもしれない。


「ユールさん。もしも次回同じような授業をすることがあったら、僕にも教える役をさせてもらえないかな?」

「教師の代役を担ってくれる方はいつでも大歓迎ですよ~。毎度、毎度、専門の学者様を雇えるわけじゃないですからね。で、何を子どもたちに教えるつもりですか?」

 思いついたことを説明すると、ユールさんも乗り気になったらしく、掛け合ってみると言ってくれた。


 せっかく教える立場になるというのに、子どもたちを退屈させてしまうのでは忍びない。

 好奇心と興味を持って授業を受けてもらえるよう、準備をしておかなければ。


 いまはまだ、あの子たちもここにいる。

 新たな経験にもなる上に、交流の場に繋がるはずだ。


「おっと、いつまでも遊ばせてちゃいけませんよね。私は授業に戻りますが、可能であればスラランをお借りしても良いでしょうか?」

「もちろん。スライムの授業なら、彼が一緒に居た方が分かりやすいはずだしね」

 授業を再開したユールさんと、その助手を務めることになったスラランと別れ、ルトとコバを連れて帰宅する。


 家に入り、リビングに顔を出すと、そこにはレイカ、ミタマさん、イデイアさんの女子三人組が楽しそうに会話をする姿があった。

 テーブルの中心にボードゲームが置かれているところを見るに、少し前まで遊んでいたのだろう。


 ミタマさんとイデイアさんの二人は、『アディア大陸』に出かけていた僕の代理として、アマロ村の守護任務にやって来ている。

 まだ任期期間が残っているので、レイカを含めた三人で任務、修行、交流を繰り返しているのだ。


「ただいま。楽しそうだね、三人とも」

「あ、お兄ちゃん。帰ってきてたんだ」

「お帰りなさい。ソラさんが帰ってきたってことは、今度はウチらが見回りの番だね」

「そうなるな。当然、レイカもついてくるんだろう?」

 うなずき合った少女たちは、座席から立ち上がり玄関へと向かおうとする。


 そんな彼女たちを呼び止め、新たな活動へ協力してくれないかと打診すると、レイカは一も二も言わずに、ミタマさんとイデイアさんも協力してくれると言ってくれた。

 子どもたちがモンスターたちと遊んでしまうという話を、アマロ村の人々から聞いていたため、何かしたいという気持ちを抱いていたようだ。


「じゃあ、見回りがてら村の人たちからお話を聞いてこよう! 何をするにも情報は必要だし!」

「だな。では私は大人たちから話を聞いてくるとしよう」

「ならウチは子どもたちからかな~。レイカちゃんは、教師役をしたことがある人から話を聞いてきて!」

 僕が何を言うでもなく、役割分担を始めた少女たちは、大きくうなずき合ってから家の外に飛び出していった。


 そんな彼女たちの見送りを終えた後、自室へと入り、モンスターたちの情報を記してきたいくつもの書類を封筒の中から取り出す。

 いままさに行われている作業だというのに、最初の方に作ったいくつかの資料を見ただけで、懐かしさが心の中にあふれ出してくる。


「蓄えてきた知識が、こういう形でも発揮できるなんてなぁ……。さて、僕ももう一度出かけてきますかね」

 新たな活動をしたいという旨を、相談しておかねば。


 本来は秘匿とされるべき活動を、アマロ村に住む人たちのために流用しようとしているのだから。


「僕たちだけがモンスターたちのことを知ってたって意味はない。多くの人に譲ってこそ、一つの知識になるんだから」

 資料と共に、家の玄関から外に出る。


 目的地はアマロ村の冒険者ギルド。

 話をする相手は、僕専属のマネージャー、エイミーさんだ。

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