「お待たせしました! わざわざご足労いただき、申し訳ありません! あなたのマネージャー、エイミーです!」
アマロ村冒険者ギルドの会議室にて。出されたお茶を飲みながら一息ついていると、僕の専属ギルドマネージャー――エイミーさんが、元気よく室内に入ってきた。
『アディア大陸』から帰還した旨を報告した日からそれほど経っていないが、特に変わりはないようだ。
「本日はどうされました? モンスター図鑑の定期会議はまだ先ですけど。もしかして、私に会いたくなっちゃったんですか~?」
「ええ、実はお願いがありまして。細々としたお話は前回してますし、早速本題に入りましょうか」
雑談もそこそこに、今回訪れた目的を伝えていく。
マネージャーという職業柄会話慣れしているエイミーさんは、相槌を入れたり、表情を変えたりしながら話を聞いてくれる。
だいぶ話慣れている相手だが、こういった小さな気配りを入れてくれるのは本当にありがたい。
依頼を遂行している側としては、提案や質問をしにくく感じるのでは作業もままならない。
その点彼女は、時に喜び、時に怒りながら、時に哀しそうに、時に楽しそうに話を聞いてくれるので、困った時や何か思いついた時は相談してみようという気持ちが強く湧くのだ。
「なるほど、なるほど。集めてきた知識を利用して、勉強会を開催したいと。確かに、これまでの活動を図鑑だけに使うのはもったいないですもんね。分かりました! 上層部への申請はお任せください!」
早速エイミーさんは申請書を取り出し、僕からの要望を記載してくれる。
冒険者ギルドが許可を出してくれるのを待ち、その間に勉強会の準備を進めて行けばいい。
許可を出されなかったとしても、集めた知識を利用せずに啓蒙活動程度はできるはずなので、問題はないだろう。
「これでよし! 明日ギルド本部に向かう予定だったから、今日来てくれたのはちょうど良かったよ。出かけちゃった後だったら、申請が遅れて勉強会の開催に影響が出ちゃうかもだもんね!」
「そうだったんですか。じゃあ、逆に申請が早く通る可能性もあると。近い内に海都に帰らねばならない子たちにも協力をお願いしていたので、助かりますよ」
エイミーさんは笑顔でうなずいてくれた。
せっかくミタマさんたちも協力すると言ってくれたのに、こちらの行動が遅かったせいで参加させてあげられなくなるのは可哀想だ。
「申請理由はモンスター図鑑の完成度を上げるため、一般の人々からの反応を見たい。こんなところで良さそうかな。ソラ君から書いておいて欲しいこととかある?」
「それで十分です。あ、でも、冒険者の方々用にも何かしらの施策を考えていることは書いた方が良いのかな?」
それからしばらくは申請をするための詰めが行われていく。
絶え間なく会話が続けられ、頭を回転させ続けたせいか、小腹が空いてきた気がする。
書類の記入欄全てに文字が記入されたタイミングで時計を見ると、時刻は三時を回ろうとしていた。
帰宅したら、何か甘い物でも食べたい気分だ。
「完、成! 質問とかなければ会議はこれで終わりかな。大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。じゃあ会議はここまでにするとして、僕は帰宅し、勉強会の準備を進めようと思います」
会議室の席から立ち、冒険者ギルドの出入り口に移動する。
エイミーさんは僕の見送りをするつもりらしく、後を付いてきていた。
「突然の来訪及び、長時間お手を煩わせてしまい申し訳ございませんでした」
「ふふふ、気にしないでください。拝領した申請書は、必ず上層部へ送らせていただきます。それじゃ、またね! ソラ君!」
「ええ、また。いつでも遊びに来てくださいね」
別れの挨拶を交わした後、エイミーさんに手を振りながらギルドの外に出る。
道の中央に立ちながら村を見渡すと、いくつかの家屋についている煙突から白い煙が出ていることに気付く。
子どもたちのために、お菓子を作ってあげている家庭があるのだろう。
「もう、レイカたちは見回りを終えたかな。せっかくミタマさんたちもいるわけだし、彼女たちが喜びそうなお菓子を買って帰ろうか」
少女たちが好みそうなお菓子を想像しつつ、食品店へと足を踏み入れる。
色取り取りのそれらを物色した後、アマロ村さんの果実をふんだんに使ったゼリーを購入するのだった。