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勉強会に向けて

「大人たちから話を聞いてきたが、やはり不安という声が多いようだ。特に幼い子どもがいる親ほどその傾向が強く見られたな」

「我が子のことだからねぇ。どうしても警戒心は強くなるはずだよ」

 自宅にて。イデイアさんが集めてきてくれた情報に耳を傾けながら、大人が抱いた感情について思考を巡らせる。


 親になったことがない僕では分からない部分が多いが、幼い頃のレイカたちがモンスターに近づいたらと考えると、忌避感は容易に浮かび上がってきた。

 モンスターという不確定要素がある存在に、我が子を近づけさせたくないと親が考えるのは、ごく自然のことだろう。


「レイカとミタマさんの方はどうだった?」

「私は教師役を担当した人たちに、どんな授業をするべきか聞いてきたよ。モンスターのお勉強をしたいなら、間近で見られる野外学習の方がいいはずだって。もちろん、安全面の準備をしっかりして……ね」

「私は子どもたちに。モンスターとお友達になりたいって言う子が多かったですね~。無邪気で可愛らしかったですけど、危なっかしい一面も感じました」

 それぞれの報告を脳内で整理しつつ、皆が受け入れられる授業を考える。


 野外学習は僕も賛成だ。

 子どもたちも窮屈な室内での勉強より、外に出た方が好奇心を持って勉強ができるはず。


 ただ、モンスターに大きく近づく可能性があるため、親たちからは反発が出ることもあり得る。

 お互いが安心し、モンスターの知識を過不足なく得られる授業をするには、どうすればいいだろうか。


「モンスターに関しては、大人も子どもも目をそらしていい存在ではないだろう。単に授業で収めるのではなく、全ての人を対象にした講義や勉強会という形にした方が良いのでは?」

 イデイアさんの出してくれた案を、あごに手を当てて精査する。


 特に子どもには危険性を教える必要があるが、大人にも無暗に怯える必要が無いことを教えなければならない。

 そのためには親子で勉強会に参加してもらい、モンスターのことを知ってもらうのが一番だろう。


「どっちかだけに教えて、認識のズレができちゃったら、親子で喧嘩をするなんてこともありそうだもんね。私はイデイアちゃんの案に賛成!」

「ウチもさんせー。モンスターへの対処法を教えておけば、ウチら魔法剣士がいない時でもある程度なら問題を回避できるようになるはず。魔法剣士の理念も守れるよね。ソラさんはどうお考えですか?」

 それぞれ意見を出し終えた少女たちが、こちらに視線を向ける。


 僕の意見の大部分は彼女たちと同じだ。

 だが、子どもだけでなく大人も含めるとなると、参加人数は倍以上に膨らむ可能性もあり得るだろう。


 多くの人が知識を持つことは大切だが、参加者が多すぎては教えるべきことも教えられなくなってしまう。


「メインの講義は僕がするとして、あとは数名ずつのグループに分かれて教えていけば何とか……かな。そうなると四人はちょっと心もとないか……」

「ナナお姉ちゃんやレンにもお手伝いをお願いすれば……。ユールさんもスライム関連なら協力してくれるはず?」

 ナナやレンであればモンスターに対する知識があるので、協力してくれれば非常に心強い。


 ユールさんの知識は偏りがあるとはいえ、スライム関連であれば僕たち以上のものがあるので、誰かが様子を見てさえいれば無茶苦茶な説明をすることもないだろう。


「七人か……。うん、これなら何とかなるかな」

 あとは各々が教える担当を決め、講義をしておけばいい。


 僕はそれぞれが教えている様子を見守りつつ、補足を入れていくのが一番だろうか。


「問題としては、モンスターのことを教えるための資料が無いことですよね……。ソラさんたちはこの土地に長くいるから知識はあるかもしれませんが、ウチらは……」

「ああ、それなら問題ないよ。僕たちが書き連ねてきた資料があるから。持ってくるからちょっと待ってて」

 自室へと戻り、アマロ村周辺のモンスター情報を記した資料のみを手に取る。


 それを持ってリビングへと戻り、ミタマさんとイデイアさんへ渡すと。


「こんなにたくさん……。これ、ソラさんが作ったんですか?」

「ううん、僕だけじゃないよ。ナナも、レイカも、レンも。僕たち四人、それとあと一人の協力で作ってきた物なんだ。その中から教えたいモンスターを選んでくれるかい?」

 二人は驚く様子を見せながら、渡された資料をかじりつくように読みだした。


 本来は、まだ部外者には秘匿にしておくべき情報であり、見せてはいけない情報たちだ。

 だが、このような機会に恵まれたからこそ、僕とナナが最初に抱いた目的通りになるか確認しなければならない。


 一つの村で目的を達成できないのであれば、大陸全土に行き渡らせることなど夢のまた夢だ。


「私もお兄ちゃんと一緒に色んなモンスターを調べてきたけど……。せっかくだし、一緒に住んでるルトたちの説明をしよっと!」

「ウチは……。うん、大人しそうなこの子にしようかな?」

「ならば私は、危険性があるモンスターを選ぶとするか。全員が全員、大人しい存在を選んでも意味はないからな」

 早速少女たちは、資料を読みながら勉強を始めだす。


 メモに要点を纏め、家の外に出てモンスターたちの様子を調べ、僕に質問をする。

 選んだモンスターたちの情報を、彼女たちは各々の形で吸収していくのだった。

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