「それじゃ、コバたちコボルトの能力をお勉強しましょう! この周辺にとある珍しい石を埋めたんですけど、それをコバと一緒に探してほしいんです! 誰か、やってみませんか?」
「僕やってみたーい。コバと歩き回れば良いんだよね?」
見つめる先では、レイカが村人たちにコボルトの生態を教えている。
現在は、彼らが有する鉱石の探索能力を説明しているようだ。
「よ~し! 行こう、コバ!」
「キャウ! ウ~……」
コバを連れた少年が、草原をトコトコと歩き回っている。
しばらくしてコバは足を止め、地面を掘るような仕草を始めた。
「キャウ! キャウ!」
「ここをほればいいの? どれ、どれ……。あ! きれいな石が出てきた! レイカお姉ちゃん! 見つけたよー!」
「ちゃんと見つけられたみたいだね! このように、コボルトたちには鉱石を見つける能力があるんです。この能力を使って、オーラム鉱山はさらに業績を上げているんですよ!」
レイカは、僕と同じようにデモンストレーションを交えての説明を行っているようだ。
目論見は上出来らしく、子どもも大人も楽しそうに話を聞いている。
「あそこにいるのはウルフェンと呼ばれるモンスター。コボルトと似た容姿をしているが、毛が茶色く、少し小さい。人に襲い掛かることもある獰猛なモンスターなので、決して近づかないように」
別の場所では、遠眼鏡を利用しての説明がイデイアさんの元で行われている。
少々硬い性格をしている彼女の話しぶりにより、モンスターの観察をしている村人たちの間には緊張感が走っているようだ。
危険性が高めのモンスターなので、あれくらいがちょうどいいだろう。
「月夜ウサギは名前の通り、夜にしか出てこないんですよね~。実物を見るのは難しいので、木彫りのお人形を用意してもらいました! これを使って、解説していきますね~」
ミタマさんのゆっくり目の話し方によるものか、彼女が講義をしている空間は和やかな空気に包まれていた。
夜にしか現れない珍しいモンスターということで、解説を聞きに来ている人の数は多いが、特に女の子が多く集まっているように思える。
レンが作ってくれた、精巧な月夜ウサギの木彫り人形に惹かれたのだろうか。
「いまのところ、どこも心配はなさそうかな。ナナとレンもうまくやれているみたいだし」
少女たちも家族たちも、思い思いの方法で講義を行ってくれている。
勉強会の進行はうまく行っていると見てよさそうだが、この場は野外。
最後まで気を抜くことはせず、注視しなければ。
「スライムの特徴は、一に可愛さ、二にプニプニ感、三に人懐っこさ、四に大人しいことがあげられます! つまり、人と共に暮らせる可能性が高いモンスターなのです! ほら、皆さんもスライムを飼いたくな~る、飼いたくな~る」
一方のユールさんはと言うと、どこか洗脳じみた解説を行っていた。
村人たちがスライムを飼うようになれば、自分も飼う許可を得られるかもしれないという魂胆でもあるのだろう。
注意をすべきかもしれないが、スライムたちの習性等はきちんと説明してくれているので、どうにも口を挟みにくい。
「それでは、スライムの能力を見てもらいましょう! スライムさんたち、お願い!」
ユールさんの目の前には、汚れた水が入ったバケツが置かれている。
水は茶色く濁っており、底は全く見えない。
その中に何匹かのスライムが飛び込み、渦を巻くようにゆっくりと泳ぎ出す。
すると汚れていたはずの水がみるみるうちに透明になっていき、底まで見えるようになってしまった。
「これがスライムの浄化能力です! いざという時、飲み水を用意する際にも役立ってくれますよ!」
水の浄化を終えたスライムの体は、ほんの少し汚れているように見える。
スライムたちは地面に降り立つと、汚れた水だけを大地へと還し、再びバケツの中へと飛び込んでいった。
綺麗になった水を給水し、水面にぷかぷかと浮かぶ彼らの姿は非常に愛おしい。
「この能力だけは僕も理解できなかったんだよね……。どうやって汚れを吸着しているのか、どうやって汚れだけを体内から取り出しているのか……」
「こういうものなんですよ。スライムはスライムだから水の浄化ができる。人や自然の助けになっている彼らを、ありのままに愛してあげればそれで十分です」
調べている側としては、分からないというのは非常に歯がゆいものがある。
いつかの未来、スライムの浄化能力についての解析が終わり、詳細が書き記されることになると良いのだが。
「それより、お勉強会の方を続けないといけませんよね! ソラさん、お手伝いをよろしくお願いします!」
「了解。それじゃあ、今度はスライムの生態について説明してもらおうかな」
日が傾き、大空がオレンジ色に染まるまで、モンスター勉強会は続いて行く。
最後に今日の振り返りを村人たちにしてもらい、会はお開きとなるのだった。