「ここは……? 僕は、何をしてたんだっけ……?」
暗い、昏い、闇よりも深い黒が一帯を包んでいる。
見上げると星々が光を放っているというのに、明かりが周囲を満たしていかない歪な空間。
僕はなぜ、こんな場所にいるのだろうか。
「誰もいない……。僕一人っきり……」
こんな寂しい場所だというのに、知っている人は誰もいない。
魔法剣士のみんなも、旅で出会った仲間たちも、レイカとレンも、ナナも――
「歩いていたら、何か見つかるかな……。ここから出る方法、みんなに会う方法……。ナナ……」
闇に向け、一人歩き出す。
小さくとも天上には光がある。
ここから抜け出すための方法は必ずあるはずだ。
「飛空艇で空を飛んで、『インヴィス空中大陸』に僕たちはたどり着いた。リリパットのパロウ君と風狼フェンリル様に出会い、大陸の最東端の大地へと降り立って、そこで――」
ティアマットを倒そうとするウェルテ先輩と再会し、剣を交えた。
僕の出生の秘密を彼女から聞き、心を砕かれかけつつも、新たに現れた『聖獣』、光竜バハムート様と協力し、狂いゆくティアマットに攻撃を仕掛けた。
攻撃は命中し、倒せたと思いきや――
「……そうだ、僕はナナをかばってティアマットの尾に胸を貫かれ、意識を失ったんだ。となると、ここは……その後の世界?」
そんなものがあるのかは分からないが、ここがその後の世界であるというのなら、僕はあの瞬間に命を落としたことになる。
だが、こんなに寂しい場所が、本当に命を落とした人々が住む世界なのだろうか。
「はは……。失敗はたくさんしてきたけど、悪いことはしてこなかったと思うんだけどな……」
何も見えない暗闇を、ブツブツと呟きながら歩き続ける。
まるで自分が自分に話しかけているような感覚に陥り、気分が悪くなってきた。
代わりに口数を減らしてみるも、今度は気が触れそうになる。
聞こえてくるのが自分の足音と自分の声だけなのが、こんなにも辛いとは。
風が吹く音、草が揺れる音くらいでもいいから、自分以外の何かが発する音を聞きたい。
「君たちの声が聞きたい。君たちに会いたい。君たちの笑顔が見たい」
小さかったはずの欲望は肥大化し、心が張り裂けそうになる。
だが、僕の声は誰にも届かない、どこにも届かない。
「君と喋りたい。君と笑い合いたい。君と旅を……」
心と体が限界を迎え、足がもつれて暗闇に倒れこむ。
うつ伏せの状態から仰向きになるように寝転がり、天上を見上げる。
僕を照らしてくれていたはずの星々は消え去り、完全なる闇が僕を見下ろしていた。
「照らしてくれる星ももうない……。このまま闇に消えるのかな……」
疲れ切った体に、穏やかな眠気が襲ってくる。
このまま瞼を閉じれば、安らかに眠れそうだ。
「ごめん、みんな……。何も言えずに、勝手にこんな場所に来ちゃって……」
誰の耳にも入らない謝罪を闇に向かって放ち、瞼を落としていく。
呼吸音も小さくなり、自分が発する音すら聞こえなく――
「おーい、眠るんじゃなーい。ここで寝たら、二度と起きられないぞー」
「……え?」
どこからともなく、僕以外の声が聞こえてきた。
体は一気に覚醒し、跳ねるように起き上がる。
だがやはり、周囲には闇が広がるばかりであり、自分以外の人の姿などどこにもない。
「一体どこから……? 気のせいじゃな――」
「お、中にいい感じの体があるじゃないか。ちっとばかし、貸してもらうかな」
「え? え、え!? なんだ!?」
突如として胸のあたりが光だし、球体状の何かが抜け出て行く。
抜け出たそれは少しずつ形を変えていき、これまでに何度も見たことがある、されど一度として見たことが無い形に変化する。
白い髪に白い角、光の球が変化したのは――
「ぼ、僕……!?」
身長も体格も、顔の構造すらも全く変わらないが、なぜかホワイトドラゴンの特徴を有している僕の姿だった。