目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第三十九章 新たな脅威に向けて

暗闇の中

「ここは……? 僕は、何をしてたんだっけ……?」

 暗い、昏い、闇よりも深い黒が一帯を包んでいる。


 見上げると星々が光を放っているというのに、明かりが周囲を満たしていかない歪な空間。

 僕はなぜ、こんな場所にいるのだろうか。


「誰もいない……。僕一人っきり……」

 こんな寂しい場所だというのに、知っている人は誰もいない。


 魔法剣士のみんなも、旅で出会った仲間たちも、レイカとレンも、ナナも――


「歩いていたら、何か見つかるかな……。ここから出る方法、みんなに会う方法……。ナナ……」

 闇に向け、一人歩き出す。


 小さくとも天上には光がある。

 ここから抜け出すための方法は必ずあるはずだ。


「飛空艇で空を飛んで、『インヴィス空中大陸』に僕たちはたどり着いた。リリパットのパロウ君と風狼フェンリル様に出会い、大陸の最東端の大地へと降り立って、そこで――」

 ティアマットを倒そうとするウェルテ先輩と再会し、剣を交えた。


 僕の出生の秘密を彼女から聞き、心を砕かれかけつつも、新たに現れた『聖獣』、光竜バハムート様と協力し、狂いゆくティアマットに攻撃を仕掛けた。

 攻撃は命中し、倒せたと思いきや――


「……そうだ、僕はナナをかばってティアマットの尾に胸を貫かれ、意識を失ったんだ。となると、ここは……その後の世界?」

 そんなものがあるのかは分からないが、ここがその後の世界であるというのなら、僕はあの瞬間に命を落としたことになる。


 だが、こんなに寂しい場所が、本当に命を落とした人々が住む世界なのだろうか。


「はは……。失敗はたくさんしてきたけど、悪いことはしてこなかったと思うんだけどな……」

 何も見えない暗闇を、ブツブツと呟きながら歩き続ける。


 まるで自分が自分に話しかけているような感覚に陥り、気分が悪くなってきた。

 代わりに口数を減らしてみるも、今度は気が触れそうになる。


 聞こえてくるのが自分の足音と自分の声だけなのが、こんなにも辛いとは。

 風が吹く音、草が揺れる音くらいでもいいから、自分以外の何かが発する音を聞きたい。


「君たちの声が聞きたい。君たちに会いたい。君たちの笑顔が見たい」

 小さかったはずの欲望は肥大化し、心が張り裂けそうになる。


 だが、僕の声は誰にも届かない、どこにも届かない。


「君と喋りたい。君と笑い合いたい。君と旅を……」

 心と体が限界を迎え、足がもつれて暗闇に倒れこむ。


 うつ伏せの状態から仰向きになるように寝転がり、天上を見上げる。

 僕を照らしてくれていたはずの星々は消え去り、完全なる闇が僕を見下ろしていた。


「照らしてくれる星ももうない……。このまま闇に消えるのかな……」

 疲れ切った体に、穏やかな眠気が襲ってくる。


 このまま瞼を閉じれば、安らかに眠れそうだ。


「ごめん、みんな……。何も言えずに、勝手にこんな場所に来ちゃって……」

 誰の耳にも入らない謝罪を闇に向かって放ち、瞼を落としていく。


 呼吸音も小さくなり、自分が発する音すら聞こえなく――


「おーい、眠るんじゃなーい。ここで寝たら、二度と起きられないぞー」

「……え?」

 どこからともなく、僕以外の声が聞こえてきた。


 体は一気に覚醒し、跳ねるように起き上がる。

 だがやはり、周囲には闇が広がるばかりであり、自分以外の人の姿などどこにもない。


「一体どこから……? 気のせいじゃな――」

「お、中にいい感じの体があるじゃないか。ちっとばかし、貸してもらうかな」

「え? え、え!? なんだ!?」

 突如として胸のあたりが光だし、球体状の何かが抜け出て行く。


 抜け出たそれは少しずつ形を変えていき、これまでに何度も見たことがある、されど一度として見たことが無い形に変化する。

 白い髪に白い角、光の球が変化したのは――


「ぼ、僕……!?」

 身長も体格も、顔の構造すらも全く変わらないが、なぜかホワイトドラゴンの特徴を有している僕の姿だった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?