日本中を揺るがしたモンスター襲撃の翌日から、ダンジョン対策本部は九州と中国地方の日本海側にダンジョン対策部隊を派遣する。
しかし、防衛範囲が広すぎるため重要地点に精鋭を配置、その他の街に上級、中級、初級部隊を派遣するが。
初級は監視と避難誘導のみ。
飛行モンスターのため、中級部隊でも強力な遠距離攻撃を持たない部隊は倒すのは困難と思われた。
海上自衛隊も監視のため多くの艦艇が日本海側のEEZに派遣する。
数週間は襲撃も無くゆったりとしていた。
そのため派遣規模の縮小も検討され始める。
………………
そんなある日。
複数の離れた場所に居た艦船のレーダーに飛行物体が映る。
緊急発進で哨戒ヘリコプターが現地に飛ぶ。
遠目からモンスターを確認し母艦に報告する。
報告と共にリアルタイム映像を見ていた母艦から海上自衛隊にモンスターの襲来を報告する。
その間、不用意に近づいた哨戒ヘリコプターがモンスターから魔法攻撃を受る。
初撃を受けても衝撃だけだったが、退避が間に合わずに集中魔法攻撃を受けて撃墜されてしまう。
敵モンスターの飛行速度は速く艦艇では追いつけない。
遠すぎて反撃方法は艦対空ミサイル以外無かった。
今までは陸地より遠い海上にモンスターの発見は無く、モンスター撃退に海上自衛隊の活躍は無かった。
さらに、高空(最低でも200メートル以上)を常に飛ぶ大きなモンスターは居なかった為、航空自衛隊の活躍も無かった。
仮に高空を飛ぶモンスターが居ても、空対空ミサイルの様な高火力を国内では使えない。
同じ様に高火力の機関砲も国内では使用できなかった。
撃墜された哨戒ヘリコプターの母艦から海上自衛隊本部に、反撃するため艦対空ミサイルの使用許可を願う。
しかし、隣国と近いEEZ内で艦対空ミサイルを使うのは隣国との国際問題に成りかねない。
自衛隊上部に連絡されるが、上層部も決断できず防衛大臣に連絡が行く。
防衛大臣も単独で決断ができず、緊急閣僚会議を招集。
少ない人数の緊急閣僚会議が開かれ、会議の結果。
1、外れても日本のEEZ内に落ちる事。
2、日本の陸地方向には撃たない事。
3、他の船舶がいる方向に撃たない事。
を条件に攻撃許可を行う。
しかし、発見から数時間が過ぎていた。
ーーーーーー
少し時が戻り。
海上自衛隊本部に報告が行くと同時にダンジョン対策本部と警察に連絡される。
少数モンスター8グループが別々の場所と方向で日本を目指し、早くてても1時間、遅くとも2、3時間で日本に上陸すると連絡される。
また、発見されないモンスターも居る可能性があると報告された。
上陸方向は分かるが正確な場所は予測できなかった。
暫定的に海上自衛隊艦艇がモンスターを追跡し始める。
しかし、モンスターが低空を飛ぶとレーダーに映らないため正確な情報を出せなかった。
警察から日本海側の市町村に連絡され、緊急避難放送が行われる。
警察としては少しでも被害を減らすため、広い地域に連絡する。
そして警察の誘導により避難が開始されるが、1、2時間程度で数十万や百数十万都市の避難が出来るはずもない。
一時避難場所として強固なビルや倉庫や地下室が活用される。
だが、全ての人が避難できる収容人数は無かった。
車で内陸避難を目指す人達が居たが、渋滞が重なり車の移動が困難になる。
ダンジョン対策本部も悩んでいた。
戦力を予測上陸地点に集中した場合、発見されないモンスターグループの襲撃に無防備になる。
海上自衛隊の艦艇で発見できる範囲は艦艇の近傍、モンスターが大きく高く飛ばない限り発見できない。
このため発見できないモンスターが倍以上いる可能性が高く、かと言って迎撃しないわけにも行かない。
結果、精鋭と高位の対策部隊を迎撃に向かわせ、その他を残して監視する事になった。
しかし上陸予想範囲が広く、一つの迎撃場所でも1キロ程度離れた場所に分散して配置しするしかできない。
なおかつ、現在の待機場所から移動するのに時間が必要だった。
なぜこれ程混乱するのか?
今までの日本のダンジョンは少数のモンスターが隠れながら移動して人を襲い逃げる。
一度襲われれば広範囲の監視がが作られ、モンスターとダンジョン対策部隊の攻防が長く行われる。
攻防の先にモンスター暴走が発生する場合がほとんど。
その時点で危険情報は知れ渡っており、ダンジョン対策部隊の対応も準備もできる。
この様な一種の様式的手順があった。
だが、今回は事前に来るのは分かるが、どこに来るのかの範囲が広すぎた。
そして前回、数体のモンスターによる大量の死者と重軽傷者の情報が恐怖を呼ぶ。
帰還を考えない死兵となったモンスターは、命を懸けて最大の死者数を稼ぐために強かった。
モンスターがやって来る情報で、広域の膨大な避難民が発生してしまったのだ。
モンスター襲来情報が有あるからこそ大きな恐怖を呼ぶ。
そして、避難する必要が少ない場所も我先に避難行動を取ってしまった。
色々な状況が重なりダンジョン対策部隊の到着も遅れる。
世界では国境を超えたモンスター襲撃は普通にある。
だが、日本は海外からのモンスター襲撃は初めてであり、飛行タイプモンスターと戦う経験も少ない。
残念ながら、チャレンジダンジョン内の飛行モンスターは、倒すのが面倒なので避けられていた経緯もある。
なおかつ、数百キロの海を超えて飛ぶモンスターに弱い個体は無く、飛行に適応した個体が多い。
対馬島経由なら飛べるだけのモンスターや弱いモンスターでも日本を襲えるが、対馬島周辺の島は使えなかったのだ。
ーーーーーー
ある港街の海岸沿いを武装ワゴン車が走っていた。
海上自衛隊から逐一モンスターの位置が報告され、その場所に移動する。
双眼居を見ていた対策部隊の一員がモンスターを発見。
「モンスターを発見! 前に見える埠頭に接近中!
ハーピィが6体います!」
運転していた隊員が、すぐさまハンドルを回し埠頭に向かう。
埠頭手前に止まりバタバタバタと扉が開き、6人の精鋭部隊が降りる。
一人は赤袴を着た巫女であり、日本最強の精鋭部隊だった。
一人は魔石がギッシリ詰まっ箱を抱えている。
上陸はすぐだ時間が無い、6人は走って埠頭先端に着く。
巫女の前に魔石の箱を置き、巫女が魔石に手を触れた。
たちまち魔石が崩れて周囲に黒い魔素が拡散する。
この辺りには倒されたモンスターも無くダンジョンも無いため魔素が薄い。
その補充に魔石内にある大量の魔素を利用したのだ。
その魔素を利用して結界を貼る。
まず、放出した魔素を半径1キロに拡散、次に半径1キロの結界を作る。
結界の条件は魔素を重くし、モンスターにまとわりつかせて飛行を阻害する。
巫女を中心に薄い魔力光が高速で周囲に広がる。
結界に捉えられた6体のハーピィは途端にスピードが落ち失速する。
激しく翼を動かして体勢を立て直したハーピィ達は、前方に居る人間が張った結界に捕らえられたと判断。
結界を解くため人間に襲いかかる。
精鋭たちは掛かったなとニヤリと笑い、武器を持ち待ち受ける。
30メートルほど近づくと、ハーピィ達はタイミングを合わせ、一斉に各種攻撃魔法を撃ち出す。
広く展開した部隊の前衛が後衛の前に立ち。
最前にいた剣士は剣の一閃で飛んできた火球を切払う。
右の盾戦士はシールドバッシュで風の刃を消し飛ばす。
左の槍士は槍の円運動で巻き込む様に火球を消す。
後衛の巫女、魔法使い、弓士は魔法使いのシールド魔法で攻撃魔法を弾く。
ハーピィ達は魔法では駄目だと考え、飛行を利用した一撃離脱の接近戦をはじめる。
が、結界の飛行阻害のため高速機動ができない。
最初に突撃したハーピィは先頭にいる剣士に両足の爪攻撃を繰り出す。
剣士は爪の攻撃を素早く避けながら、瞬時に剣を振り抜き両足を根本から切断。
体のバランスを無くしたハーピィは空中で前に回転しながら地に落ち、剣士の返す剣で胸を切り裂かれて絶命。
右横から後衛の巫女を襲おうとしたハーピィ。
巫女は鉄扇を持ち迎撃に構える。
が、巫女の前に居た盾戦士が素早く後退して、シールドバッシュを叩きつけてハーピィを弾き飛ばす。
前方の後方にいたハーピィは顔から胸の周りまで10本近くの矢に射抜かれ海に落ちる。
その更に斜め後方にいたハーピィに火球が当たり、火達磨になって藻掻きながら海に落ちる。
部隊の正面を避け、左から突撃したハーピィは槍戦士に一瞬にして胸を貫かれ絶命する。
一番後ろにいたハーピィは勝てないと判断し逃げようとしたが魔法使いの次弾、風の刃に引き裂かれ絶命。
シールドバッシュで飛ばされたハーピィは巫女が操る式神、黒豹が首を咬み千切て絶命。
接敵から僅か1分で6体のハーピィは霧になって消滅した。
その戦闘はさすが日本一の最強精鋭部隊だった。
その戦闘を2000メートル上空から5羽のスズメが観測していた。
リアルタイムでハーピィを上空から観測し、接敵から魔石を使った結界の展開、戦闘終了までライトワンへ詳細に報告していた。
ライトワンはダンジョン対策部隊の戦闘力もなかなかの物だと評価し、ハーピィが失速した結界に興味を持つ。
あの結界内で、ハイブラッドスパローの超高速飛行攻撃は有効だろうか?
あれは、魔法なのか?
それに突然現れた黒豹、魔法陣の無い召喚なのか?
私の知らない魔法と考え、マスター達に報告が必要と判断した。