今日の夕飯は珍しい事が起きた、家族全員が揃ったんだ。
父さんはよく出張に行くし、母さんも仕事が遅い。
両親共働きで2人共で、そこそこいい会社の重役というやつらしい。
そして、この時に俺の今まで人生に決着を付ける出来事が起きた。
「こうして家族全員で食事するのは久しぶりだな」
なんて父さんが言っているが……この食事に何の意味があるんだろうか?
親が居ない時は長女は俺の飯にほぼ必ず文句を言う。
次女はつまみ食いはするわ、夜食は要求するわ……まあいい。
それも高校生までだ、俺は大学にしろ就職にしろ、俺は絶対にこの家を出で行く。
母さんとゆりは少々心残りだ。
この家で唯一の味方……いや、俺に危害を与えない存在だ。
「迷っていたんだが……今のタイミングしかないと思って、お前達に話そうと思うんだが」
これでお前達は家族じゃないとか言ったら――
「幸紀、お前は養子なんだ」
「は?」
「正確には俺の妹の子供なんだ」
「……」
あれ? 俺衝撃的な事を言われたのに……心が動いてない?
そうか……俺の中でこの人達は家族では無かったのか。
それはそうか、今まで我慢していたんだし。
うーむ……母さんとゆりが家族じゃないのが残念だ。
母さんは俺にずっと母親らしい事をしてくれた。
ゆりも小さい時は勉強を出来ない俺を笑ってたりしたが……
それも今は無いし、敵意が無いだけで本当に救われる。
「兄さん? 兄さん!」
「え? ゆ、ゆり? どうした?」
「……兄さん、急に楽しそうに笑ってたよ?」
「え? あ、そうなの?」
「ショックなのは――」
「いやいやいや、俺は安心したんだよ、だから多分無意識に笑っていたんだと思う」
……え? なんか家族が驚いた顔をしているんだけど。
んんんんんんんん!? 母さんとゆりはわかるけど……
なんで長女と次女も驚き? 父さんもさ。
「あ、家族じゃないなら一人暮らししたいんだけど、叔父さん」
「幸紀……」
「いや……そんな顔しないでくれよ、正直言って母さんとゆり以外家族とは思った事無いから、でも血が繋がって……いや間接的には繋がっているのか」
えぇ……何で父さんが泣きそうになってるのさ。
「ちょっと! 幸紀! 言っていい事と悪い事があるでしょ!」
「ふむ、なら千里さん、どうしてそうなったか説明しようか?」
「せ、千里さんて! あ――」
「昔、優香さんの下着事件があっただろ? そこからお前らの信用なんてねーんだわ」
あ、それまで我関せずだった優香さんが目をそらした。
まあいい、おっと……怒る時は感情的になってはいけない。
ふむ、そういう関連の本を読んでいてよかった。
ここで怒りを爆発しても仕方ない、事実を述べるだけだ。
「あれ以来ちゃんと証拠は取るべきだと思ってね」
「待って幸紀、その証拠でどうするつもり?」
「ん? どうもしないよ優香さん、俺は何かあった時だけ身の潔白をしたいだけなんだ」
「……」
ああ、脅されると思ったのか? んな事する訳ないじゃん。
誰かを脅すという事は、自分もされる可能性がある。
お前達を見ていてそう思ったよ。
今の俺は優位な立ち位置に居るが、身の丈に合わない選択肢って奴だ。
確かなんかの本に相手を攻めすぎると云々書いてあったな。
「でもよかった、ずっと思っていた事が本当だったんだ」
「……幸紀」
「叔父さ――」
「幸紀、本当でもその物言いはやめなさい」
「わかった母さん、じゃあ全部聞いてから判断してくれ」
落ち着くんだ、出来るだけ落ち着いて事実を話すんだ。