目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第二話 ああ、よくある血がつながってないね、納得だわ

 今日の夕飯は珍しい事が起きた、家族全員が揃ったんだ。

 父さんはよく出張に行くし、母さんも仕事が遅い。

 両親共働きで2人共で、そこそこいい会社の重役というやつらしい。

 そして、この時に俺の今まで人生に決着を付ける出来事が起きた。


「こうして家族全員で食事するのは久しぶりだな」


 なんて父さんが言っているが……この食事に何の意味があるんだろうか?

 親が居ない時は長女は俺の飯にほぼ必ず文句を言う。

 次女はつまみ食いはするわ、夜食は要求するわ……まあいい。

 それも高校生までだ、俺は大学にしろ就職にしろ、俺は絶対にこの家を出で行く。


 母さんとゆりは少々心残りだ。

 この家で唯一の味方……いや、俺に危害を与えない存在だ。


「迷っていたんだが……今のタイミングしかないと思って、お前達に話そうと思うんだが」


 これでお前達は家族じゃないとか言ったら――


「幸紀、お前は養子なんだ」

「は?」

「正確には俺の妹の子供なんだ」

「……」


 あれ? 俺衝撃的な事を言われたのに……心が動いてない?

 そうか……俺の中でこの人達は家族では無かったのか。

 それはそうか、今まで我慢していたんだし。

 うーむ……母さんとゆりが家族じゃないのが残念だ。


 母さんは俺にずっと母親らしい事をしてくれた。

 ゆりも小さい時は勉強を出来ない俺を笑ってたりしたが……

 それも今は無いし、敵意が無いだけで本当に救われる。


「兄さん? 兄さん!」

「え? ゆ、ゆり? どうした?」

「……兄さん、急に楽しそうに笑ってたよ?」

「え? あ、そうなの?」

「ショックなのは――」

「いやいやいや、俺は安心したんだよ、だから多分無意識に笑っていたんだと思う」


 ……え? なんか家族が驚いた顔をしているんだけど。

 んんんんんんんん!? 母さんとゆりはわかるけど……

 なんで長女と次女も驚き? 父さんもさ。


「あ、家族じゃないなら一人暮らししたいんだけど、叔父さん」

「幸紀……」

「いや……そんな顔しないでくれよ、正直言って母さんとゆり以外家族とは思った事無いから、でも血が繋がって……いや間接的には繋がっているのか」


 えぇ……何で父さんが泣きそうになってるのさ。


「ちょっと! 幸紀! 言っていい事と悪い事があるでしょ!」

「ふむ、なら千里さん、どうしてそうなったか説明しようか?」

「せ、千里さんて! あ――」

「昔、優香さんの下着事件があっただろ? そこからお前らの信用なんてねーんだわ」


 あ、それまで我関せずだった優香さんが目をそらした。

 まあいい、おっと……怒る時は感情的になってはいけない。

 ふむ、そういう関連の本を読んでいてよかった。

 ここで怒りを爆発しても仕方ない、事実を述べるだけだ。


「あれ以来ちゃんと証拠は取るべきだと思ってね」

「待って幸紀、その証拠でどうするつもり?」

「ん? どうもしないよ優香さん、俺は何かあった時だけ身の潔白をしたいだけなんだ」

「……」


 ああ、脅されると思ったのか? んな事する訳ないじゃん。

 誰かを脅すという事は、自分もされる可能性がある。

 お前達を見ていてそう思ったよ。

 今の俺は優位な立ち位置に居るが、身の丈に合わない選択肢って奴だ。

 確かなんかの本に相手を攻めすぎると云々書いてあったな。


「でもよかった、ずっと思っていた事が本当だったんだ」

「……幸紀」

「叔父さ――」

「幸紀、本当でもその物言いはやめなさい」

「わかった母さん、じゃあ全部聞いてから判断してくれ」


 落ち着くんだ、出来るだけ落ち着いて事実を話すんだ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?