さて冷静に話をしていこう。
正義の刃は暴力と同じ、ゆっくりと話すんだ。
「俺の中の始まりは、やはりさっきも言った下着事件だ、何処から広まったか知らんけどさ……小中と大変だったんだぞ? 変態呼ばわりされてよ」
あらあら優香さんがまた顔をそらした、そらさなくてもいいのに。
家の中の事が広まるとしたら……長女の被害者ヅラの自作自演。
または次女が言った可能性もある、コイツは少々友達に言う癖があるからな。
ゆりは違うだろうな、小学生の時は友達が居るタイプではなかった。
「で、一番最初冤罪吹っ掛けられた時よ、叔父さんに言われた言葉……『疑わしい事をしたお前が悪い』だっけ? なあ叔父さん知ってるか? 今俺が家族の洗濯してるんだぜ? おかしくねーか? 長女さんは自分でやらずに俺にやらせてるんだぜ?」
「……すまなかった」
「まあ長女さんの話はもう過ぎた事だし、今ならだらしないで済む話だ、次」
俺は次女を見た、多分キレてる目をしていたんだろうな。
母さんとゆりもどう声をかけていいかわからない、って顔をしている。
「千里さん、あんた現在進行形で俺に迷惑かけているのわかる?」
「……蹴ってごめんなさい」
「え゛!? 暴力を楽しんでいるか、イジメをじゃれあいと思ってると思っていたが……いや、純粋にビックリしているだけだ、そしてヒステリックにもならずに謝っているのにもビックリだ」
「……ごめんなさい」
いや、泣かないでくれよ、泣きたいのはこっちなんだよ。
今までお前にどれだけ蹴られてきたと思っているんだ?
はあ……なんか面倒くさい、皆よく正義の刃って振れると思うわ。
あ、俺は断罪がしたい訳じゃないんだ……
こう……マイナスな事が起きなければいいって感じ?
例えば追い詰めて自害させるとかは論外。
俺は現状さえ変えれればいいんだ。
「てな訳で『お父さん』さ、俺の一人暮らしをさせてくれ、ああ、安心してくれお年玉とかお小遣い全く使ってないから、そこそこの金額はあるからさ、まあ現状バイトもしてるし」
「……わかった」
「よかったよかった、それさえ叶えてくれれば俺は何も望まない」
俺は自分の食器を持って台所へ、ああ……早食いの癖も治さんとな。
でも大丈夫だろう、だってこれから問題は解決するんだし。
なんか最後の晩餐みたいな空気だ、まあ言葉通りか。
てか父さんもアホだろ、言わなければ少なくとも後一年は保っただろうに。
ああ……創作物であったな、子供達に秘密を暴露する系。
あれって恋愛ものだったら親は何も言われないよな。
なんつーか、主軸がそこじゃないからさ。
「兄さん」
「んんんんん!?」
は!? いつの間にゆりが部屋にいるんだ?
ビックリした……何か用なのか?
まあ……俺に言いたい事はあるか。
「やっぱり兄さんは我慢していたんだね」
「え?」
「だって兄さん……気付いてないかもしれないけど、ニコニコしているけど多分心の声が漏れている」
「そ、そうだったのか」
うむむ……指摘されんと気付かないぞ。
「私は兄さんが怖くなったから馬鹿にするのを止めた」
「え?」
「兄さんが中学のテストを母さんに見せた時だったかな?」
「ああー俺は勉強してなかったし」
「私その時テストを見て、こんなのも解けないの? って言った」
「ほう、まあお前は塾にも行ってたし勉強そのものが好きだろう?」
「その時の兄さん……多分無意識だったのかな? 『お前もか、お前も俺を馬鹿にするのか、だったら今度は勉強だ』って言ったの」
「えぇ……覚えてない」
「そこからの兄さんは怖かった、私みたいに友達がほぼ居ない訳でもない兄さんが、遊びにも行かず家の事と勉強をしだした」
「ああ……なんか思い出してきたぞ」
「そして出掛けたかと思ったら、町内会の手伝いとか商店街の手伝いとか……普通に考えたら可笑しい行動」
「え?」
「中学生がする行動とは思えない、いやいや数日やるとかならわかるけど、兄さん中学生時代ほぼそれだったでしょ?」
「……ああ、家の大人は信じられないしな、母さんは悪くないんだけど……こう……思春期の初期症状だったんだよ、身近な大人は頼れない的な」
そいやそんな事あったな、全てを犠牲にして大人達に取り入るんだ!
まあそのおかげか、町内会や商店街の人達に好意的に接してもらっている。
バイトだって掛け持ちさせてもらっているし、むしろ商店街の人達が気前よすぎなんだよな。
それは今はいいか。
「んでお前は謝りに来たのか? 俺は別にお前に対して怒ってもいない」
「……でも、兄さんの人生を間違いなく曲げた1人」
「……そうか? いや、そりゃ青春時代ってたいせつだけどさ、大人の方が長いんだから大丈夫じゃないか?」
それこそ大人になってからの冤罪の方が困る。
例えば冤罪でも疑惑を出したお前は、我社には相応しくないとかあるだろう?
ふむむ……そう考えれば今日ぶっちゃけてよかったかもしれない。
「兄さんはこれからどうしたいの?」
「んん? 俺はこの家を出られればそれでいいよ」
「復讐とかするの?」
「……考えなかったと言えばウソになるが、やるメリットないだろ? 俺の人生これからだし」
「兄さんと私は家族?」
「ああ、さっきはああ言ったけど……家族は家族だろ」
「……兄さん、やり返す事を面倒くさいと思っている?」
「うむ、さっき怒っててわかったのが、俺は現状を変えてくれるならそれ以上は求めない、それに考えてくれ」
「何を?」
「正義の刃を振りかざし過ぎると自殺される可能性があるだろ? または俺に危害が及ぶ可能性がある」
「……なるほど」
「まあそんな感じさ」
なんつーか、次女が言い返してくると思ったんだが謝ってくるとはな。
長女もなんか申し訳なさそうにしてたし、母さんも何もいえなくなってたな。
父さんもゆりもか、まあ長男の闇が深かったらそうなるよな。
……多分今、この家から出られる嬉しさでテンション可笑しくなってるな。
「兄さん、何か手伝える事が有ったら言ってね」
「ああ」
「それじゃ」
ふむ、ゆりは部屋を出で行ったな。
さてさて、これから快適な一人暮らしか!
まあ今すぐにとはいかんだろうな。
それでも今から楽しみだ。