陽翔を避けてしばらく経った日の放課後。スケッチする場所を求めて大学内をうろうろしていると、ベンチに座っている陽翔を見かけた。
陽翔は一人、空を見上げていた。その表情はいつも俺に向けている熱っぽいものでもなく、みんなの前で振り撒いている明るい表情でもない。何かを考え込んでいるような顔だった。
俺は陽翔のその姿に見入ってしまった。真剣だが、どこか悲しげな表情は、今まで見たことない。明るい陽翔には不似合いな憂いを帯びた横顔。それをさせているのは、もしかしたら俺なのかもしれないと思うと、胸の奥がズキズキと痛んだ。
ふと、先日、晴臣からかけられた言葉を思い出す。
『正直、陽翔のこと、どう思ってるの?』
――俺は……。
ベンチに座っている陽翔を見ているだけで、鼓動が激しくなるのが分かった。これは、もう、自分の気持ちに正直になるしかない。心臓が胸の中でドクドクと脈打つ。
――やっぱり、陽翔さんが、好きだ。
胸の痛みを和らげたくて、胸元をギュッと掴んだ。シャツの布地が握りしめられる。
陽翔が本気で人を好きになったのが初めてだと言ってくれた。俺自身も、こんな気持ちになるのは初めてだ。ただの憧れでも一時的な感情でもなく、誰かを深く思う――この感覚が、本当の「好き」なんだと分かる。
『俺も、陽翔さんのことが好きだ』
言いたい。
だけど、その度に過去のトラウマが頭をよぎる。再び、拒絶されたことを考えると、怖い。手が小刻みに震えている。恐怖が足を縛り付ける。
「昔は、こんなにヘタレじゃなかったのにな……」
俺は苦笑いした。
どんなに想っていても、それを伝えないと相手には届かない。沈黙は何も解決しない。
そんなことを考えている時、陽翔がこちらを見た。俺は慌てて陽翔に背を向けた。少しひんやりした風が俺の頬をかすめた。
こっちを見ないでほしい。でも……、見て欲しかった。俺もずっと見ていたい。そんな風に思ってしまうなんて、……俺はやっぱりおかしい。
目を逸らしたのは、信じるのが怖かったからだ。それなのに、ずっと見ていたいし、見られたいと思うなんて……。
陽翔のまっすぐな瞳がいつまでも忘れられなかった。陽の光を浴びて輝く、琥珀色の瞳。その中に映る自分の姿を、いつか真正面から見つめられる日が来るのだろうか。