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第15話 高校生の恋愛事情・2

 晴れた空の下、爽やかな風が吹き抜ける中庭で俺たちは何を話しているんだろう。でも、ある意味教室でなくてよかったのか。教室でいきなり体の相性がとかいわれたら、俺は恥ずかしくて机に突っ伏してしまうだろう。ほんと、中庭でよかった。中庭にも人は結構いるけど、俺たちの周りには人は少ない。落ち着ける場所をとって正解だった。話は幸いにも生々しいものではなく、初恋の方にシフトしていったようだ。


「初恋かあ。僕は今が初恋みたいなもんだなあ。相手にはされてないけど」

「水鳥を相手にしないっていうのも、なかなかに酷いねえ」

「シモがだらしないから避けられてるんじゃなくて?」

「そういうあとりはどうなのかなあ?」

「どうってなにがどう。何なの」

「もう分かってるくせに。あとりの初恋とか、今好きな人がいるのかとか、そういうことを聞きたいんだと思うよ」

「嫌だよ、そんな話」


 何で俺に火の粉が飛んでくるんだよ。水鳥と輝と夕羽斗のシモのだらしない者同士、食欲なくなるような話してろよ。俺は黙って聞いてるから。と思うけど、どうも三人は俺の話に興味があるようで、諦める気配はない。俺は諦めてくれと願いつつ、メロンパンの袋を開けた。牛乳とともに胃に流し込むが、三人の視線がまとわりついてむせてしまった。


「俺だって初恋くらいあったよ。けど、相手が年の離れた人で、それで諦めたって感じかな」

「年が離れてて諦めるって、三十歳くらい離れてた?」

「そんなに離れてないよっ」

「輝は三十歳離れた人と付き合ったことあるの?」

「あるといえばあるよ。僕のこと好きっていってくれる人にはそういう人もいるから。僕、結構年上の人好きだし」

「ああ、分かる。僕も年上のオジサマは結構好きだなあ。大人の余裕みたいのがあってさあ」

「俺の場合は十歳くらい離れてたよ」


 俺にとっては十歳でもずいぶんと年が離れているように感じたのだ。手の届かない、遠い存在に感じる程度には。最近、その人との少し年の差は気にならなくなってきて仲良くもしているけど、それでも諦めた。たぶん、子どもと思われてる、そんな気がしたから。輝や夕羽斗は三十歳も離れた人と付き合って、子どもと思われるのが嫌じゃなかったんだろうか。それとも、子どもと大人と割り切って付き合っていたのだろうか。俺にはそれは出来なかった。どうしても、子どもと思われるのが嫌だった。実際、子どもなんだけど。それでも何かあったら頼ってほしいし、子どもだと思われていると、そういう関係にはなれないと思ったのだ。考え過ぎなのかもしれない。でも、俺は対等でありたかった。


「で、その十歳くらい離れた人を諦めて、今はどうなの?」

「今、ねえ。それが分からないんだよね。気になってる人はいるけど、好きかっていわれるとどうなのか。決め手に欠けてて」

「興味があるなら寝てみて決めればいいじゃない、ねえ」

「俺を夕羽斗と一緒にしないでくれるか」

「ふうん、みんな好きな人がいるんだね」

「後は結ばれるかどうかじゃないの。幸せになりたいよね」


 幸せに、かあ。俺は男女どっちも興味があるけど、初恋の人も今気になってる人もどっちも男だ。感覚的には三人に近いのか。初恋の人と結ばれるならまだしも、気になっている男と結ばれる気はしないな。輝や夕羽斗並の遊び人だもんな。輝や夕羽斗は男限定だけど、女とも遊んでる男だからたちが悪い。何で、そんな男が気になるのかは分からないけど、絶対自分にとってマイナスになるような気がしてる。マイナスになる気しかしないのに惹かれるってのがわけがわからない。そういうものなんだろうかと疑問に思うけど、きっとこの三人に聞いてもまともな答えは返ってこないんだろうな。


「輝の狙ってる人の名前が気になるなあ。僕たちの知ってる人かな?」

「僕が今好きな人はみんな知ってる人だよ。名前はいわないでおくけど、そのうち分かると思う。近々告白するつもりでいるから」

「輝は告白するんだ。すごいね。あとりはどうするの?」

「俺はまだ気になってるレベルだからどうもしないよ。告白なんて先の先の先だよ」

「水鳥は告白しないの?」

「怖いよ。今は輝の告白がいい方向にいくことを祈ってる」


 輝が告白するといった以上俺も応援するけど、上手くいっても十人のうちの一人になると思うと相手が不憫でもある。みんな好きな人がいて、告白するヤツしないヤツ様々だ。俺はまだ相手のことを好きといい切れない状況で輝の話が少し遠く思えた。しかし、昼ごはんをこのメンバーで食べるときは気をつけよう。危なく生々しいあれこれを聞かされるところだった。これが高校生の普通の恋愛話なんだろうか。いや、きっと違うな。

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