四番目の正体にショックを受けたものの落ち込むまでにはいたらず、何とか正気を保っていた。三人でお茶をしていてもつまらないので、ちょっと買い物にでもいこうかということになった。買い物といっても、特に何が買いたいということもなく、ただふらっと外に出たいだけだ。僕は散歩がてら歩いてきたので、敏さんの車で街へ出ることになった。僕が助手席に水鳥君が後部座席に乗って発車する。
「あれ、反対車線にいるの涼の車だね」
赤信号で停止すると、反対車線には涼の真っ赤な車が止まっていた。僕は目がいい。涼の隣にいるのは、あれは輝だ。輝は三番目と遊んでいるんじゃなかったのか。まさか三番目との約束もすっぽかして涼と遊んでいたのか。いや、もっと怖い考えが浮かんでしまった。三番目って、涼なんじゃないか。いやいや、輝と涼は兄弟だし。涼の車が通り過ぎるとき、輝が涼にキスしているのが見えた。これ、確定だよな。思えば翔さんもいろいろ苦労してるっていってた。それはこのことだったのか。
「敏、敏。青になってる。青になってるから発車して。それから安全なところまで来たら左に寄せて。放心するのはそれからにして」
「敏さん、大丈夫ですか。まずは進みましょう。それからです」
「涼と輝があ」
「いいから、泣くのは左に寄せてからにして。怖いよ」
「敏さん、左に寄せてください。運転交代します」
「荘介はショックじゃないの」
「ショックですけど、今は安全に帰りましょう」
「運転出来る人二人がショック受けてるんだもん、帰った方がいいよね。僕が運転出来るならいいけど、免許ないもんなあ」
輝と涼がそういう関係。しかも三番目ということは体の関係ありである。ショックでないわけがない。キスシーンまで見てしまったし。あれは弟が甘えてするキスじゃない。恋人同士のキスだった。頭の中に霧がかかっているようでぼうっとする。いや、ぼうっとしている暇はない。運転しなければ。隣の敏さんは僕よりショックが激しいらしく、俯いて固まってしまっている。俺は敏さんと水鳥君をしっかり円城寺家まで送り届けなければ。真っ白になるのはそれからだ。
「敏、大丈夫?」
「ねえ、水鳥は知ってたの。涼と輝の関係」
「知らなかったよ。疑わしいとは思ってたけど。あの二人、平気でお泊まり会するからね。仲がいいにもほどがあるとは思ってたよ」
「敏さんは一緒に住んでいて気づくことはなかったですか」
「ううん。俺は何も。ただ、水鳥のいうように輝の部屋にちょくちょく泊まりにいってたよ。思えばそれが」
「でも、三番目と遊ぶ日に涼といたからって、涼がその相手と決まったわけではないから」
「がっつりキスしてたけどね」
「けど、そこは分からないよ。あの二人ならふざけてでもやりそうだし、証拠にはならないよ」
そう輝が涼の車に乗っていたって事実はあるけど、それが三番目であるという証拠にはならない。輝と涼ならふざけてキスすることもあるだろうし。そういい聞かせている自分がいた。さっき恋人のキスだって思ったくせに。僕はきっと認めたくないんだ。僕は自分が思っている以上に嫉妬深いかもしれない。それからどうやって円城寺家に帰ったのかはよく分からなかった。
円城寺家に着くと輝と涼がのんびりお茶をしていた。敏さんは泣いてるし、何かあったというのは分かったらしい。
「どうしたの、敏」
「何でもないよ」
涼は首を傾げつつ、敏さんの肩を抱いて二階へ連れていった。
「ねえ、敏が泣いてたけど何かあったの。三人で出かけてたんでしょ」
「敏にはキスシーンが衝撃的すぎたんだよ」
「そんな映画やってんの。衝撃的なキスシーンってどんな?」
「うん、不倫相手と車でキス。交差点で見られてたっていうね」
「交差点で、ねえ。ずいぶん攻めてくるね水鳥。それって、僕と涼兄のことでしょ。荘介はショックだった?」
「僕はショックだよ。現在進行形で。涼が三番目だったって認識で合ってるの?」
「間違ってないよ。涼兄が三番目」
輝はぺろっと自白した。今頃二階では敏さんに問いつめられた涼が自白していることだろう。何だかいろいろと思うことがあって、混乱している。これから輝との関係が変わってしまうんだろうかとか、涼との関係がどう変わるのかとか。けど、輝と涼のことだから悪意もなく、普段と変わりなく接してくるような気がする。僕は怒るべきなんだろうか。それとも落ち込むべきなんだろうか。そのどちらでもない気がする。心の中ではショックでも、それを見せないで待つしかないんじゃないだろうか。それがランキングを受け入れるっていう本当の意味なのかもしれない。僕はある程度覚悟が出来ていたけど、巻き込まれた敏さんがひたすらに可哀想だと思った。