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第284話 《物運び》

 {午後の部、最初は一年ビジネス科より提案された《物運び》! 一年はグランドの所定の位置についてください}


 「えーっと、みんな居るかな?」


 グランドには三ヶ所、それぞれの科用に白い円が描かれていて、生徒たちは円の中に集まっていた。


 この競技物運びは、いくつかの障害物を乗り越えて、決められた“物”をいち早く運びきるというレース形式のもの。

 ただし、持てる“物”はサイコロで決まり、運ぶ方法も【魔法使用OK】というイカれルールが付いていた。


 俺はクラス代表だから、人数の点呼と整列をチェックして、報告しないといけないんだけど――


 「うむ……ござる達がまだいないのじゃ」


 「え? 《アルティメット》のパーティー全員が?」


 「の、ようじゃの?」


 時刻は12時55分。

 13時スタートだからギリギリ間に合うとは思うけど……正直、ちょっと焦る。


 「お、来たみたいなのじゃ」


 ルカが指さす方向を見れば、あの“ござるパーティー”の面々が走ってくるのが見えた。


 「お、みんな来たね!」


 「すまないでござる……日ざしが強くて遅れたでござる」


 「ん? 日ざし?」


 「そんな事よりアオイちゃん、みんな来たから報告しなくていいの?」


 そう言って、女リーダーの人が俺の前にスッと出てきて、さりげなくフォローしてくれる。


 「あ、そうだった、えーっと」


 俺は渡されていた魔皮紙に魔力を通す。

 これで《アドベンチャー科》が全員揃ったことが運営側に伝わるはずだ。


 {では全員揃ったようなので、《物運び》を開始します!}


 どうやら俺たちの班が最後だったらしい。


 各科の前に転送魔皮紙が置かれ、その中から《物》が次々に転送されてくる。


 「うわぁ……なんじゃこりゃ」


 現れたのは、黒くてゴツゴツした球体、ツヤのない柱、三角形のブロック、さらにはトゲトゲしたモヤットボールのようなものまで――まるで知恵の輪の悪夢だ。


 {みなさんの前に現れたのは、大小さまざまな黒い物体! これは土魔法で作られた《物》です。今回は特別にエメラルド冒険者・ルコサ先生の協力を得て作っていただきました!}


 あの、保健室常連の頭痛先生が? こんなやる気出すとは思わなかった。


 {ルールは簡単! クラス全員で協力し、目の前の《物》を500メートル先の体育館内に設置された魔皮紙の上へ運んでください! 一人一枚の魔皮紙のみ使用可、すべて運びきったチームが勝利となります!}


 ようやく内容が明かされたが――この程度なら、事前に立てた作戦でいける!


 {それでは……よーい、はじめっ!}


 合図と同時に、各クラスが一斉に動き出す。


 ちなみに、この《アドベンチャー科》は不人気らしく、他科と比べて人数はほぼ倍。

 少数精鋭――なんてかっこいい言い方はできない、ガチで人手が足りないのだ。


 「みんな! 行くよ!」


 「「「おおー!」」」


 「筋肉よ、活性化せよおおぉマッスル!」


 マッスルは気合の声と共に、腕に緑色のアーム装備を装着する。

 装備には魔力ツボ刺激のギミックが仕込まれていて、流し込むと筋肉出力が爆上がりする仕様だ。


 マッスルパーティーは迷いなく巨大な《物》を次々と担ぎ上げ、ドスン!ドスン!とグラウンドを進んでいく。


 「さぁ! 僕らもすぐに――」


 {おーっと! 《ビジネス科》速い速い! みるみると荷物が減っております!}


 「え!?」


 その放送を聞いて《ビジネス科》の方を見てみると、まだ数分しか経ってないのに生徒たちはそれぞれ《物》を手際よく持ち上げ、体育館に向かって走っていた。

 ――もう半分ほど、無くなってる!?


 「はやっ!」


 {さすが未来の商い人たち! 一人一人が魔法で正確に《物》を計量し、それを元に分担している! 重たい物は複数人で風の集団魔法を展開し、空中で浮かせることで、振動や損傷すら最小限にして運んでいるぞ!}


 効率の鬼……! まさにこれを提案した科の意地ってわけか!

 でも負けられない、俺たちだって……


 (……いや、引っ越しに使ったら超便利だなあれ)


 ――って! ちがうちがう!


 「って、そんなんじゃなかった! 僕らも急がないと! みんな!」


 {おおーっと! 《アドベンチャー科》も動き出した! 何やら……線路を作っている!?}


 「急ごう! これが完成すれば、あとは楽になるから!」


 俺たちの作戦名は――《ザ・トロッコフィーバー!》


 (※命名:俺)


 500メートル先の体育館まで、一直線で線路を敷き、荷物を載せたトロッコで一気に運搬する作戦だ!


 線路は事前に曲線、直線、カーブなどを加工済みで、転送魔皮紙からどんどん取り出されていく。

 放課後、他の科にバレないようこっそり練習してきた甲斐があって、みんな手際がいい!


 この線路さえ完成すれば――“運ぶ”は“走る”に変わる!


 (ちなみに線路のイメージは、元の世界で子供の頃に遊んだ“プラレール”。懐かしい!)


 {アドベンチャー科も良い連携!将来【冒険者】になる者達はパーティーでの連携が命を分ける!さあ、どんどん線路が体育館まで繋がっていくぞー!}


 「みんな頑張るよー!」


 「ルカさん!?そこはそれじゃない方がいい気が……!」


 え?何があった――と思って振り返ると、ルカがトロッコレールをグニャグニャに繋げていた。


 「この方がきっと面白いのじゃ!」


 「子供かーっ!!」


 いやほんと、マリカーのコース作ってるんじゃないんだから!


 「ていうかルカ! 君はアーム装備組で荷物運び班でしょ!?」


 「こっちの方が楽しそうだったのじゃ♪」


 「うーん……でも今は“勝ちに行く”タイミングだよ、ね?」


 「むむぅ……仕方ないのじゃ……」


 あ、言えばちゃんとしてくれるんだ……


 __ルカはスッと片手でボーリング玉サイズの荷物を持ち上げて、体育館の方へ走っていった。


 「よし、みんな! 気を抜かずいこう!」




 ――そして、それから約10分後。




 「完成!」


 ようやく俺たちは体育館まで一直線のトロッコレールを完成させた!


 {さあ、作業もいよいよ終盤です!アドベンチャー科、現在まだ半分ほど残っておりますが……ビジネス科とマジック科は、ほとんど荷物が無くなっております! ここから逆転なるか、アドベンチャー科!?}


 視線の先、ビジネス科とマジック科はどちらもゴール直前。

 接戦の中、俺たちだけがまだ山のような荷物を残している……けど!


 「マッスルさんたち! 今だ!」


 俺は少し大きめの転送魔皮紙を地面に展開し、魔力を注ぐ――出てきたのは、大きな鉄かごに車輪がついた本格トロッコ!


 これも防具屋のおじさんが貸してくれたものだけど……どう見ても新品なんだよね!? ありがたいけど!


 「「「まっそぅ!!」」」


 マッスルパーティーがトロッコを軽々と持ち上げ、線路にセット!


 「よし、みんな! 詰め込めーっ!」


 {はやい! アドベンチャー科、速いぞー! トロッコに荷物を乗せ、魔力を通すことで――線路を爆走する! そしてなんと! 体育館から戻ってくるまで、約1分! これはあるぞ逆転! あるぞ勝利!}


 トロッコ、荷物、トロッコ、荷物――!


 線路が完成した今、俺たちの作戦は加速するのみ!


 運び、戻し、また運ぶ。

 それを繰り返すだけで、みるみるうちに積み上げられていた《物》が減っていく!


 {アドベンチャー科、追い上げてきておりますが――しかし! ビジネス科、あとひとつでゴールだぁぁ!}


 「くっ……あと少しなのに!」


 見ると、ビジネス科の山のような荷物は、すでに最後のひとつだけになっていた。

 俺たちは休みなくトロッコを回し続け、全員が汗だくで必死に働いてる……けど、体力の限界が近づいてきてる。


 「最後まで……みんな、諦めないでっ!」


 {さぁ!そしてマジック科も、ラスト一つに取りかかりました!}


 くっ、マジック科まで……!


 {しかしここで、両科にトラブル発生! それもそのはず――この最後の荷物、実は《ルコサ先生》のサプライズ! 見た目はボーリング玉、だがその重さ――なんと10トン!! 一万キロ!! いやもう、意味がわかりません! 流石エメラルド冒険者、やることがエグい!}


 …………え? 


 ビジネス科は10トンの玉に全員で風魔法をかけ、1メートル進んでは地面にドスン! 1メートル進んではドスン!


 マジック科は魔皮紙を貼りまくって軽量化を試みてるけど――どう見てもまったく効果ナシ!




 {おーっと!? ここでアドベンチャー科、最後の荷物を……あれ? なんか、もう――?}


 俺は静かに――


 『全ての荷物を運び終えた』ことを示す、魔皮紙に魔力を通した。


 {ななななんとーーっ!? これは番狂わせ!! アドベンチャー科、荷物全て運搬完了ォォォーー!! 優勝はアドベンチャー科ですぅぅぅ!!}


 「「「「おおおおおおおおおぉぉおおぉ!!」」」」


 グラウンドに轟く大歓声!


 {なんと! 誰も注目してなかった! トロッコ作戦に気を取られていたら――まさかの10トン運搬済み!? まさに盲点ぃぃ!}


 「や……やったね! みんなっ!」


 みんなぐったり座り込んで、でも顔は笑顔。苦労が報われた瞬間だ。


 「俺たちのマッスルの勝利だ! このアームと俺たちの筋肉の前じゃ、10トンでも朝飯前だぜぇぇ!」


 「う、うん、ソウダネー……」


 俺は――知っている。




















 あの10トンの黒玉を、ニコニコしながら片手でヒョイと持ち上げて運んでいったルカの姿を……。


 あの人……何者なの……




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