店内では、ヴィクトリアが弥生たちにスイーツの作り方を説明しながら試食分を作成中。
一方で雪乃は、いつものカウンター席ではなく、テーブル席で月、花、星姫と共にお茶を楽しみながら、開店前の様子を見守っていた。
雪乃の落ち着きと月の焦り
雪乃はティーカップを手に取り、優雅に息をつく。
「ああ、楽だわ。このままヴィクトリアに任せていれば、店が勝手に回るんじゃないかしら?」
その言葉に焦る月が、手をテーブルに置いて訴える。
「ちょっと! 私の居場所がなくなるじゃない!」
雪乃は微笑みながら、月を軽く宥める。
「月がいなくなるわけじゃないわ。ヴィクトリアの手伝いをすればいいだけよ。」
月は頬を膨らませ、不満そうに呟く。
「それでも、なんだか私の存在感が薄れていく気がするのよね……。」
花はテーブルに広げた設計図に集中しながら、小声で独り言を漏らす。
「この冷却効率をもう少し改善すれば、次のストレージはもっと小型化できるはず……。」
雪乃が苦笑しながら声をかける。
「花、そろそろ休憩したら? データばかり気にしてると、スイーツの味を楽しめないわよ。」
花は顔を上げて、目の前のクランブルを一口食べると、感嘆の表情を浮かべる。
「うん、美味しい! でも、この味を再現する冷却装置も重要だから!」
星姫が横で笑いながらフォローする。
「花らしいわね。データもいいけど、スイーツそのものに感謝しなさい。」
星姫はスイーツを一口食べて、深く頷く。
「さすがヴィクトリア、雪の姉弟子だけあるわね。この味と見た目の完成度、どちらも申し分ないわ。」
雪乃も満足げに微笑む。
「そうでしょ? 私が自慢するだけのことはあるの。」
星姫はふと考え込みながら続ける。
「でも、これほどのスキルがあるなら、本当に『雪の庭』をヴィクトリアに任せてもいいのでは?」
雪乃はお茶を飲みながら軽く首を振る。
「それでは私がここにいる意味がなくなるもの。ヴィクトリアはあくまでサポートよ。」
厨房では、ヴィクトリアが弥生たちを指導しながら、試食用のクランブルを仕上げている。
弥生や忍がその手際の良さに感心しつつ、少しでも吸収しようと必死にメモを取る。
「本当にどの動きも無駄がないですね……私も早くこうなりたいです!」
ヴィクトリアは冷静に応じる。
「継続と工夫が大切です。焦らず、一歩ずつ技術を磨いてください。」
ヴィクトリアが厨房でスイーツの試食分を仕上げている中、雪乃は月、花、星姫と共にテーブル席でお茶を楽しんでいる。
雪乃はティーカップを置き、ふっとため息をつく。
「ヴィクトリアがこうして雪の庭を完璧に仕切ってくれるのは助かるけど……その代償として壱姉様が野放しになってしまうの。」
月が目を丸くしながら答える。
「壱姉様が野放し? それは確かに、いろいろとまずいわね……。」
花が設計図から顔を上げて首をかしげる。
「でも、壱姉様ってそこまで恐ろしい人だったっけ? 私にはいつも優しいけど。」
雪乃は困った表情を見せながら花に視線を向ける。
「壱姉様は、特に花には甘いから……」
星姫が軽く笑いながら口を開く。
「確かに花には甘いわよね。だけど、それがかえって厄介なの。壱姉様が花の頼みを聞きすぎて、周りが振り回されることが何度あったか……。」
花はキョトンとした顔をしながら言い返す。
「私、そんなにわがまま言った覚えないけど?」
月が苦笑しながら肩をすくめる。
「花は自覚してないのがまた厄介なのよね。でも、壱姉様が動き出すと、本当に何かが起きるから怖いわ。」
雪乃はため息をつきつつ、冷静に言葉を続ける。
「壱姉様が大事にしているのは家族の調和とジパング王国の利益だから、悪意はないのですけど……それが行き過ぎて、時々予測不能なことをするんです。」
星姫が真剣な顔で頷く。
「だからこそ、私たちが壱姉様をうまく牽制しながら行動する必要があるわね。ヴィクトリアがいてくれる間は、私たちも余裕を持てるけど……。」
月が明るい声で提案する。
「じゃあ、壱姉様には花を盾にしておけばいいんじゃない? 花がいれば、壱姉様も暴走しないでしょ。」
花が驚いた顔で声を上げる。
「え!? 私が壱姉様を抑える役!? 無理だよ、そんなの……。」
雪乃がティーカップを置き、花に問いかける。
「花、あなた……『ぴよぴよさん』のカスタムモデルを壱姉様に渡したでしょ?」
花は驚いた顔をしながら答える。
「えー! どうして分かるの雪姉様! 壱姉様しか知らないはずなのに!」
雪乃は冷静に微笑みながら続ける。
「花……私は、あなたの姉なのよ。何をしているかくらい分かるわ。」
月が不思議そうな顔をして口を挟む。
「でもさ、普通の『ぴよぴよさん』じゃダメだったの? わざわざカスタムモデルなんて……何を追加したの?」
花が得意げな表情を浮かべながら説明を始める。
「それがね! 飛行速度と持久力を通常の3倍にして、魔法防御シールドも追加したんだよ!」
星姫が頷きながら紅茶を飲む。
「まあ、それだけでも十分すごいけど、壱姉様に渡ったってことは、何か特別な機能も付けたんでしょ?」
花は声を潜めながら秘密を明かす。
「うん……実は、夜間行動に特化してるの!」
花の言葉に、月と星姫は同時に驚きの声をあげる。
「夜間行動!? それって完全に隠密行動用じゃないの!」
「暗闇でも活動できるなんて……壱姉様が使ったら、とんでもないことになりそうね。」
雪乃は静かにティーカップを持ち上げ、一口飲んだ後、ボソッと呟く。
「もはや、軍用偵察機ね……。」
その一言に、月が吹き出すように驚く。
「ちょっと雪姉様! 冗談になってないから!」
星姫が冷静に補足する。
「でも、実際にそれくらいの性能がありそうよね。壱姉様が情報収集や監視に使えば、敵も味方もひとたまりもないわ。」
雪乃はため息をつきながら、壱姉様の可能性について語る。
雪乃
「壱姉様のことだから、きっと王宮の上空を飛び回りながら、外交相手の秘密を暴いているはずよ……。」
月は呆れたような顔で言う。
「壱姉様、本当にそういうことしそうだから怖いわ……。」
花は焦った様子で弁解する。
「でも、壱姉様はちゃんと国のために使ってくれると思うよ! 悪用なんて絶対にしない!」
雪乃は花を諭すように優しく微笑む。
「分かっているわ。壱姉様は確かに国のために動くけれど、その動きが時に私たちを巻き込むこともあるのよ。花、次はもっと慎重に考えてね。」
花は少ししゅんとしながら頷く。
「……分かったよ。もうちょっと気をつける。」
心配げな月
「絶対やばいやつじゃない!? こんなの使われたら何でも見られちゃうし、盗聴までされるなんて、もう危険極まりない!」
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焦った花が月に言い返すようにフォローする。
「で、でも、壱姉様は悪用なんてしないよ! 国のために使うだけだし、正しい目的でしか使わないって!」
雪乃がため息をつきながら、冷静に指摘する。
「そうね、悪用はしないと思うわ。でも、壱姉様って『私が法律だ』的なところがあるから……。」
月が驚いた顔で雪乃に振り向く。
「『私が法律だ』って、それもう完全に独裁じゃない!」
星姫が苦笑しながらティーカップを置く。
「まあ、壱姉様の場合、それができるだけの実力と知識があるのが困るのよね。誰も逆らえないんだから。」
雪乃は視線を厨房に向け、さらに続ける。
「しかも、その唯一の安全装置が、今ここにいる……。」
そう言って、ヴィクトリアの方を見る雪乃。
月がその言葉に反応し、驚きの声を上げる。
「えっ!? ヴィクトリアが壱姉様の安全装置なの!? それってどういうこと!?」
花も目を丸くしながら質問する。
「ヴィクトリアさんって、そんなすごい役割だったの?」
雪乃はゆっくりと頷きながら説明を始める。
「ヴィクトリアは壱姉様に仕えていた頃、どれだけ壱姉様が突飛な行動をしても、必ず軌道修正してきたのよ。それこそ、あの『私が法律』な壱姉様に唯一意見できる存在。」
星姫が納得したように頷く。
「なるほどね。それでヴィクトリアがここに来てる間、壱姉様が暴走しないか心配なのね。」
ちょうどその時、ヴィクトリアが厨房から顔を出し、落ち着いた声で言う。
「雪乃様、それは買いかぶりすぎです。壱姉様の行動を完全に制御するなど、不可能に近いことですから。」
雪乃は肩をすくめて微笑む。
「それでも、ヴィクトリアがいれば多少はマシになるわ。少なくとも、外交問題を起こさない程度には。」
月が椅子に座り直し、やや呆れた顔で呟く。
「結局、ヴィクトリアがいないと壱姉様は止まらないってことじゃない……。もう本当にやばいわね。」
花が小声でぼそっと言う。
「……でも、ないとほーくを渡したのは、私だからなぁ……。」
雪乃が紅茶を一口飲み、優しい口調で花をフォローする。
「まあ、壱姉様に依頼されたら、誰も断れないし、花だけの責任とは言えないわ。」
月と星姫がその言葉に頷きながら口を揃える。
「確かに、壱姉様に頼まれたら絶対に断れないよね……。」
星姫もつづける。
「壱姉様の頼みを断ったら、それこそ一大事になりそうだもの。」
花は少し安心した表情を浮かべるが、申し訳なさそうに呟く。
「……それでも、私が作っちゃったのは事実だし、次からはもっと慎重にするよ。」
--その時、雪乃がふと思いついたように天井を見上げる。
「そうだ、花の力作を見せてあげるわ。ぴよぴよさん!」
雪乃が呼ぶと、天井の梁に隠れて防犯カメラの代わりをしていたぴよぴよさんが静かに降りてくる。
星姫は初めて目にするぴよぴよさんをじっと見つめ、驚きの声を上げる。
「これがぴよぴよさん?普通の小鳥にしか見えないわ……。」
月が笑いながらフォローする。
「そうでしょ? 外見はただの可愛い小鳥だけど、実はこの子、めちゃくちゃすごいのよ。」
星姫がぴよぴよさんを観察しながらさらに質問する。
「ぴよぴよさんでも十分すごいのに……『ないとほーく』ってどんな子なの?」
花が得意げに答える。
「外観は、鷹を模してるの。だから見た目も機能も猛禽類っぽくてカッコいいんだ!」
星姫が納得したように頷く。
「猛禽類ね……それなら確かに強そうだわ。」
月が苦笑しながら横から口を挟む。
「強そうっていうか、強すぎるのよ! 機能がどんだけ危険なのか、さっきも聞いてたでしょ?」
その間に、ぴよぴよさんが梁に戻るために軽やかに飛び立つ。
星姫がその動きを目で追いながら感心する。
「でも、このぴよぴよさんでも十分に役立つわね。防犯カメラの代わりにしてるなんて発想が面白いわ。」
雪乃が満足げに頷く。
「ええ、ぴよぴよさんは今の『雪の庭』の目でもあるの。それに迷惑なお客様を撃退したこともあったし…」
その時、ヴィクトリアが厨房から顔を出し、冷静な声で報告する。
ヴィクトリア
「雪乃様、準備が整いました。」