スキルを奪えと言われても、誰からどうやってスキルを奪えばいいのだろう。
今日は昨日のように、実習の授業は無い。
座学中に誰かのスキルを観察することは、まず無理だろう。
「フィンレー君、お昼はどうしますか?」
「今日は天気が良いから外で食べようか。リリーもそれでいい?」
「今日も一緒に食べてくれるんですか!?」
リリーは俺に昼食の話を振ったものの、一緒に食べてもらえる自信が無かったのだろう。
リリーとの昼食は、俺の方からお願いしてご一緒してもらいたいくらいなのに。
つまりは昼食に関して、俺とリリーは相思相愛なのだ。
「仲良しは毎日一緒にお昼を食べるものらしいぞ」
「仲良し……えへへ」
嬉しそうにするリリーを連れて、食堂で二人分のサンドイッチを受け取る。
そしてサンドイッチを持った俺たちは昼食が食べられそうな場所を探して、授業棟の外を歩いた。
「あのベンチなんか良さそうだな」
二人で座っても余るだろう大きめのベンチを見つけた俺は、そこにリリーを案内した。
さっそく二人でベンチに座ってサンドイッチを頬張る。
「やっぱり天気の良い日には、外に出た方が気持ちいいな」
「分かります。食事がより美味しく感じられますよね。仲良しの友だちと一緒なのも大きいですが」
嬉しいことを言ってくれる。俺のサンドイッチが美味しいのも、きっとそれが理由だろう。
俺たちがサンドイッチをパクパクと食べていると、聞き慣れた声が降ってきた。
「あれ。フィンレー?」
「入学試験ぶりだな、ミンディ」
声の主は、特進科クラスに入学した幼馴染のミンディだった。
ミンディは一緒にいた友人らしき生徒たちと別れ、俺たちの座るベンチに腰掛けた。
そして持っていた箱からサンドイッチを取り出して食べ始めた。
ミンディも外で昼食を摂ろうとしていたらしい。
「あの、えっと……?」
「フィンレー。こういうときは、両方と知り合いのフィンレーが私たちの紹介をするのよ」
何かを言いたそうなリリーを見たミンディが、サンドイッチを片手に指摘した。
「そういうものなのか?」
「そういうものよ」
「そ、そういうものです」
『そういうものじゃ』
俺の言葉に、ミンディとリリーとついでにゴッちゃんが頷いた。
(分かってたんなら言ってくれよ、ゴッちゃん!)
『そのくらい、言われんでも気付いてほしいものじゃ』
(無茶を言うなよ。こっちは山籠もりのせいで、社会性皆無なんだからな!?)
俺はゴッちゃんに不満をぶつけつつ、二人の紹介をすることにした。
「彼女は幼馴染のミンディ。俺たちと同じ新入生だけど、特進科クラスの生徒なんだ。それで、こっちがクラスメイトのリリー。物を見つけるのが上手いんだ」
「物を見つけるのが上手い?」
「森でボールを探す実習で、すぐにボールを見つけてたんだ」
「ああ、あの実習ね。ちょうど午前中にやったわ。でもその紹介はどうなのよ……」
ミンディはリリーの紹介に言いたいことがありそうだったが、リリーが何も言わないのを見て黙ることにしたらしい。
俺に紹介をされた二人は、俺を挟んで互いに顔を見合わせた。
「よろしくね、リリー」
「よ、よろしくお願いします。ミンディ……さん?」
「ミンディでいいわよ。同学年なんだし」
「じゃあ、えっと、ミンディちゃん」
「うん、それでもいいわよ」
リリーは初対面のミンディ相手に少し緊張しているようだが、ミンディもリリーも攻撃的なタイプではないため和やかな雰囲気だ。
しかし、例えばここにパトリシアが入ろうものなら、地獄絵図になっていたかもしれない。
パトリシアがリリーに嫌味を言い、リリーが怯え、ミンディがパトリシアに正論パンチを繰り出していたことだろう。
その後は…………考えただけで恐ろしい。出会ったのがミンディとリリーの二人で良かった。
二人に挟まれた俺は、そんなことを考えながら呑気にサンドイッチを頬張った。
「フィンレーに会いに行こうと思ってたんだけど、入学直後でバタバタしちゃって。偶然出会えてよかったわ」
「実は、俺はミンディのクラスを見に行ったんだ。授業中だったからすぐに帰ったけど」
「そうだったの!? 全然気付かなかったわ」
「ミンディちゃんは、フィンレー君の幼馴染なんですよね? フィンレー君はどんな子どもだったんですか?」
仲の良さそうな俺たちを見たリリーが、わくわくした様子で質問した。
「フィンレーはね、最初は普通の子どもだと思ったんだけど、あるときから大して努力をしてないのに何をしてもそつなくこなすようになったの」
そりゃあ、努力は過去に戻る前に散々してきたから。
少年の身体に慣れるまで苦労はしたが、その辺の子どもに負けるつもりはない。とはいえ。
「筋トレはかなりしたぞ」
「その程度は大した努力じゃないでしょ。その程度で何でも出来るフィンレーの隣で努力を続けるあたしが、どれだけ辛かったことか。我ながらよく折れなかったわ」
「それはごめん」
確かに隣に俺がいたら、努力を続けるのは辛いかもしれない。
俺は二十年分の知識を持っているから、ミンディより何でも上手くこなせて当然だが、そのことをミンディは知らない。
その状態で、グレずに努力を続けてきたミンディは素直にすごいと思う。
モーゼズに爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。
「別にいいわ。フィンレーを目標に努力を続けた結果、この学校に入学できたどころか特進科に入ることが出来たんだもの」
そして俺のことを恨まず、こうして前を向いているなんて、ミンディは俺よりもよっぽど人間が出来ている。