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第31話


「二人に聞きたいんだけど、この学校って敵対組織があるのか? そういう話、知ってる?」


 俺の話題が落ち着いたところで、二人に学校についての話を振ってみた。

 昨日の侵入者に繋がる情報が少しでも得られたらと思ったのだ。

 学校を襲撃しようとしている組織があるなら、うわさになっていてもおかしくない。


「敵対組織? 男の子ってそういう話が好きよね」


「学校の敵対組織……私は思いつきません。でも勉強を教える学校に敵がいるとしたら、また別の学校でしょうか?」


「別の学校が、この学校に襲撃をかけたりするか?」


 俺の言葉を聞いたミンディが大声で笑い出した。


「学校を襲撃する学校ってなにそれ。そんな学校があるわけないじゃない!」


 確かに学校という教育組織が、別の学校を襲撃するとは考えづらい。

 それにモーゼズたちは学校の地図を完成させたら正式な構成員になれる、のようなことを言っていた。

 教育組織はそのようにして入学するものではないから、この点から考えても敵対組織がどこかの学校という線は薄いだろう。


「じゃあ、この学校を襲撃する可能性のある組織って何だろう。この学校はどこかに恨みでも買ってたりするのか?」


「ただの学校が襲撃を受けるほどの恨みを買うかしら。入学試験に落ちた人は逆恨みをするかもしれないけど、わざわざ組織を作って襲撃するとは思えないわ。何かするとしても個人でやるはずよ。そんな逆恨みのための組織に誘われても、賛同する人はいないでしょうから」


「そうですね。恨みで襲撃されるよりは、学校から貴重品を盗むために襲撃されるという方が、現実味があると思います」


 盗みか。

 昨夜の三人は、校舎内の地図を作ろうとしていた。

 盗みを計画している可能性は十分にある。

 となると、学校襲撃は盗みを働く際の目くらましだろうか。


「この学校に盗まれるような貴重品があるのか?」


「学校にある貴重品……生徒の情報でしょうか」


 その可能性はある。

 生徒の情報を盗んで、将来有望な生徒を仲間に引き込むつもりかもしれない。

 もしくは、生徒の情報を悪事に使うつもりか。どちらにしても悪質だ。


「あと、生徒の情報以外で狙われるとしたら……スキル増幅石かしら」


 ミンディが軽い調子で言ってから水を喉に流し込んだ。

 そして空になったサンドイッチの箱を畳んで水の横に置いた。


(ゴッちゃん、スキル増幅石ってなんだ?)


『スキル増幅石ってなんじゃろうな?』


(知らないのかよ!)


 ゴッちゃんに解説を頼んだが、ゴッちゃんもスキル増幅石が何なのかは知らないらしい。

 スキル増幅石という名称なのに、人間にスキルを与えたほどこしの神が知らないなんて。

 スキル増幅石とは一体何なのだろう。


 考えても分からないのでミンディに解説を頼む。


「なあ、ミンディ。スキル増幅石ってなんだ?」


 ミンディは考えるような仕草をしてから、スキル増幅石の解説をしてくれた。


「ただのうわさだから話半分に聞いてほしいんだけど、文字通りスキルの力を何倍にも増幅させる石が存在するらしいの。でも学校にそれがあるなら、襲撃を受けてもおかしくないとは思うわ。スキルの力を増幅させるなんて、夢のアイテムだもの」


『なっ、なんじゃと!?』


 ミンディの解説を聞いたゴッちゃんが、口をあんぐりと開けて驚いている。


「そんなすごいものがあるんですね。私のスキルは力を増幅させたところで、あまり役には立ちませんが……」


「ただのうわさよ。スキル増幅石なんてものが、本当に存在しているかは定かじゃないわ」


 ただの雑談として話を終えたミンディだったが、ゴッちゃんは焦ったように大量の汗を流している。


『そんなものでスキルを使いまくったら、惑星の寿命がどんどん短くなるではないか!』


(そうだよな)


 スキル増幅石によってどのくらい力が増幅するのかは分からないが、普通にスキルを使うよりもエネルギーを消費することは確かだろう。

 ……ということは、スキル増幅石を一つ壊すだけで、何十人分ものスキルを集めるのと同等の効果があるかもしれない。


「ゴッちゃん、スキル増幅石を壊したら、スキル集めのペースを少し落としてもいい?」


『スキル増幅石なんて勝手なものを、許すわけにはいかんのじゃ。もしスキル増幅石の破壊に成功したら、少しならスキル集めのペースを落としてもいい。儂が許可する。少しだけじゃが。だから、なんとしてもスキル増幅石を壊すのじゃーーー!!』


 ゴッちゃんは居ても立ってもいられないのか、俺の前でバタバタと走り回った。


「なあ、ミンディ。そのスキル増幅石は、学校のどこにあるんだ?」


「だから、どこにあるも何も、本当にスキル増幅石が学校にあるかは分からないんだってば。そもそもスキル増幅石なんてものが存在するのか自体不明だし」


 しかし、昨夜の三人のことと照らし合わせると、実際にスキル増幅石が学校にある可能性は高いと思う。

 スキル増幅石ではなかったとしても、きっと学校には何らかの宝が隠されている。


「じゃあ質問を変えるな。学校にあるのがスキル増幅石ではない宝だったとして、その宝は学校のどこにあると思う?」


「そうねえ。大事なものを保管するなら、校長室が一番安全かしら。校長室にはあの校長先生がいるんだから」


「校長先生がものすごく強いという話は私も聞いたことがあります。実際に数々の実績も残してますし。お爺さんなのに強いなんて、カッコイイですよね」


「ああ、確かに強そうだったな。実績に関しては全然知らないけど」


「……フィンレーって魔法が得意だから頭は良いんだろうけど、世間知らずよね」


 この学校の校長が強いことは、そんなに有名な話なのだろうか。

 俺は過去にもそんな話は知らなかった……って、山籠もりをしていたから当然だが。


「魔法が得意だと頭が良いんですか?」


 リリーがミンディの言葉に反応した。


「何も考えずに魔法を使ってる人が多いけど、きちんと術式を理解することで、魔法を最大化、効率化できるのよ」


「フィンレー君はそれが出来ているということですね!? すごいです!」


 ミンディの言う通り、何となくでも魔法は使える。

 しかし何となくで使った魔法は、それなりの威力しか出ない。

 しかもそれなりの威力の割に、魔力消費が激しい。

 それを防ぐためには、きちんと魔法の術式を理解することが必須となる。


「俺も術式を理解するまでには、かなりの時間を要したけどな」


「あら、フィンレーってば見えないところで努力してたのね。考えてみれば当然か」


「まあな」


 俺が努力をしたのは過去のことだが、過去に学んだ術式は、きちんとこの頭の中に入っている。

 とはいえ、この身体での魔力量はたかが知れていて、いくら効率化したところでそれほどの威力の魔法はまだ使用できないのだが。


「あたしももっと術式を勉強しないと」


『フィンレーよ、話が脱線しているのじゃ。早く話をスキル増幅石に戻すのじゃ』


(はいはい。スキル増幅石の話だな)


 話がスキル増幅石から離れ始めたことを、ゴッちゃんが咎めた。

 そのため、俺はもう一度学校の話に話題を戻す。


「宝が保管されてるとしたら、校長室には厳重な警備がしかれてるんだよな?」


「そうだと思うわ。だから校長室にあるものは、簡単に盗まれることはないはずよ」


「そうか。侵入は難しいのか……」


 ということは、俺も簡単には侵入することが出来ない。

 スキル増幅石を壊すことは、一筋縄ではいかなそうだ。


「だからあたしたちが心配する必要はないと思うわ。たとえ学校が襲撃されたとしても、貴重品が校長室にあるなら盗まれはしないもの。そんなことよりも、あたしたちは授業で落ちこぼれないようにすることを考えた方が良いわ」


「お、落ちこぼれは、嫌です……」


 リリーが心配そうな表情になったところで、昼休み終了のチャイムが鳴った。


「さあ、遅刻なんかで落ちこぼれにならないように、さっさと教室に戻りましょ」


 ミンディが水とサンドイッチの空箱を持って立ち上がった。

 俺とリリーもミンディのあとに続く。


「ミンディちゃん、楽しい時間をありがとうございました」


「こちらこそよ。タイミングが合ったら、また一緒にお昼を食べましょうね」


「じゃあまたな、ミンディ」


 ミンディは特進科クラスの教室へ、俺たちは普通科クラスの教室へと急いだ。




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