宗太郎と鮎子は香川で讃岐うどんを味わい、四国四県の旅を続けていた。広島での別れを胸に、愛媛でみかん料理を提案し、香川の宿で愛を深めた二人は、新たな一日を迎えた。
翌朝、宗太郎と鮎子は宿を後にし、香川のオリーブ畑を散策することにした。朝の陽光がオリーブの葉を照らし、穏やかな風が木々の間を抜ける。宗太郎は鮎子の手を握り、緑の風景に目を細めた。
「鮎子、このオリーブ畑は趣があるな。讃岐うどんの余韻が残る中、また新たな味に出会えそうだ。そなたと共にある旅は、どこも特別だ。」
鮎子は宗太郎の隣で微笑み、頷いた。
「宗次さん、うん、綺麗だね。オリーブの木って初めて見るかも。そなたと一緒なら、どんな場所も楽しみだよ。」
二人は畑の小道を歩き、オリーブの香りと土の匂いに包まれた。道すがら、50歳のオリーブ農家・七之助が木の手入れをしていた。七之助は二人を見つけ、親しげに声をかけた。
「よう、旅人か? このオリーブ畑は香川の誇りだ。少し休んで、オリーブでも食べてけ。」
宗太郎は七之助に頭を下げ、感謝した。
「はい、七之助殿、ありがとう。オリーブも興味深い。ぜひいただきたい。」
七之助は笑顔でオリーブの実を籠から取り出し、二人に手渡した。オリーブは小ぶりで、青と紫の色合いが美しい。宗太郎と鮎子は木陰に座り、オリーブを口に運んだ。宗太郎は実の苦みと油分の豊かさに目を輝かせた。
「鮎子、このオリーブ、独特の味わいだな。苦みが舌に残りつつ、油の深さがある。愛媛のみかんとまた違う魅力があるよ。」
鮎子も一口食べ、頷いた。
「宗次さん、確かに面白い味! 少し塩味が効いてて、噛むほどに味が出るね。七之助さん、ありがとう。」
七之助は二人の反応に満足げに笑い、話を続けた。
「これはうちで育てたオリーブだ。オイルにもなるが、そのまま食べるのも地元の楽しみだ。旅人が喜んでくれると、俺も嬉しいよ。」
宗太郎は七之助の言葉を聞き、愛媛で鉄蔵にみかん料理を提案した日のことを思い出した。長年の舌と感覚を活かし、地域に還元したいという思いが再び湧き上がる。宗太郎は七之助に提案を口にした。
「七之助殿、このオリーブの味は素晴らしい。愛媛で料理を提案した経験を活かし、そなたのオリーブで新たな料理を思いついた。試してみないか?」
鮎子は宗太郎の言葉に目を丸くし、驚きと喜びで尋ねた。
「宗次さん、また料理の提案? みかん団子の時みたいに、すごいね! 私も手伝いたいよ。」
七之助も興味津々で頷いた。
「ほう、料理か? オリーブで何か作れるなら、ぜひ教えてくれ。俺の畑のオリーブを活かせるなら嬉しい。」
宗太郎は微笑み、アイデアを語り始めた。
「はい、七之助殿、オリーブの実を塩漬けにして保存食にしたり、油を絞ったものを地元の魚と合わせた料理にすると良い。香川の海の幸とオリーブの風味が調和するはずだ。」
鮎子は目を輝かせ、提案を加えた。
「宗次さん、いいアイデアだね! オリーブを刻んでおにぎりの具にしても美味しいかも。七之助さん、試してみない?」
七之助は二人の情熱に押され、賛成した。
「よし、試してみよう! オリーブを料理に変えるなんて、俺も楽しみだ。材料はたっぷりあるから、アイデアを活かしてくれ。」
宗太郎は七之助に感謝し、愛媛での成功を思い返しながら語った。
「七之助殿、ありがとう。俺の旅で培った舌を活かし、そなたのオリーブを広めたい。少しでも還元できれば、旅の意味が増すよ。」
七之助は感激し、頷いた。
「宗次殿、鮎子さん、ありがとな。このオリーブで何かできるなら、村も賑やかになるかもしれない。期待してるよ。」
午後、宗太郎と鮎子は七之助と別れを告げた。七之助は二人にオリーブの小瓶を渡し、祝福の言葉を贈った。
「宗次殿、鮎子さん、徳島へ向かうなら気をつけてな。オリーブを食べて、旅の安全を祈るよ。また戻ってこい。」
宗太郎は深く頭を下げ、鮎子と共に次の目的地へ向かった。
「七之助殿、ありがとう。俺たちは四国を旅し、広島に戻る。そなたの温かさを忘れん。」
鮎子も礼を言い、七之助に手を振った。
「七之助さん、ありがとうね! 徳島でまた新しい味を見つけるよ。」
二人はオリーブ畑を後にし、徳島への道を歩み始めた。オリーブの香りが旅の記憶に残り、愛媛での料理提案が香川でも花開く予感に満ちていた。広島への帰還が近づき、旅の終わりと新たな始まりが静かに準備された。