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第42話 高知の初日、風と出会いの予感


宗太郎と鮎子は香川から高知への道を歩み、四国四県の旅を続けていた。広島への帰還を胸に、愛媛でみかん料理を提案し、香川のオリーブ畑で七之助と出会った二人は、旅の道すがら愛を深めていた。


宗太郎と鮎子は高知の地に足を踏み入れた。朝の潮風が港町を吹き抜け、遠くの山々が朝日を受けて輝く。宗太郎は鮎子の手を握り、彼女の隣で新たな旅の始まりを感じた。


「鮎子、高知の風が気持ちいいな。香川からの道でそなたとの愛を深めたが、ここでも新たな出会いが待っていそうだ。そなたと共に見る景色が楽しみだ。」


鮎子は宗太郎の手に寄り添い、笑顔で答えた。


「宗次さん、うん、風が気持ちいいね。あなたと手をつないで歩くこの道、幸せだよ。高知で何が見つかるか、ドキドキする。」


二人は港から少し離れた市場へ向かい、魚介の香りと商人の声が響く賑わいの中を歩いた。道端の小さな茶屋で一息つき、宗太郎は鮎子の肩に手を置いた。彼女の髪が風に揺れ、旅の疲れを忘れるような穏やかさがあった。


「 鮎子、そなたのそばにいると旅の疲れも癒える。高知での数日間で、そなたとの時間を大切にしたい。昨夜の道すがらの愛が、俺の心を温かくするよ。」


鮎子は宗太郎の胸に軽く寄り、照れながら囁いた。


「宗次さん…私もだよ。道でそなたに抱きしめられた時、もっとそばにいたいって思った。子供の話もしたけど、高知であなたと愛を深めたいね。」


宗太郎は鮎子の頬に手を添え、優しく微笑んだ。市場の喧騒の中でも、二人の世界は静かで親密だった。


「鮎子、そなたのその言葉が俺を強くする。旅の合間にそなたを愛し、子を夢見る夜を高知で過ごしたい。そなたの肌に触れるたび、俺の愛が深まる。」


二人は茶屋を後にし、高知の街を散策し始めた。坂道を上ると、太平洋が眼下に広がり、波の音が遠くに響く。宗太郎は鮎子の腰に手を回し、彼女を自分の体に引き寄せた。風が二人の髪をなびかせ、愛情が溢れる瞬間だった。


「鮎子、この景色は素晴らしいな。そなたと共に見る海が、俺の心を解放する。道でそなたの唇に触れたかったが、ここで少しだけ…。」


宗太郎は鮎子の顔をそっと持ち上げ、彼女の唇に軽く口づけた。短いキスは風に隠れるように終わり、鮎子は頬を赤らめて彼の胸に顔を埋めた。


「宗次さん…あなたのキス、ドキドキするよ。子供ができたら、こんな愛を教えてあげたい。高知での日々が、あなたとの思い出になるね。」


宗太郎は鮎子の背中を撫で、彼女の耳元で囁いた。


「 鮎子、そなたとの愛は俺の宝だ。高知での3日間、そなたと寄り添いながら旅を楽しみ、広島への帰還を夢見よう。」


二人は坂道を下り、市場近くの小さな料理屋「海風庵」へ足を運んだ。店主の康次、40歳の男がにこやかに二人を迎えた。店内には新鮮な魚介の香りが漂い、窓からは海が見えた。


「ようこそ! 旅人か? 高知の名物、かつおのたたきはいかがだ? 今日獲れたばかりのものが入ってるぞ。」


宗太郎は康次に微笑み、注文を決めた。


「はい、康次殿、かつおのたたきを頼む。旅の初日にふさわしい味を味わいたい。」


康次は頷き、慣れた手つきで準備を始めた。程なくして、丼が運ばれてきた。

かつおのたたきは、新鮮なかつおの表面を軽く炙り、ニンニク、ネギ、ポン酢で味付けされた一品。香ばしい香りと魚の旨味が口に広がり、潮風と調和していた。


宗太郎は箸でたたきを手に取り、香りを嗅いだ。炙りの香ばしさと生の鮮度が混じり合い、舌に広がる。鮎子も一口味わい、目を輝かせた。


「宗次さん、このかつおのたたき、美味しい! 香ばしくて、口の中で海の味が広がるよ。」


宗太郎は頷き、かつおを味わいながら心の中で評を紡いだ。旅の思い出と高知の風土を思い出し、筆を取り始めた。


かつおのたたき、高知の海が一皿に宿る。炙りの香ばしさが鮮度と調和し、潮風と共に旅人の心を満たす。鮎子と共に見た味は、俺の旅路を彩る。


評を書き終え、宗太郎は鮎子に見せた。鮎子は目を細め、宗太郎の肩に頭を寄せた。


「宗次さん、素敵な評だね。かつおの味が高知の海みたい。広島に戻ったら、父さんにも教えてあげたいよ。」


宗太郎は鮎子の髪を優しく撫で、彼女の言葉に心を動かされた。


「そなたの言う通りだ。かつおのたたきは俺たちに高知の力をくれる。辰五郎殿にこの味を伝え、四国四県の旅を終えたら広島へ帰ろう。」


二人はたたきを分け合い、宗太郎が鮎子に一口差し出すと、彼女は照れながら口を開けた。鮎子も宗太郎に返し、二人は笑い合った。康次はカウンター越しにその様子を見、穏やかに語った。


「若い夫婦だな。かつおのたたきは高知の誇りだ。旅を楽しんでけよ。」


宗太郎は康次に感謝し、鮎子と手を握った。


「康次殿、ありがとう。俺たちは四国を旅し、各地の味を味わう。そなたのたたきは、俺たちの旅の宝になる。」


鮎子は康次に微笑み、付け加えた。


「康次さん、たたき、すごく美味しかったよ。旅の思い出に残る味だね、ありがとう。」


康次は頷き、二人の幸せそうな顔に満足げだった。




午後、宗太郎と鮎子は料理屋を後にし、高知の街をさらに探検した。海風が頬を撫で、かつおのたたきの余韻が口に残る。宗太郎は鮎子の肩を抱き、静かに語った。


「鮎子、かつおのたたきは旅の新たな味だ。高知での3日間、そなたと共に見る景色を楽しみ、四国四県を巡ろう。広島への帰還が近づいてきたな。」


鮎子は宗太郎の胸に寄り添い、穏やかに答えた。


「宗次さん、私もそう思う。たたきの味が海みたいで、あなたと一緒ならもっと好きになったよ。子供のことも、広島でゆっくり考えたいね。」


二人は手をつなぎ、高知の街を歩み続けた。かつおのたたきの味が二人の心に残り、さらなる旅が新たな物語を予感させた。広島への帰還が近づき、四国の終わりと新たな始まりが静かに準備された。



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