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第10話 雪の日の新たな挑戦



翌朝、窓の外を見ると、昨夜から一晩にかけて積もった雪が一層厚くなっていた。雪国では晴れ間が出ることは極めて稀で、鉛色の厚い雲が空を覆い続けていた。朝日が昇っても、その光は雲に遮られ、雪景色は淡い光の中でぼんやりと輝いていた。遙(はるか)はベッドからゆっくりと起き上がり、昨日の夜に行った暖房の調整を思い出す。部屋全体に暖気が行き渡るように、寝室と台所のドアを開け放ち、ヒーターのスイッチを少し強めに設定した。外の冷たい空気が室内に侵入しないよう、細心の注意を払うことが雪国では日常茶飯事だった。


朝食を済ませ、コートとマフラーをしっかりと身につけた遙は、再び雪道へと足を踏み出した。昨日の経験から、今朝は早めに家を出て、通勤時間を短縮することにした。雪が積もり始めてから数時間経過し、積もり具合も徐々に増している。雪道を歩く際の注意点を再確認しながら、ゆっくりと歩みを進める。今日の天気予報では、さらに雪が降り続ける可能性が高いとされており、遙は心の中で「今日は特に気をつけないと」と自分に言い聞かせた。


オフィスに向かう途中、同僚の佐藤(さとう)が遙に声を掛けてきた。「おはよう、遙さん。今日は雪が多そうだから、気をつけてね。」佐藤は雪道での歩行に慣れており、遙にとって頼もしい存在だ。彼女の励ましに、遙も笑顔で応える。「おはようございます。ありがとうございます。今日はもう少し早めに出ようと思って。」


オフィスに到着すると、予想以上に社員が少ないことに気づいた。朝から雪が積もり始めた影響で、通勤が遅れたのだろう。デスクに荷物を置き、パソコンを起動させると、佐藤が近づいてきた。「今日は特に大変だった?」と遙が尋ねると、佐藤は「まあ、昨日よりは少し早く出たので大丈夫でした。でも、雪が積もると本当に大変ですね。」と答えた。


佐藤は「そうですね。特に朝は車通勤の人にとっては厳しい時間帯になります。」と頷いた。車通勤の社員にとって、朝の雪はまさに試練だ。遙はその厳しさを改めて感じながらも、同僚たちの努力に感謝の気持ちを抱いた。


午前中の業務は順調に進み、昼休みが近づいてきた。今日は特に予定が詰まっていたため、遙は同僚の山田(やまだ)にランチの誘いを受ける。「遙さん、今日はちょっと忙しいみたいだから、一緒に昼食を取りませんか?」と山田が提案する。遙は「ありがとうございます、ぜひお願いします。」と答え、二人でオフィスを出ることにした。


昼食時、山田は雪国での生活について詳しく語り始めた。「雪が積もると、普通の生活が一変するんですよ。例えば、スーパーに行くだけでも時間がかかるし、電車が止まると会社までどうやって行くか悩みます。」遙は「本当に大変ですね。でも、こうして皆さんと話すと少し安心します。」と応える。山田は笑顔で「そう言ってもらえると嬉しいです。最初は誰でも戸惑いますけど、慣れてくると雪国の良さも見えてきますよ。」と言った。


その後、ランチを終えた二人は再び雪道を歩き始めた。午後も残業が予想される中、遙は少し早めに帰宅することにした。「今日は特に予定がないから、少し早めに帰ろうかな。」と山田に告げると、「了解です。気をつけて帰ってくださいね。」と返された。


オフィスを出ると、外はさらに雪が積もり始めていた。視界が悪くなり、足元が滑りやすくなる中、遙は慎重に歩を進めた。寒さが一段と厳しくなっていることを実感しつつも、心の中では「今日も一日頑張った自分を褒めたい。」という気持ちが芽生えていた。


帰宅途中、急に空が暗くなり、風が強く吹き始めた。雪が一気に降り出し、ブリザード状態に突入した。視界がほとんどなくなり、風雪が顔に容赦なく吹きつけてくる。遙は「やばい、こんなに急に降るなんて……」と焦りながら歩いていたが、あっという間に雪が積もり、道が見えなくなってしまった。


その瞬間、遠くから聞こえてくる車のエンジン音に気づいた。どうやら近くで車が止まったようだ。遙は「助けてもらおう」と考え、車に向かって歩き始めた。すると、そこには同僚の佐藤が立っていた。「遙さん、大丈夫ですか? こんな天気の中、一人で歩いているなんて心配でした。」と声を掛けられ、遙は「ありがとうございます。ちょっと迷ってしまって……」と答えた。


佐藤は「一緒に帰りましょう。こんな天気の日は無理せず、みんなで協力するのが一番です。」と言ってくれた。二人で車に乗り込み、アパートへと向かう道中、佐藤は「雪国の冬は本当に厳しいですよね。でも、こうして助け合える仲間がいるから頑張れるんです。」と話した。その言葉に、遙は「本当にそうですね。皆さんのおかげで、少しずつ慣れてきています。」と感謝の気持ちを伝えた。


車に乗ってからも、雪は降り続け、視界は一層悪くなったが、佐藤のおかげで無事に帰宅できた。アパートに到着すると、佐藤は「もう大丈夫ですか? 無理しないでくださいね。」と声を掛けてくれた。遙は「ありがとうございます。今日は本当に助かりました。」と答え、佐藤にお礼を言った。


部屋に入ると、すでに暖房が効いており、心地よい温もりが広がっていた。遙は深呼吸をし、寒さから解放された安心感に包まれた。「今日は本当に大変だったけど、助けてくれる人がいて良かった。」と心の中で呟きながら、ファンヒーターの前に座った。


夜が更け、雪は止む気配もなく降り続けた。窓の外はまるで白銀の世界が広がり、静寂の中に雪の音だけが響いていた。遙は一日の出来事を思い返しながら、明日の準備を始めた。もし明日も同じような天候になったら、どう対処すれば良いのか、同僚たちの助けを借りながら考える必要があると感じた。


ふと、壁にかけた時計を見ると、もうすぐ就寝時間だ。遙は一息つき、ベッドに横たわった。今日一日が自分にとってどれほど貴重な経験だったかを考えると、少しだけ自信がついた気がする。雪国での生活は決して楽ではないが、同僚や友人たちとの絆がその困難を乗り越える力となっている。


「明日も頑張ろう。」と心に誓いながら、遙はリラックスした表情で深呼吸をした。雪国の冬はまだまだ厳しいが、少しずつ自分のペースで順応していくことができると信じていた。同僚たちとの交流や助け合いが、彼女の生活を豊かにし、この地での新しい日常を築いていく力となっているのだと感じながら、遙は静かに眠りについた。


翌朝、窓の外を見ると、雪は一層積もり、鉛色の空が厚く広がっていた。晴れ間など見ることはほとんどなく、雪国では鉛色の空に覆われた毎日が続いている。朝日が昇るとともに、雪が淡く光を反射し、静かな白銀の世界が広がっていたが、晴れ間が出ることは極めて少なく、その美しさもどこか寂しげだった。雪国での新たな一日が、また始まろうとしていた。



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