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第8話 邂逅


「なんじゃこりゃあ!?」


 扉を開けたザンドは予想外の異変に驚きに叫び声を上げた。


 部屋の中は見慣れた壁画があるだけの変哲も無い大広間……ではなく、光り輝いていたのだ。それも通路のような優しい光り方とは違う。


 床をヒュンッヒュンッと幾乗も光の線が走り、その軌跡が何か紋様のようなものを描き部屋を明るく照らしていた。


 いや、床だけではない。壁にも天井にも光が忙しく走り回り、規則的な図形を描いている。


「むぅ、これは魔方陣かのぉ?」

「魔法陣って、魔導具に刻み込むアレ?」


 言われてみれば似ているような気がする。そう思ったヒィロは辺りの光の魔方陣を見回し、正面の壁画に顔を戻して目を大きく見開いた。


「見てじぃちゃん! 壁画が光ってる!?」


 それは何の変哲も無い大きな扉の絵のはずだった。


 ところが、床や壁と同じく、その線に沿って光が疾った、そう思った瞬間、壁画だったはずの扉に質量感が生まれたではないか。


 まるで本物の扉の如く絵の扉が内側へ大きな音を立て開いていく。そして、完全に開き切ると、扉の向こう側は光の世界で何も見えなかった。


 それほどの光量であったが、不思議と眩しくはない。それどころか、なぜか光が扉の境界から漏れ出てこないのだ。まるで光の膜を張っているような、そこに光が壁を築いているような、そんな不可思議な現象。


 ヒィロ達は呆気に取られ目の前の光景に言葉を失った。


「あれは……何じゃ?」


 その異変に真っ先に気づいたのはザンドであった。真っ白なと言うべき光の膜に、いつの間にか小さな黒いシミのようなものが浮いていたのである。


「何か出て来るぞい」


 その黒点をじっと観察していると、次第に大きくなっていく。やがて、蜃気楼のようにゆらりゆらりと薄っすらと滲む影だと分かった。


 光の向こう側からこちらの世界へと何かが近づいてきている。


(なんだろう?)


 ヒィロの胸が高鳴った。


 未知の恐怖よりも未知への好奇心が勝ったのである。自分をまだ見ぬ世界に導く冒険へと駆り立ててくれる、そんな予感がヒィロの夢と希望を嫌でも刺激すした。少年の期待に膨らむ胸はどうしたって抑えられない。


(人?)


 徐々に影の輪郭がはっきりとしてくると、それは人影のように見えた。


 ——リィィィィィン


 そう思った瞬間、鈴のように高い音が部屋に響き渡り影を中心に波紋が広がった。光で構成されているはずの膜にである。


「ヒィロ、何か出てきたよ!」

「あれは……人の手?」


 その波紋の中心から人の腕が光の膜を突き抜けてきた。手の平から更に肘まで出てくると、人影もかなり輪郭がはっきりしてくる。ヒィロと同じくらいの背格好だろうか。


「気をつけるんじゃ!」

「んぎゃーーー、なんか出てきたよ!」


 ザンドがメイスを構え警戒する。ナヴィは翼をパタパタさせながらヒィロの後ろへと隠れた。しかし、ただ呆然とする少年が一人。


 その光景あまりに神秘的で、ヒィロは黙って見入ってしまっていた。


「女……の子?」


 皆が見守る中、光の壁を越えて現れたのは一人の少女。それはヒィロとさして年齢の変わらない女の子だった。


「なんじゃこの圧倒的なプレッシャーは!?」

「何この力!? バ、バケモノだよ!」


 だが、その少女から放たれる凄まじい圧力にザンドは身動きが取れず、ナヴィは恐怖に地面に伏して頭を抱えた。それは生まれて初めて感じる圧倒的な神気。二人にとって未知の力。


 しかし、ヒィロはその中にあってその少女に心を奪われ見惚れていた。


「綺麗だ……」


 無意識にヒィロの口から零れ落ちた。


 その髪は晴れ渡った天よりも澄んで青く、その瞳は南国の鮮やかな海よりも透き通って青い。作り物のようにピクリとも動かない白磁の顔はとても整っていた。


「なんて綺麗な人なんだろう……」


 それはあまりに美しく神秘的な少女だった。


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