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第二十七話 マーカロン村の決戦①

「すごい数のゴブリンだ。数百はいるぞ。マーカロン村を包囲しつつ、じりじりと迫ってきている」


 村の周囲の偵察に出たガンドルフィは、驚くべきゴブリンの大軍を目の当たりにして危機感をあらわにしていた。


 私はマーカロン村と、その周辺の地図を広げ、ガンドルフィの報告を元に村の周囲にゴブリンを表す駒を並べた。


「まず村人を全員広場に集める。ゴブリンなど何匹いようと私の敵ではないが、四方から同時に攻められては全員を守り切れない。一ヵ所に集まることは危険でもあるが、そうせざるを得ない」


 私の判断にガンドルフィも同意してくれた。

 すぐに村人全員が広場に集まり、身を寄せ合った。

 大人の男たちは木の棒や鍬、何人かは剣や斧などの武器も持ち、最低限、自分たちの身は自分で守る覚悟を示してくれた。

 だが、私は出来れば彼らがそうした危険を冒さなくても済むようにしたかった。


 私はゴブリンが村を包囲する戦略に出たことを苦々しく思った。

 一方からまとめてかかってくれば、私が真正面から迎え撃ち、一匹残らず全滅させることができる。

 しかし、四方から攻められては一人で全てのゴブリンを迎え撃つことは不可能だ。


 この狡猾で知恵を働かせた戦略は、ゴブリンが考えた作戦ではないだろう。


 明らかにゴブリンを裏で操る黒幕がいる。

 そしてその黒幕は最も効果的な───我々、マーカロン村側がされては困る手段に打って出ている。

 そうしたことができるのも、その黒幕が、マーカロン村の内部にいるからに他ならない。


 ランスアーサー。

 勇者その者が情報を漏らしていると考えて間違いないだろう。


 私は勇者ランスアーサーの裏切りを苦々しく思った。


「私は村の北門を守る。ガンドルフィは東の草原側を頼む」


「わかった。任せてくれ。

 それと西の崖と山道、それに沼地はマリアンヌが引き受けてくれるらしい。仲間のリザードマンも集まって協力してくれるそうだ。少なくとも西から来るゴブリンは食い止めてくれるはずだ」


 その知らせは正直嬉しかった。

 戦力不足のマーカロン村にとって、一方だけでも防衛を考慮しないで済むことはとてもありがたいことだった。


「今度、マリアンヌによくよくお礼をせねばならんな」


 私はその際は、マリアンヌを殴り飛ばし、尻尾を引き千切ったことも詫びようと強く思った。


「いや。マリアンヌは良い沼地を与えてくれて喜んでいたぜ。さらに自分をボスモンスターに抜擢してくれて誇らしく思ったそうだ。マーカロン村のボスモンスターとして、村を襲うゴブリンを撃退するのは当然らしいぞ。ここは彼女の好意に甘えよう」


 ガンドルフィのその説明に私は「そうだな」と大いに同意した。


「それより村の南はどうするんだ?」


 ガンドルフィは村の地図を見て、北側に私、東にガンドルフィとマリオット、ジェラド、パナンの子供たち三人、そして西にマリアンヌが布陣しているのは確認したが、南が空いていることを気にかけた。


「南は阻塞バリケードを築く。村中の樽、馬車、荷台、木箱をありったけ集めて築くんだ」


「それでゴブリンの侵入を防げるか?」


 ガンドルフィは心配そうだった。


「いや。完全には無理だ。だが、時間は稼げる。その時間を稼いでいる間に私が北のゴブリンを全滅させ、すぐに南に向かう。私なら間に合うことができるはずだ」


 私は自信がありそうにガンドルフィに伝えたが、さすがに不安もあった。

 ゴブリンを倒すことなど朝飯前だ。

 だがすばしっこく、数が多いゴブリンを全滅させるには時間がかかる。

 その間に阻塞バリケードが突破され、村人が襲われたら───……。


 だが、こうするしかなかった。

 マーカロン村は戦力の頭数が不足しているのだ。


「せめてあと一人、頼れる誰かがいればな……」


 ガンドルフィがそう漏らすと、その言葉を待っていたかのようにランスアーサーが冒険者ギルドにやってきた。


「はっはっはっ。ガンドルフィギルドマスター。それならここに私がいるではありませんか。不詳・ランスアーサー。マーカロン村の皆さんの為に、喜んで助太刀をします」


 私は苦虫を嚙みつぶしたような顔になった。


 ランスアーサーの申し出には絶対に裏がある。

 この申し出を受けては駄目だ。

 元勇者パーティーの剣聖でSランク冒険者の私の勘がそう警鐘を鳴らす。

 だが背に腹は代えられなかった。


「ランスアーサー、それは助かります。是非、マーカロン村の危機を救ってください」


 ガンドルフィもランスアーサーに懇願した。


「是非もありません。マーカロン村も王国の一部───その平和を守るのは勇者として当然の責務です。

 村の南側の防衛は私にお任せください。ゴブリンなどただの一匹とて村に侵入させません」


 ランスアーサーは大船に乗った気で任せろと言わんばかりだ。


 私とガンドルフィは表向きはランスアーサーに感謝し、ぜひ宜しく頼みますとお願いをしたが、ランスアーサーが持ち場に赴いた後に、お互いに顔を見合わせ「勇者ヤツを決して信用するな」と確認をし合った。

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