1打席勝負と言う名の決闘が始まった。真澄は投球モーションの体勢に入る。来るか!
真澄「これで終わらせて貰う!!」
初球が放たれる、しかし、その投球の先は私から結構外れ、遥か遠く、奥の金網に向かって暴投してしまう。
真澄「くっ、私の腕が…!!」
真澄は2球目を投げるも、再び暴投、放たれた球は私の頭上を越え、金網に着弾する。
涼子「………やっぱり、あの事件の影響で、上手く投げれないのか?」
真澄「うるせぇ!!黙ってろ!!」
梓「はぁ…くそ、まさかこんな中途半端な状態でマウンドに立つとはな、これなら尚更…。」
3球目を投げる、暴投、私は振らない。
それから真澄は何度も、何度も、何度も、ストライクゾーンへと向かって投げるも全く届かない。
中田「姐さん…。」
大島「真澄姐さん…。」
真澄「これで…どうだ!!!!!!」
続く10球目。投げた球は涼子の顔元ギリギリに素通りする。危なかった…。
涼子「うっ…!!」
私は怯まずに顔を上げて真澄を黙って見つめる。
梓「涼子!!」
涼子「来るなお前等!!……大丈夫だ。単にかすっただけだから。」
ゆっくり立ち上がる私は、再びバットを構える。
涼子「どうした真澄、何時ものお前ならそんな球、ストライクだろ?何時まで過去に怯えてんだ?」
真澄「怯えて何か…。」
涼子「怯えてるだろ!!」
真澄「っ!!!!」
真澄は震えながら、私に叫んだ。
真澄「私が…怯えてなかったら!!あの日、あんな風に去ってなかったら!!今こうしてないだろ!!そうだ、ああそうだよ!!私は!!ビビってるんだよ!!だからどうした!!ビビりで何が悪い!!!」
涼子「だったら思いっきり投げて来い馬鹿野郎が!!過去を超えて、ド真ん中に投げてみろ!!」
真澄「糞おおおおお!!!!!!!」
全身全霊を込めて投げた直球が放たれ、ストライクゾーンのド真ん中に着弾する。
涼子「………何だよ、投げれるじゃねえか。悪くねぇド真ん中だ。」
真澄「ふぅ…ふぅ………糞っ。」
大島「あれが、姐さんの本気の…。」
中田「前に、真澄姐さんの昔話で聞いた通りだ!」
中田と大島は真澄が昔の事を語りだした事を思い出す。
涼子「満足したら、もう投げる球はないか?」
真澄「まさか…止める気は無いだろうが!!」
デッドボールする恐怖と言う名前の、右腕の枷が全て外れたかの様に、真澄は再びストライクゾーンに向かって投げる。
涼子「くっ…。」
カキーン!! 再び真芯を捉えた打球はファウルエリアへ飛んでいく。
涼子「真澄、帰って来た見たいだな。」
真澄「はぁ……はぁ…。」
それからも、過去を超えた真澄は何度も全力投球を行い、私も何球も、何球も真澄の投球を全て、ファウルチップにして打ち返して行く。
ねね「すっごい、これが野球何だね!」
花蓮「うわあ、あんな対決、テレビでも見た事無いよ!」
桃華「てか、これがドラマだったら、めっちゃ泣けるよ。」
蒼「はいっ!自分も泣けるっすよ!」
梓「んだよ、めっちゃ楽しんでんじゃん、あの2人。」
大島「………これで、真澄姐さんは野球に専念出来るね。」
中田「うん。後はどうするか…。」
2人は縦に頷き、何か決意したのか、皆に気付かれない様に、この場から去って行った。
それからどのくらいの時間が経過したのか、何度投げ続けたのか、何度振るい、何度打ち返したのかも分からない。
真澄「はぁ…はぁ…。」
涼子「おい真澄、もうすぐ日が暮れるぞ。まだ投げるか?」
真澄「う、五月蝿いっ…。まだまだ。やれる!」
そう言い真澄は新たに投球する、放たれた外角の球を私は打ち返すがファウルエリアに入ってしまう。
涼子「……糞っ!ファウルか。」
桃華「ちょちょちょ!?こ、これで何球目なのさ!?」
梓「………放課後に始めてから2時間近くだから、推定だと、80球を超えたか。」
1打席でかなりの球数を投げ続ける真澄、これがもし公式の試合の1打席だったら、真澄の暴投とか無かったら、どうなっていたかは正直分からないだろう。
梓「にしても、こんなに時間掛かるとは思わなかったな…。」
仲間達は私と真澄の姿を見る、両者共に疲れは感じずに、衣服は汗塗れだ。
真澄「っ……さっさと空振り三振しろよ、何、意地でファウルチップ粘ってんだ?」
涼子「そう言う…お前こそ、何でスタミナ切れで疲れないんだよ?」
真澄「知るか!……だが、次の球で
真澄は硬球を握り持った右手を震えながらも、握力を増させる、恐らくだが、次で最後の投球になるだろう。
真澄「最後の球だ。行くぞ、涼子!!」
涼子「おっしゃあ来い!!真澄ぃ!!」
最後の1球が放たれる、恐らく真澄はこれを投げれば間違いなく倒れるだろう、けど、負けない、負けられない!!
私の最後の1振りを振るい放つ、届け!届けと、打つと同時に彼奴の心にぶつける!!
涼子「オラァァァァァ!!」
カキィン!!
打球が高く飛ぶ、頭上を高く越えて、夕陽に向かって高く、高くと…。
瞬間、私の意識は途絶えた。