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ChapterⅣ 戦争

第65話

 魔国ジーン 市街地


 夕暮れに染まる市街地へ、二つの闇が進軍してきた。

 ロシアンマフィアのスカー。そして中国マフィアのジョンイル。

 スカーの目的はただ一つ。娘を奪還すること。そのため、異世界を繋ぐ力を持つ悠を従え、この魔国ジーンへと戦争を仕掛ける。

 一方のジョンイルは、この侵攻を好機と見て動いた。ロシア勢の陰に隠れ、魔国をそのまま乗っ取ろうと、五百人の武装幹部を率いてゲートをくぐった。


 乾いた砂の上に着地したイザが、楽しげに空を仰ぐ。


 「よっと」


 ドサッと足元に砂煙が立ち、彼は両手を広げて叫んだ。


 「ほほう! ここが異世界ってやつか! 空気は澄んでるし、空も青い。すんばらしい!」


 その声が響いたのは、エルフたちがひしめく商店街。奇妙な人間の姿に、あちこちでざわめきが起きる。


 「なんだあれ……」「人間?」「誰か早く兵士に──」


 視線を浴びながらも、イザはお構いなしに振り返る。


 「おい、斧出せ」


 言われた部下が無言で斧を差し出すと、彼はそれを受け取り、悠然と市場の奥――肉売り場へ歩き出した。


 「これは何の肉? ずいぶんと臭いけどな」


 腐臭が鼻をつく。イザが鼻をひくつかせながらそう言うと、近くにいたエルフの商人が嘲るように応じた。


 「それは……貴様ら人間の肉だよ」


 にやりと歪んだ笑み。その挑発に、イザの笑顔が更に深まった。


 「へぇ。とっても旨そうだ。……お前の肉のほうがな」


 斧が唸りを上げて振り下ろされた。


 グシャッ──。


 血飛沫が空を裂き、エルフの頭蓋は砕け、崩れ落ちる。即死だった。

 次の瞬間、悲鳴が爆発する。


 「きゃああああああああああ!!」


 商人たち、買い物客、子供、女――四方八方へ蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。イザは両腕を広げて笑いながら叫ぶ。


 「おいおい! 逃げんなって! どうせもう逃げ場なんか、ねぇんだからさ!」


 背後の武装兵たちが、即座に銃を構える。


 「撃て!」


 ウージーの連射音が、街の静寂を切り裂いた。

 ズドドドドドドドドドド!!!

 飛び散る血、崩れる肉体、倒れる命。

 魔国ジーンの市場は、一瞬にして地獄と化した。


 そこへ、バールを片手に中年の男が現れた。腹が突き出たメタボ体型、額に脂汗を浮かべ、血の匂いに顔をしかめる。


 「……あーあー。こんなに血まみれになっちゃってよォ」


 中国マフィアの副頭領、ムニョ。ボス・パクの夫であり、実戦経験は乏しいが、今回の異世界制圧作戦の指揮を執る立場にある。彼の目は、惨劇の中心に立つイザを捉えていた。


 イザが笑いながら振り返る。


 「やっぱこれだよなぁ。これが楽しいんだわ、兄貴」



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