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第66話

 魔国ジーン 市街地外縁


 「ここが……魔国か」


 俺は足元に広がる不気味な大地を見下ろし、呟いた。

 青黒い空の下、見たこともない尖塔が並び、血の気を感じさせる空気が肌にまとわりつく。背後には、俺たちと共にゲートを越えてきた百名規模の重装兵たちが整列していた。


 だが、足を踏み入れてすぐ、歓迎の意志など一切ないことを思い知らされた。鋭い掛け声とともに、槍を構えた兵士たちが周囲を囲む。


 「動くな!」


 雑魚どもが何人いようが関係ねぇ。ザックが肩をすくめて、つまらなそうに言った。


 「じゃあ、さっそく戦闘開始だ」


 数名の兵が前に出て、AKを構える。次の瞬間――ズドドドドドッ!!

 連射された銃弾が鎧を易々と貫き、敵兵たちは血飛沫を上げて倒れていった。


 「はぁ……。葉巻よこせ」


 そう言ったザックに、部下が無言で細い筒を差し出す。彼はジュッと火を点け、紫煙をくゆらせた。


 俺は片腕を挙げて叫んだ。


 「おい、手錠外してくれよ。動きにくくてしょうがねぇんだよ」


 「我慢しろ。さあ、進むぞ」


 ザックの声とともに隊列が前へと進み始めた、次の瞬間――空が裂けた。


 「そぉらあああ!!」


 巨大な影が天から落下する。見上げる暇もなく、地面が砕け、轟音が周囲を飲み込んだ。地響きと同時に、地面が波打つように揺れる。


 「はぁ?」


 目を凝らせば、瓦礫の中に佇む屈強な巨人。両腕に岩を埋め込んだような怪物。その名を俺は知っていた。


 「見つけたぞ、久しいな、探偵」


 「……誰かと思えば、どこぞの海賊の裏切り者じゃねぇか」


 「クライス王からの命だ。お前を排除する。この世界に、これ以上人間を連れ込ませはしない」


 「クライスめ……。やっぱ味方じゃなかったってわけか」


 ザックが眉をひそめ、銃を構えた部下たちに命じた。


 「誰だか知らねぇが、撃て」


 ズドドドッ――銃弾が放たれるも、まるで通じない。怪物の皮膚は岩のように硬く、傷一つつかない。


 「貴様らに用はない。爆打!」


 怪物――ガーゴンが拳を振り下ろすと、地面が爆ぜ、爆風が周囲を飲み込んだ。ザックたちは吹き飛ばされ、次々と地面に叩きつけられ意識を失う。


 「くそっ……」


 俺は咳き込みながら立ち上がり、ポケットからリボルバーを抜いた。標的を捉え、引き金を引く――。


 パンッ!


 「効かん!」


 ガシッと両肩を掴まれ、体が宙を舞った。次の瞬間、レンガ造りの家の壁を突き破り、俺の体は叩きつけられる。


 「うぐぁ……!」


 「終わりだ。手刀・強刃!」


 振り下ろされる手刀の光が視界を切り裂く。俺は、とっさに両手の手錠のチェーンを刃にぶつけた。


 カチンッ! 火花が散り、金属音が空を切る。

 チェーンが真っ二つに裂け、両手が自由になった。


 「……やってくれたな、化け物がぁ!」


 立ち上がり、拳を握りしめ、右ストレートをガーゴンの顔面へと叩き込む――が、奴は微動だにしない。


 「かゆいぞ、探偵」


 その冷笑に吐き気すら覚えた。だが、まだ手はある。


 「マフィアの銃、借りるぞ」


 足元に転がっていたAKを拾い上げ、トリガーを引いた。


 「効かんと言っているだろうが」


 ――その瞬間。


 一発の銃弾が、ガーゴンの右目に命中した。


 「ぐああああああ!! 目があああ!!!」


 巨体がよろけ、そのまま膝をつく。目元を押さえ、苦悶に満ちた声を上げながらのたうち回る。


 「どんだけ強靭な肉体でも……目玉だけは別みてぇだなぁ」


 間髪入れず、俺は左目にも引き金を引いた。


 銃声が響く。

 ガーゴンの体が硬直し、その場に崩れ落ちた。


 静寂が、瓦礫の街に戻ってきた。

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