鉄の爪が、祠を持ち上げる。
ベルトコンベアのように舗装された仮設道路を通って、トラックの荷台へと祠が運ばれていく。
西園蓮司は、工事ヘルメットの下で眉間に皺を寄せていた。
「……佐伯さん、本当に“この場所”にあったんですか?」
「ええ、子どもの頃からここにありました。
“絶対に近づくな”って言われてて、正直、気味悪がってたくらいです」
佐伯梓は、砂埃の向こうに消えていく祠の背を見送った。
町の境界整備のため、数十年放置されてきたこの土地がようやく都市区画に組み込まれることになった。
その過程で、“放置された社”は、市の文化財課の許可を得て別の位置に“移築”されることになったのだ。
だが――
「……なんか、おかしくないか?」
祠を運び出したあと、地面に残った“跡”が、蓮司の目を引いた。
そこだけ、土が焦げていた。
それも、明らかに“炎ではない何か”で焼かれたような、色のない黒。
「これって……どう見ても、自然の腐植じゃないよな」
「でも、調査記録では“何も出てこなかった”って……」
その瞬間、風もないのに木々がざわついた。
音が、変わった。
“この場だけ”の空気が、重くなる。
遠くで鳥が鳴く声が、ぐにゃりと歪む。
携帯の電波が一瞬だけ、“圏外”に落ちた。
「……あの祠、“そこにあったもの”じゃない。
“そこにいたもの”だったのかもな……」
そのとき、佐伯梓のスマホに通知が入った。
差出人不明。添付ファイルつき。
画像を開くと、そこには――
祠が写っていた。
数分前に、トラックで運び出されたはずの祠が、街の反対側の公園の中央に、ぽつんと立っていた。
「……え、なにこれ……今朝の写真、じゃないの……?」
添付メッセージは、ひとことだけ。
──まがったのは おまえたちのほうだ