皆、北へ向かっていた。
ある者は徒歩で。
ある者はバギーを爆走させて。
ある者は船で。
ある者は飛行機で。
世界中の人々が北へ向かっていた。
アメリカ大陸の人も、アフリカ大陸の人も、ヨーロッパ大陸の人もユーラシア大陸の人も――ありとあらゆる人類が、北へ向かっていた。
とにかく北へ向かっていた。
必死に北へ向かっていた。
今、私たちは「南」から侵食されている。
その「侵食」は「北」へと進んでいる。
「侵食」された人々がどうなったのか――それは誰にも分からない。
皆、北へ向かっていた。
北へ向かうしかなかった。
だが、皆、気付いているはずなのだ。
この地球が球形であるという事実に。
この「行程」には、終点があるということに。
それでも人々は北へ向かう。
ただ、生きたいと願い、ただ、生きるために行動する。
人類の持つ、その思い、いや、執念は、こんなにも凄まじいものなのかと私は知った。
【北へ】