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第9話『オフコラボってぇ、ケミストリー生まれるんだってぇ』

 なまあたたかい初心者カップルみたいな空気で始まったうてめ初のオフコラボ配信だが、徐々に調子を取り戻した二人が軽快にトークを繰り広げていた。


『でね! ウテウト君が作ったハチミツチャーシューが鬼ヤバのうまさで!』

『お肉、やわらかかったわね』

『やめて! うてめ! そういうちょっとえっちぃのはアタシが言うから!』

『じゃあ、どうぞ』

『おにく、やわらかかったぁん……いや、二回目はもう冷えてるから! 固くなっちゃってるから! 空気が!』


 ツノ様が走り、上機嫌なうてめ様が振る、万振りフルスイングをかますツノ様。

 既にパターンが出来上がって、コメントも大盛り上がり。


〈やわらかお肉食べたい、ツノ様の固い肉などいらぬ〉

〈女神は、我がツノを千尋の谷に突き落とすのだ〉

〈うてつの確定〉


 テンポの良い会話に、ツノ様もどんどん調子を取り戻し、ノリノリでボケ始める。


 しかし、事件はその最中に起きてしまう。


 トークの中で蜂蜜酒の話になり、ツノ様の得意ムーブが始まったところだった。


『ウテウト汁いっただっきまーす、ひゃっはー!』


 そうこの若干引くようなワードセンスがツノ様の得意ムーブの勝ち筋!

 だが。

 その瞬間、うてめ様がツノ様の腕をとった。


『え? な、なに? うてめ……』

『弟の汁は、うてめのモノよ』


 え? こわいんだが?


 ヤバい、一瞬で引き戻された。ただいま、リアル。

 だが、そんなのは当事者の俺だけ。


 コメント欄は大盛り上がり。


〈どっかの漫画で見たな、腕を取る〉

〈とめたwww〉

〈ウテウト汁は渡さないw〉

〈うてめ様のウテウト愛ヤンヤンやん〉

〈つののこよ、これがうてめ様だ〉

〈緑の部屋は草が生えやすい〉


『い、やあ、でもさ、うてめ、これは、二人にってウテウト君がくれたもの、だからっ……!』

『あの子の汁になった時点でっ……もうそれはツノのものじゃないわ』


 おい、マジで掴みあっているんだが。


 あかん。


 おもしろい。


 本気で掴みあってる様子の二人だが、キャラの状態だとただただ二人が震えているだけで、想像で補完するしかないんだが、魂同士が掴みあっていると思うと笑ってしまう。

 ブルブルしてる画面の中の二人は、そのまま言い合いをし始める。


『じゃ、じゃあ! うてめが意地悪するってウテウト君に言っちゃうよ! いいの!?』

『……! やめてください……』


 即オチ二コマ完成。


 秒で撃沈されたうてめ様。弱すぎる。


〈早すぎたうてめ〉

〈うてめ様の四倍弱点w〉

〈こうかはばつぐんだ!〉


『え、ええと、ごめんね。うてめ。あの、ウテウト君にはそんな事言わないから一緒にのも?』


 ウテウトは聞いています。

 それを知っているはずのうてめ様だが、酔っているのか潤んだ瞳でツノ様に感謝の気持ちを表す。


『ツノ……! ありがとう』

『え? あ、うん、あはは……こちらこそー。あは』


 一気にツノ様の歯切れが悪くなる。

 基本攻め一辺倒のツノ様は、頭が良いので、相手にどう出れば、どう返すかを予想し、そして、その後の展開も考えながらトークを進める孔明だ。

 だが、うてめ様があまりにも超展開すぎて、ツノ様のスパコンもバグり始めている。


 だが、それが面白い。


 ツノ様防戦一方は、レアシチュエーションで、視聴者も大盛り上がりだ。


〈ツノ様にもこうかはばつぐんだ!〉

〈ウテウト×うてめ様 が四倍弱点でおk?〉

〈おい、やめろw〉


 二人とも地頭が良くて、普段のトークも流暢で、雑談配信ではトップクラスだ。

 そんな二人のオフコラボということで、軽快なトークを期待していたファンからすれば、思っていたのとちがう……だが、それが良い! という状況って感じだ。


 いきなり、うてめ様がデレていて、ツノ様が焦り、二人して照れ、トーク始めたと思ったら、取っ組み合いを始め、即負け、二人して照れ。


 誰がこんな展開を予想しただろうか。


 こういうことがあるから、オフコラボは面白い。

 慰めるツノ様と、慰められて素直にお礼を言い続けるうてめ様が、凄く近い距離で用意していた質問コーナーをやっている。いいぞ、もっとやれ。


『じゃ、じゃあ、最後に、お互いの良い所はどこですか? っていう質問。じゃあ、うてめちゃんが思う! ツノ様の良い所ー!』

『……今日ね、弟のごはん食べてるときに思ったの』

『うん? うん、うてめちゃん、それツノ様の良い所言ってる?』

『ツノって、本当にやさしいなって』

『……! え、えー、やっぱりぃい? ツノってもうほら、癒し系聖女っていうか、そんな感じ?』

『うん、本当にそう思う。つのは、聖女みたい』

『……! いやいやいやいや! い、いやいやいやいや!』


 フリを踏みつぶして迫るうてめ様に、焦り始めるツノ様。

 コメントはおおもりあがりだ!


『ひとつひとつの感想言ってたじゃない? つのってそう、ちゃんとひとつひとつ、ひとりひとりの気持ちを考えてる。感想言われなかったお料理がかわいそうって思ってるんじゃないかなってうてめは思ったの。そんなつのってやさしいなって』

『やめてよ!』


 ツノ様が叫ぶ。

 その顔は、歪んでいるように見えた。


『え、えいぎょうぼうがいだよ~。う、うああ、そんなこと、そんなこと言わないでよ~。ア、アタシ、そんな事言われたらうれしくて泣いちゃうじゃん~。血も涙もないけど汁はある下ネタ鬼婆でやってるのに、ちょっと、違うくなるじゃん~』


 ツノ様は泣きながらうてめ様に抱きついていた。


 そう、ツノ様は、優しい。

 企画で大人数集まった時は、裏回しで、若手とか引っ込み思案な子に絡みに行ってチャンスを回すし、自身のエピソードトークをフリに使ってくれたりする。


 だが、それは、


〈その通り!〉

〈ウチのまいんもツノ様にお世話になっています〉

〈ツノ様の半分はやさしさです〉


 ファンたちも分かっている。

 どれだけ配信を見ていると思っているんだ。


 だけど、同期の、しかも、そんな事を言いそうにないうてめ様が言ったせいもあるのだろう。

 ツノ様は配信で一番くらいの大泣きをしながら、うてめ様の好きな所を山ほど挙げ始めた。


〈てぇてぇ〉

〈うてつのの半分はてぇてぇです〉

〈残り半分はてぇてぇです〉

〈守りたい、このうてつの〉


 超展開のオチは、まさかの、号泣エンド。

 こういうこともあるからオフコラボは面白い。


 俺は、拍手を送り、パソコンを閉じて、キッチンに向かう。


 暫くすると、姉さんとツノさんがやってくる。


「お疲れ様でした。喉も乾いてるでしょうから、ちょっと奮発してスイカとメロンのボールを浮かべたフルーツポンチ風ドリンクです」


 少しだけ炭酸を効かせたフレーバーウォーターに丸くくりぬいたスイカとメロン、そして、アイ〇の実を氷代わりに浮かべたドリンクを差し出す。


 二人は地頭がいい。

 緑と赤のふわふわ一緒に浮かんだボールを見ると、二人で見つめあって笑っていた。


 てぇてぇなあ。


 うてめ様の初のオフコラボ配信は何から何までてぇてぇものだった。

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