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第10話『あたたかくってぇ、のぼせちゃったんだってぇ』

【神野ツノ視点】



「は、恥ずかしい……」


 め、めっちゃ泣いてしまった……!

 ゲーム配信で、ストーリーに泣くことはあってもオフコラボでは泣いた事なかったのに……!


 暫くなんか穏やかな気持ちで微笑みあってた。うあああああああああああああ!

 弟君が用意してくれた飲み物飲んで落ち着いたら、急激に恥ずかしさが襲ってきて、逃げるように弟君が入れてくれていたお風呂に入った。


 入浴剤は、勘違いでなければ、アタシの好きなラベンダーの香りがするヤツだった。

 湯加減は丁度良かったはずなのに、鏡に写った自分の顔はまっかっかだった。


「あうううううぅううう~」


 なんだ、あのうてめは!

 メチャクチャいい感じだったんだが!

 惚れるかと思ったわ!


 ストレートに好意を示してくるうてめに焦った。

 結構自分の感情をコントロールできるタイプだと思っていたのに……!




 昔からゲームが好きだった。


 ずっとゲームをやっているような子だった。

 恋愛シミュレーションとかも好きで、全キャラクリアまでやるような子だった。

 自分の性格で選ぶのではなく、相手の好む選択肢を見つけるのが得意だったと思う。客観的に人を見ることが出来、自分を抑えることが出来るコだったと思う。


 なのに、今日はもう溢れてて止まらなかった。


 なんで?


 うてめとは初のオフコラボではあったけど、今まで企画で何度も絡んだし、プライベートでも連絡は取っていた。


 けど、


「うてめ、かわいくなったなあ……」


 うてめはかわいくなった。ビジュアルの話じゃない。

 中身だ。

 素というか、すごく良い彼女の中身が出てきてる。そんな感じだった。


 あのコが恋愛シミュレーションのヒロインなら、選択肢ミスっても、好感度下がらないんじゃないかって位輝いてた。


 理由は、たぶん、いや、絶対弟君だ。

 うてめ自身が言ってるし、最近きっかけと言えるのはそれくらいしかない。


「弟君……ルイジ、君……」


 弟君の顔を思い浮かべる。


 言ったら悪いが普通の顔だ。

 漫画とかラノベの主人公みたく顔が髪で隠れてて実はって感じではない。


 けど、笑顔がかわいい、かも。


 配信終わった後も、感想を興奮しながら伝えてくれた。

 けど、なんというか、事務所の後輩とかにありがちな興奮しすぎてこっちの状態が見えてないって感じじゃなくて、ちゃんと言葉を選びながら気持ちをしっかり伝えてくれていた。


「うれしかった、なあ」


 お料理も美味しかった。

 イメージでしかないが、こういう時、憧れの存在がきたら、ちょっとお洒落な料理でかっこつけるもんだと思ってたら、メインはラーメンセットだったもんな。


 思わず、笑みが零れる。


 でも、美味しかったし、なんだろう。


「あったかかった」


 お風呂場にアタシの声が反響する。


 うん、あったかかった。

 胃に悪そうなものはなくて、柔らかくて、食べやすくて、おいしかった。

 それが、あったかかった。


「~~~~! の、のぼせるわ!」


 誰に向けたわけでもないツッコミを言いながら、アタシはのぼせる前にお風呂を出た。


「出た、よ……」


 リビングに向かうと、弟君がずっとうてめに向かってしゃべっていた。

 今回の配信のどこがよかったとか、お風呂入る前から話していたけど、ずっと話していたみたいだ。

 そして、うてめはそれをニコニコ聞いている。


 かわいいかよ。


「あら、ツノ、出たのね。じゃあ、入って来ようかな」

「ごめんね、姉さん。喋り過ぎたかも」

「過ぎてないわ。足りない位。また、あがったら聞かせて」

「うん!」


 なんだこのてぇてぇ姉弟は。


「じゃあ、ツノ、入ってくるね」


 マジで女神なんじゃねえかって微笑みで、恋する純情中学生くらい頬を染めながら、うてめが通り過ぎていく。マジ良い匂いがした。え? 主食、花?

 振り返ると、別の良い匂いがした。甘くてとろけるようなあったかい匂い。


「おつかれさまでした、つのさん。ハチミツ紅茶飲みますか?」


 え? アタシ、〇ルトラマンって勘違いしそうな位純粋小学生みたいな瞳でこっちを見てくるルイジ君。え? アタシの事、好き?


「のむぅ」


 お風呂上がりで良かった。

 顔が赤いのも、声が甘ったるいのも全部お風呂上がりのせいにできるもんな。

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