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第16話 『てぇてぇってぇ、簡単に生まれるもんじゃないんだってぇ』★

【63日目・風呂谷視点】



「どうなってるんだ!」


 【フロンタニクス】の事務所で私はスタッフに檄を飛ばす。

 最近の社員・タレントの仕事っぷりにはため息が出る。


「なんでウチのタレント達の配信頻度が落ちてるんだよ!」

「その、最近体調不良者多くて……」

「泣き言言ってんじゃねえよ! 仕事だぞ! 仕事! 分かるか? 明確に伸び率が落ちてるんだ、この二か月! ちゃんと仕事させろ!」

「いえ、こちら指定の仕事はやってくれるんですが、個別でやってる配信の頻度が……」

「ええい! それを気持ちよくやらせるのがお前らの仕事だろうが! とっととやれ!」


 不満そうな顔で社員達が業務に戻っていく。

 本当にタレント達の心が分かってないなこいつ等は……ちゃんと読み取ってやれって話だ。

 特に今日はピリついているのは自覚している。

 今日、ライバル会社と言える【ワルプルギス】のトップ、高松うてめが100万人突破耐久歌枠配信を行っている。


 そこに、ウチの二枚看板れもねーどとピカタをぶつける。

 ピカタは引退予定だが、案件が終わるまでは在籍の約束であり、よほど無茶な企画でなければ受けてくれる。というか、何故かうてめの配信と聞くと身を乗り出してきた。

 れもねーども、うてめと言うと二つ返事で引き受けてくれた。


 やはり、『Vtuberの一番』を奪い合っているというライバル意識があるのだろう。


 うてめの耐久配信は目標時間が設定されてた。

 時間内にいかなければ、企画としては多少寒いものに終わってしまうだろう。

 ファンはともかく、初見は簡単に見切ることもある。


 まあ、勝負の世界だ。非情にいこう。


 社員によると最近は、一対一のてぇてぇコラボが流行り始めているらしい。

 時代は先取り、私はすぐに提案し、この二人のてぇてぇとやら生み出す企画を作るよう社員に命じた。

 配信は間もなく、二人にも発破かけておくか。


「やあ! 二人とも準備は良い、か……?」


 配信ルームには既に二人ともいたが様子がおかしい。

 特にれもねーどがマネージャーと揉めている。


「おいしい食事用意してってお願いしたでしょ!」

「で、でも、それ、今、話題のお店なんですが……」

「……! そ、そう……。もういい! それでいいわよ!」

「あの、時間ないんで早めに食べて下さいね」

「分かってるわよ! 準備に時間かかって遅刻してごめんなさいね!」


 どうやら、マネージャーの用意した飯が良くなかったらしい。


「おい、れもねーど。ごめんな、コイツがちゃんとした飯用意してなくて」

「あ、社長……いえ! あの、大丈夫です!」

「今度から、私が最高級の所から取り寄せるからな。許してやってくれ」

「いえ、あの……ごめんね」


 れもねーどがマネージャーの方を見て謝る。謝る必要はない。

 マネージャーの仕事はタレントをサポートすることなんだから。


 そして、もう一人。ピカタは、黙々とゼリー飲料を飲んでいた。


「ピカタ、さん? それだけで大丈夫か? もつのか?」

「大丈夫です。何食べても同じですから、今は」

「そ、そっか。配信頼むぞ」

「頼むぞ? ……はい、出来るだけ視聴者の皆さんに喜んでもらえるよう頑張ります」

「お、おう」


 何とも言えない空気が漂い、私は配信ルームを後にする。

 そして、社長室に戻り、二人の配信を見守る。


『みなさん! 今日もがんばれもん! 小村れもねーどです! そして、』

『みなさーん、こんぴか~、引田ピカタだよ~☆』

『さあ! というわけで今日はいきなり事務所に呼ばれてゲリラコラボしろということで、何が起こるのか!? どきどきするね、ピカタちゃん』

『うん、指詰めなきゃいけないかと思った☆』

『いや、ここ健全な事務所だからね!』

『一応裁縫セットもってきたから大丈夫だと思うけど』

『いや、そんなんで指くっつかないから! っていうか、それ、小学校の時のお裁縫箱でしょ!』

『れもちゃんがバッサリいかれても頑張って祭り縫いするから』

『多分無理だよ! バッサリいかれる企画なの!? 今日!』

〈がんばれもん!〉

〈こんぴか~〉

〈ぴかれもキター!〉



 軽快なテンポの会話で始まる、よしよし。


『今回用意された企画は~……もっと仲良くなろうてぇてぇ二人を目指そう~!』

『わ~、どんどんぱくぱく~』

『ぴかちゃん、なんか、食べてる!?』

『ごくん。で、れもちゃん、どういう企画~?』

『えーと、大人気のお二人にもっと仲良くなってほしいということで……いや、事務所余計なお世話だよ! ねえ!?』

『う、うん……』

『やめて! リアルそうじゃない感出ちゃうから! ……と、というわけで、事務者側が色んな仲良くなるための課題を用意してくれたらしいので、やってみてください! とのことです! 頑張ろうね!』

『う、うん……』

『やめてー!』

〈確かにぴかれもって絡みなかったな〉

〈不仲説流れてた〉

〈だから意外だった〉


 そう、こいつらはあまり二人でのコラボをしたがらないから、非常にレアな企画だ。

 私が提案したんだが、なんでこういう事をウチのマネージャーは思いつかないんだか……。

 神企画だろうが!


 そして、ハグするや相手の良い所を言っていくなど様々なお題を乗り越えていく。

 が、


〈なんかビジネス感すごくね?〉

〈いや、かわいいやろ〉

〈かわいいだけ〉

〈てぇてぇとは違うかな〉

〈てぇてぇ不足〉

〈タイトルに偽りアリ〉


 何故か、盛り上がりに欠けた。しかも、途中から目に見えて二人の勢いが落ちていた。

 なんでだ!? 【ワルプルギス】のうてめはその倍以上の時間やってるって聞いたぞ?


〈てぇてぇなら今はワルだな〉

〈ワルのてぇてぇは今ヤバいから風呂もがんばれ〉

〈てぇてぇ風の目はうてめだからピカちゃんがんばれ〉

〈今うてめも耐久100万やってる〉

〈マジまだやってる?〉

〈同時だがうてめ見てるPCの熱がヤバい。熱すぎる。負けるな〉

〈ちょっと敵情視察行ってきますごめんね〉


 一部だがこんなコメントも流れた。なんて冷たい奴らだ……!


「くそ! くそおおおおお!」


 その日の対決の結果は明らかだった。

 トップ二枚の配信と、一人の耐久配信。しかも、うてめは……!


 記念配信になるなら、多少は差が出るかと思ったが、目も当てられない程の惨敗。

 私はアホほど酒をかっくらい、酔った勢いで夜中に社員に電話で檄を飛ばし続け、翌日、冷たい目で睨まれながら、事務所へと、遅刻してやってきた。

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