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第56話 『年末特別配信・ワルナイ2nd・【期対抗ゲーム大会】中編』

『さあ! 第一走者1位でバトンを渡したのは5期組! 2位はタッチの差で2期! どうみますか? みるるさん』

『そうですね、まだ分からないけれどそーだちゃんの激変っぷりにびっくりしましたね』

〈それな〉

〈ハンドル持つと性格かわるタイプ〉

〈第三の人格が発動してしまった〉


『はいはーい、そーだ、ないすぅ』


ガガが激軽ねぎらいをかけると、そーだはじとっとした激重ボイスでチームのみんなに声を掛ける。


『もう、あんなになってまでやったんだからさぁ、みんな、責任とってよ。絶対勝ってよね!』

『は、はいいい!』『おっけ』『はいはーい』


5期の第二走者はさなぎちゃん、2期組は黒羽クレアさんだ。


『はははは! さなぎちゃん! 待ってよ~、アタシと一緒にトぼう~?』

『い、いやです~! さなぎは、さなぎは勝ちたいんです~!』

『……な~んで、そんなに必死なの~? ウチのトップクラスがさ、もっと肩の力抜いて楽しみなよ~』

『楽しみます! 楽しまないと、ファンは楽しくないから。ファンだったわたしはそれを知ってるから。そして、いつだって本気のVtuberがわたしは好きだから!』


さなぎちゃんは、その気弱な声からは想像も出来ない程に強気に攻め始める。

彼女はこのゲームをやっていた。不器用で臆病な彼女はそのゲームがへたくそだった。

だけど、何度も何度も何度も何度も諦めずに本気でやり続け、漸く1位になっていた。

それが、たまらなくかっこいいVtuber、十川さなぎだった。


本気は伝わる。

見てる人にも。そう、それはファンだけじゃなく……。


『あっそう! じゃああ、クレアちゃんも本気出しちゃうよ! さなぎちゃん! 追い抜かれないように気を付けてね! ~♪』


クレアさんはBGMを鼻歌で歌いながら、変則的な加速減速を繰り返し、さなぎちゃんにプレッシャーを掛けていく。

そして、さなぎちゃんは……。


『ららららららら、らららら♪』


クレアさんの鼻歌に合わせて歌い始める。

それは、2期の歌姫と5期の歌姫の、二重奏。


その美しい声と激しい走りに、ファンは盛り上がる!


〈スキャット!〉

〈らららだけで上手いのが分かるな〉

〈ビブラートも走りも良すぎる〉

〈あれだけバチバチやのにめっちゃ楽しそう〉

〈それな〉


自由で勝負ごとにこだわりなんてなさそうなクレアさんと、小動物のようにびくびくしているさなぎちゃんの歌とゲームと誇りを賭けた戦いは……


『同着! ほぼ同着でゴール! 第3走者にバトンが渡った!』

『いいねえ! いいねえ! 最高! みるる興奮したよ!』


走り終わった二人は、余韻を楽しむように小さな声で歌いあい、そして、


『いつか一緒に歌おう! 本気で!』

『……はい! よ、よろしくおねがいしましゅっ……!』


本気を讃え合っていた。


『クレア~、作戦無視したでしょ』

『ああ、ごめんごめん、楽しくなっちゃって』

『……ま、貴方らしいか。おつかれ。あとは、任せといて』

『セーンパイ、やさしいですね~』

『ガガちゃん……そうよ、仲間だもん』

『そうっすね、そうっすねえ』

『ちょっと、何を……!』

『『うわあああああああああああ!』』


ガガとワカナさんのやりとりをかき消すように、マリネと火売ホノカさんが叫びながらバチバチにぶつかりあっている!


『いった! あはははは! いったいなあ!』

『いやいや! ゲームだから! 大丈夫、でしょお!』

『ホノカ先輩! 後輩に花を持たせるとかないんですかあ!』

『ないね! こっちも必死だから!』

『そう、ですよねえ! こっちもです! ずっと必死!』


必死。マリネからしたらそうだろう。

マリネは、Vtuberとしてしかうまく感情を表に出すことが出来ない。

そんな彼女からすれば、Vtuberは本当の世界。

マリネが死ねば自分も死ぬくらい思っているのかもしれない。

いや、それよりも、きっと、彼女はずっと、


『うわああああああああああっほい!』


必死だ。何かを伝えたくて、分かって欲しくて、それが自分を支えていると思って。

だから、アイツはフロンタニクス時代ピカタとして、トップクラスのVtuber、高松うてめとやりあえていたんだ。

そして、また、うてめの所まで這い上がろうと毎日努力や工夫をしている。


多分、アイツが誰より分かってるから、


『うおおおおお! 負けないよ! マリネちゃん!』

『はは! ホノカせんぱいぃいいいい!』


必死に戦っているVtuberはいっぱいいて、それが大きく花開くのは、もがき続けて偶然落ちてきた運やタイミングだってことを。

だから、マリネは必死に生き続ける。その瞬間を必ず見つけるために。


『……くぅうううう! 抜けないか……流石、ホノカ先輩』


勝負をかけたアタックが封じられマリネは悔しそうにそして、楽しそうに笑う。


『あーあー、もーみんなざこちゃんなんだから、ほいじゃあ、ガガ達で決着つけましょ、ワカナセンパイ☆』

『……うん、負けないよ! ガガちゃん!』

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