「とりあえず……好きなほうで」
「では、オミトさんと呼ばせてもらいます」
パンツマンことオミト・ダテはがっくしと肩を落としてしまう。やはり16歳の女子がパンツ、パンツと言ってくれるのはご褒美であったことを自覚する。
しかし、時すでに遅し。勇者アリスからの口からパンツという言葉は一気に減ってしまうことになった……。
それはともかくとして、アリスが再び「パンツを食べなくても大丈夫になったとは本当ですか?」と聞かれてしまった。
苦節三日三晩に及ぶ修行の内容をアリスに告げる。
パンツマンは女神の力によって、ニンゲンの食事からでも少しながらエネルギーを補給できるように魔改造してもらった。
これで向こう1週間はパンツを食べなくても活動可能になっている。そのことをアリスに改めて告げると、彼女は驚きの表情となっていた。
「女神様すごい!」
「えっと……そこまで感心するほどにすごいことなのか?」
「それって、とんでもないことですよ!? パンツマンがパンツを食べないとか世界がひっくり返るくらいの驚きです!」
「この世界のパンツマン、いったい、どんな設定になってんだよ! FxxK!」
こんな不条理なことがあってたまるかと地団駄踏む。そうしていると、頭の中に「くすくす」と控えめな笑い声が響いてきた。
自分をこんな悲しきモンスターに転生した張本人の声だった。
"おい! 駄女神!"
"駄女神っていきなりねっ! 久しぶりに勇者ちゃんの目の前に顕現しようかしら?"
"久しぶりっていつ以来だ?"
"ちょうど1年ぶりくらい~♪"
ため息を漏らすしかない。16歳の少女を1年も放置するとかネグレクト女神すぎる。こめかみに右手の人差し指を当てつつ、女神へと文句の念話を送っておく。
"それ、職務怠慢ってやつじゃねえのか?"
"パワーバランスの関係でわたくしは過剰に勇者に直接手助けできないってルールを敷かれてるの"
"パワーバランスねえ?"
正直、まどろっこしいと思えてしまう。世界樹を巡って善と悪の攻防がこの世界で起きている。そのことは女神から教えてもらっている。
しかし……パワーバランスのために女神が勇者に直接、力添えできないのは初耳だ。何か理由があるのだろう。
ルールという言葉が引っかかる。女神にそのルールを押し付ける存在がいるという証明にもなる。
しかし、こちらの思惑を余所に女神が念話を次々と寄こしてきた。
"んで、わたくしの身代として、勇者がヒロイン、あなたがヒーローってわけ"
"なるほどね……俺がこんな変態モンスターなのに、勇者様がわざわざ畏まってきたのにはそういう理由が"
"汝、信頼できる仲間を集めよ。そして、その仲間たちとともに魔王を倒し、世界を救えって、勇者アリスちゃんに言ったわ"
"ふわっとしすぎてねーか?"
女神と念話をしていると、頭痛がやってくる感じがした。こめかみを指でさする。そうしていると、アリスがきょとんとした顔つきになっていた。
「どうされたのですか? パンツ断食の影響ですか?」
「ちがーーーう! 俺の脳内に直接語り掛けてきてるやつがいるの!」
「えっ。幻聴が聞こえるとかいうそういったご病気?」
「ちがうよ!? 聞こえちゃいけない声が聞こえるタイプのそういう病気じゃないよ!?」
「はぁ……」
あちらからどう接していいのかしらという雰囲気が伝わってくる。そのため、こちらは包み隠さず、女神からの天啓が届いていると伝えておいた。
そう言った瞬間、アリスの顔がパッと明るくなった。こちらはげんなりとした顔になるしかない。
(絶対に勘違いしてる……さぞかし立派な女神様だと思い込んでいるんだろうな)
オミトを悲しきモンスター・パンツマンに変えた張本人が女神だ。自分とやりとりしている女神はこの世界における信仰を一手に集めている。
目の前にいる可憐な少女アリスは勇者だ。女神信仰の生きる偶像と言っても過言ではない。そんな彼女だからこそ、女神に対して非常に敬虔なのだろう。
「立ち話もなんですので、場所を移しましょう」
アリスの案内に従い、この場から移動を開始する。その間もオミトは女神との念話を続けた。
ルンルン♪ と足取り軽いアリスには申し訳ないが、彼女のことを不憫に思ってしまう。
"アリスちゃんは心が清らかなの。だから、わたくしが箔をつけてあげたってわけ!"
"とんでもない駄女神に目をつけられたもんだ"
"ひっどーい! 信仰に篤いアリスちゃんのためだと思ったのにー!"
勇者アリスはどうしても困っているひとを見過ごすことができない性格のようだ。彼女の見た目は16歳。パンツ・アイでそのくらいの歳だと決めつけている。
さらに彼女は可憐なエルフだ。この『エルフ』というところに大きなひっかかりを覚えてしまっている。
自分はJC・JKを専門としている足長おじさんである。パパ活おじさんとは一線を画している。
アリスを手助けしてやりたいと願う。だが、ここではっきりとさせておかねばならないことがあった。
「なあ、アリス。キミの年齢は?」
「じょ、女性に年齢を聞くのは失礼です!」
「パンツマンさいてー」
「パンツマン殿。最低ですよ」
アリスの従者である2人の女性が一斉にこちらを非難してきた。今まで黙っていたくせにこちらを咎めるとなると、一斉に口撃してきた。
これぞ魔女というルックスをしている女性の名はベッキー・リーブラ。湖の賢者というたいそうな二つ名を持っているそうだ。
騎士然とした女性の名はルナ・トーレス。女神ヘラ教会から派遣された聖騎士様である。
パンツマンはスキル:パンツ・アイを発動させて、女性陣の情報をもっと引き出した。
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名前 :アリス・ヴァルゴ
年齢 :乙女の秘密
職業 :勇者
Lv :30
スキル:勇者系斬撃Lv1
勇者系魔法Lv10
耐性系:斬△、突◎、打△、熱△、冷〇
特記事項:Bカップ
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名前 :ベッキー・リーブラ
年齢 :永遠の17歳
職業 :賢者
Lv :40
スキル:白魔法Lv5
黒魔法Lv10
耐性系:斬×、突×、打×、熱☆、冷☆
特記事項:Fカップ
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名前 :ルナ・トーレス
年齢 :セクハラです
職業 :聖騎士・異端審問官
Lv :20
スキル:聖騎士剣術Lv4
聖騎士系魔法Lv2
耐性系:斬◎、突×、打〇、熱◎、冷×
特記事項:Dカップ
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パンツ・アイをもってしても、女性陣の年齢にはマスクが掛かっていた。ぐぬぬ……と唸るしかない。
しかし、これは大事なことなのだ。助ける相手がJCやJKではないと、真の力が出せないとオミトはそう自負していた。
だからこそ、嫌がられることを承知の上で重ねてアリスに年齢を聞く。
「俺が悪者みたいに言うんじゃない! これはとても大切なことなんだ! 俺は13~17歳までの少女専門に助けてやりたい!」
「……ちょっと相談タイムを設けさせてください」
女性陣が輪を作って相談タイムに入った。どうやら自分の発言はとても受け入れられないように思えてきた。
しかし、今更前言撤回できるわけもない。「クッ!」と自分の過ちを悔やむ。
しばらくすると、女性陣の輪が解けた。ごくりと息を飲んで、アリスの答えを待った。
「私は16歳です」
「……なんかうさんくさい。エルフって言えば、見た目は若くても実年齢は」
「重ねて言います。私は16歳です(にっこり)」
「……お、おう」
勇者アリスの年齢のことはここで無理矢理に終了させられてしまった。オミトはしばらく黙ることにした……。
アリスたちに連れられて、オミトは酒場へと移動する。陽も高いということもあり、酒場にヒトはまばらであった。遅めの朝食を食べているヒトたちである。
アリスたちとともにテーブル席に着席する。店員がおっかなびっくりといった感じで注文を取りにきた。
それもそうだろう。自分はヒトではなくてモンスターだ。
ブリーフパンツを履き、それをサスペンダーで止めている。さらには紳士としての蝶ネクタイ。頭にはインディアンハットのようにトランクスをなびかせている。
そんな得体のしれない相手でも店員はプロだった。手早く注文を取り終えると、カウンターへと戻っていく。
「飲み物4つに朝食セット3つ。そしてパンツ一丁!」
「ちげーよ! パンツマンだからと言って、パンツだって勝手に決めつけるな!」
「……え?」
「いや、言いたいことはわかるけどさぁ……」
「朝食セット4つで大丈夫だそうです!」
朝食セットを待っている間に各自で自己紹介をする。こちらは前もってパンツ・アイで彼女たちの情報を得ていたが、まるで初めて名を聞いたように振舞っておく。
女勇者の名はアリス。女聖騎士の名はルナ。女賢者の名はベッキー。彼女たちと快く握手する。しかし聖騎士は手に画びょうを仕込んでいやがった。
「どうされました?」
「ふふふ……残念だったな! 俺は突耐性◎だ!」
「チッ……」
なんとも敵対的な態度をとる聖騎士ルナだった。どうやら自分のことを真の仲間だとは思ってくれてはいないようだ。
(聖騎士様はわかりやすくて助かるぜ……俺はモンスターだもんなぁ~)