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第12話:王都への凱旋

 しかし、考えるのは自分の役目ではないようだ。賢者ベッキーが「こほん」と咳払いした後、女神の言葉の真意を補足してくれた。


「女神様は勇者アリスの今後のことを考えてくれているのです、パンツマン。人類側は一枚岩ではありませんの~。勇者アリスの活躍を快く思わない勢力もいるんですの~」

「……え? 魔族が総力をあげているってのに、アリスは足枷をつけられてるってこと?」


 信じられないといった顔でベッキーを見た。彼女は困り顔になっている。続いて彼女が口を開き、アリスとその周りのことを教えてくれた。


「足枷というよりも、首輪をつけたがっている連中がゴロゴロいますわね~。もちろん鈴付きの首輪ですの~」

「ふむ……面倒だ。そいつら全員、ぶっ飛ばしてやりたい!」

「ダメですの~。あなたの憤りはわかりますけど~。以前にちょっとやらかしたせいもあって~」

「……やらかしたって何を?」

「女神ヘラ教会のひとつを魔法で焼き払いました~」

「俺がやる前にやってんのかーーーい!」

「えへへ」


 こちらが引いてしまうしかなかった。アリスとベッキーを見れば、仲の良い歳の離れた姉妹のように感じてしまう。


 ベッキーはアリスのお姉さん役として、我慢ならなかったのだろう。パンツマンがそうするよりも前にベッキーが暴走したのだと彼女本人から聞かされることになる。


「んで、お目付け役として聖騎士ルナがあたしたちのパーティにいるってわけ~」

「うむ。鈴の無い首輪役だがな」

「なるほど……そういった経緯があったのか」

「というわけで、行ってきました、殺してきました、次の四天王ぶっ飛ばしまーす! って、こちらの都合だけで動いちゃダメなの~」

「正直……面倒すぎる!」

「あはは……」


 パンツマン・オミトは伊達グループの御曹司であった頃を思い出す。親のおかげで割りと自由にさせてもらっていた。仕事が出来ることもあり、JCやJKへの足長おじさんをやっていても、親から咎められた記憶はない。


(自分は恵まれていたということだ……普通の親なら俺のJCやJK専門の援助を止められていたかもしれん)


 アリスのために何かできることは無いかと考える。そうしていると、女神がこちらへとウインクしてきた。


 こちらは「たはは……」と困り顔になるしかなかった。


(なるほどな……女神の言いたいことがわかってきた。俺はアリスを助けなきゃならんってことだ。ただの正義のヒーローに収まっちゃならんのだ。本当に困っているアリスの力になれということ……だな!)


 ベッキーのおかげで、女神が言わんとしていることはわかった。女神が馬車を手配してくれているということで、その馬車が酒場の前にやってくるまで待機する。


 15分ほどすると、箱馬車が到着した。パンツマン・オミトたちはその箱馬車に乗り込む。


「行ってらっしゃい、アリスちゃん。お土産は教皇の首級くびね♪」

「えっと……冗談ですよね?」

「もちろん♪」


 女神の発言に「あはは……」と苦笑する面々だった。女神に見送られながら王都に向かう旅が始まった。


 この街から王都に着くまで3日間ほどかかるそうだ。女神が言うには立ち寄る村や町で四天王の赤鬼を倒したことを喧伝しておけという。


 そうなればプラス1~2日だろう。だが、この時間をかける行為こそが、アリスの名声を高めるのに役立つそうだ。


 女神の言う通り、立ち寄った村や町で四天王の赤鬼を倒したことを自慢げに語りまわった。この時、役に立ったのが赤鬼の首級くびである。


「ああ、勇者様! さすがでございます!」

「きゃー、勇者様! すてきー!」

「勇者様! ぜひ、我が屋敷にきてください!」


 勇者アリスとその供回りは立ち寄る村や町で歓待を受ける。アリスは戸惑いながらも、村や町のお偉い様との接待を受けることになった。


 そうすることで、どんどん王都へたどり着くのが遅くなった。パンツマン・オミトはこれでいいのか? と疑問に思ったが、人々から褒めたたえられるのは気分が良い。


 だんだん、王都に行くのが面倒になってきていた。それくらいどこでも快く歓迎された。


「ぐふふ……年頃の女子たちからの黄色い声援は俺に力を与えてくれる!」

「オミトさんがパンツを欲しそうな目をした瞬間、その女子たちが悲鳴を上げて逃げていきますけどね」

「言うな! アリス! 俺はパンツマンなんだぞ!」

「パンツマンじゃなかったらと思うと……少し残念ですね」

「俺だって、好きでパンツマンになったわけじゃないからね!?」


 隣に並ぶアリスが苦笑していた。苦笑している顔も可愛らしい。むくむくとパンツ・ハートが鼓動を高める。


 いかんいかん……と左胸に手を当てて、鼓動を落ち着けさせる。そうしなければ、白昼堂々、アリスにパンツをせがむ行為に出てしまう。


 心を落ち着けるためにも守備範囲外であるベッキーとルナの方に視線を向ける。ベッキーはキョトンとしていたが、ルナの方はあからさまに嫌な顔をしていた。


「パンツマン殿。拙者に何か用か?」

「いや。心が落ち着くなって……」

「む……やめてくれないか? 拙者を籠絡しようとするのは!」

「違うよ!? 心が落ち着くって、そういう意味じゃないからね!?」

「ならば、どういう意味でそう言ったのだ! 乙女心を弄ぶ気かー!」


 ルナが突然、激昂しやがった。これだから行き遅れの相手をするのは面倒だと思えてくる。


 こちらは粉をかけるつもりでルナの顔を見たわけではない。勘違いしないでほしいのはこちらの方なのだ。


 ルナが顔を赤く染めながら、剣の柄に手を置いている。下手なことを言えば、抜刀されるのは目に見えていた。


 どうしたものかと少しだけ逡巡する。こうなれば、勘違いさせたほうが得策だと思えてきた。


「ルナ、聞いてくれ。お前はキレイな顔をしている。ずっと見ていたいくらいだ」

「……ッ!」


 ルナが真っ赤な顔を見られたくないのか、顔を伏せた。


(これだから行き遅れは……チョロインすぎるだろ)


 こちらは21歳JDに心ときめくことはない。女子は18歳になれば、平等におばさんだ。おばさんを口説き落とすつもりは毛頭ない。


 だが、それを態度に表せば、パーティ内で亀裂が走るのは明白だ。自分の信条を捻じ曲げることになるが、ここは21歳JDのルナを気遣っておく。


 それはさておき、アリス一行の王都行きの旅は当初の予定の3倍近くかかってしまう。最初の街から出発して、王都に到着したのは10日目の昼頃だった。


 この頃になると、王都にも勇者アリスが四天王の赤鬼を倒したことが知れ渡っていた。王都の門をくぐるや否や、アリス一行は手荒い歓迎を王都民から受けることになる。


 ひとだかりが波のように押し寄せてきた。それによって、アリスたちは前へ進むことができなくなってしまった。


「あーーー。あの駄女神の言っていたことがようやくわかった」

「あはは……さすがは女神様です」

「うむ。民衆を味方につけるということはこういうことなのだな」

「そういうこと~。教皇はアリスの功績を認めると同時にそれを握りつぶしたいって思ってるの~。そこで女神様がひとつ手を打ってくれたのよ~」


 人混みに揉まれているというのにベッキーが解説してくれた。教皇や教会がアリスの実績をないがしろにするのであれば、こちらは先手を打って、民衆を味方にしてしまえばよかった。


 王都に到着するまでのこの10日間。これは非常に大切な時間だった。パンツマン・オミトは自分の浅慮に恥じ入るばかりだった。


(駄女神扱いするのはやめておくか)


 自分を悲しきモンスター・パンツマンに変えてくれた駄女神だが、彼女はアリスのことを思っての行動を取ってくれている。


 民衆を味方につけるのは教皇や教会にとって、快くない事態なのだろう。しかし、それでもアリスは寄って立つべき場所を手に入れなければならないようだ。


 そうでなければ、アリスはいつでも簡単に失脚させられる立場なのだろうと思えてくる。


 ポンとアリスの頭に手を乗せる。アリスが「うひゃぁ!?」と素っ頓狂な声を出したが、彼女にかまわず、わしゃわしゃと彼女の頭を撫でておく。


「あの……その……恥ずかしいです」

「ふっ……頭を撫でてやりたくなったのだ。アリスは頑張っているのだな?」

「は、はい! えへへ」


 アリスは本当に可愛らしい。アリスを甘やかしていると、どぎつい視線を背中に受けることになった。


 恐る恐る後ろを振り向く。すると、こちらを睨み殺さんとばかりの眼力を放っているルナがいた……。


「えっと……ルナもいい子いい子されたい?」

「ふ、ふん! 誰もそんなこと望んでないんだからね!?」


 なんともわかりやすりツン状態だった、ルナは。アリスは苦笑している。こちらは「やれやれ……」と肩をすくめた後、ルナの方に近づく。


 するとルナがビクッと身体を大きく震わせた。しかし、彼女の様子に気付かない素振りを見せつつ、ポンポンと優しく彼女の頭に手を乗せた。


 すると、ボンッ! という音を立てて、ルナが顔から火を噴きそうなほどに真っ赤な色に染まってしまった。


「……ッ! このたらしがー!」

「たらしって言うなー!」

「じょ、女子の頭を気軽に撫でるとか、勘違いされても知らんぞ!? 勘違いしてあげるんだからね!? いいのか、それでも!? 責任を取ってもらうことになるぞーーー!」

「お、おう」


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