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第13話:権力争い

 チョロインすぎるルナをフォローしつつ、アリスたち勇者パーティは王都にある大教会へと向かう。


 そこは女神ヘラ教会の総本山だった。パンツマン・オミトは赤鬼の首級くびを革袋に入れたまま、それを片手でぶらぶらさせながら教会内へと足を踏み入れる。


 異様な光景を目の当たりにした司祭たちが一斉に腰を抜かしていた。パンツマン・オミトは「ふふん♪」と気持ち良さげに鼻を鳴らす。


 アリスたちも堂々とした立ち振る舞いだった。アリスたちにとって、ここは敵地である。司祭たちに隙を見せるようないで立ちではなかった。


「不肖アリス。ただいま戻りました。女神ヘラ様の啓示に従い、魔族四天王のレッドオーニを討ち取りました。こちらが証拠のレッドオーニの首級くびとなります」


 アリスの発言に合わせて、こちらは赤鬼の首級くびが入っている革袋を司祭たちに手渡す。


 司祭たちが革袋をそっと開ける。その途端、死臭が飛び出してきたのもあって、司祭たちが驚きの表情となっている。


「う、うむ……アリス殿の言う通り、レッドオーニに間違いない」

「では、約束していた教皇様との面会を取り次いでもらえますか?」

「黙らっしゃい! それを決めるのはこちら側だ! たかがパワーが取り柄なだけのレッドオーニを倒したくらいで、何を調子づいているのだ!」


 アリスが司祭のひとりに一喝されている。こちらはムカついて、アリスより前に出ようとした。しかし、それはルナに静止されてしまった。


「ふん! この山出し者たちが! 次の女神からの天啓がやってくるまで、大人しくしておくことだな!」

「休暇を与えてくれるということですね?」

「そ、そうだ! 田舎者らしく、王都でもゆっくり探索しておくがよかろう!」

「わかりました……では、次の女神ヘラ様からの天啓が訪れるまで、こちらはゆっくりとさせてもらいます」


 アリスは司祭たちにそう告げると、それ以上は何も言わずにきびすを返す。惚れ惚れとするたたずまいだった。


 見た目16歳とはとても思えない。アリスの実年齢は相当に高いことを思わせる。その証拠にパンツ・ハートはまったくときめかない。今のアリス相手には……。


 アリスとともにベッキー、ルナ、パンツマン・オミトが大教会から外に出る。息が詰まったとばかりに蝶ネクタイの締まりを指で調整してみせる。


 すると、アリスが可笑しそうにクスクスと笑い出した。今のアリスは16歳相当のJKっぽく見える。パンツ・ハートがトゥンクと反応した。


「やれやれ……アリスはどっちが本当のアリスなんだ?」

「私は16歳です(にっこり)」


 アリスの返しに苦笑するしかなかった。いたずら娘のような顔をしていやがる。ここは頭を優しく撫でてあげる場面だと思った。


 そう思った瞬間、自然とアリスの頭へと手が伸びていた。しかし、手首をガシッとルナによって掴まれた。


「パンツマン殿。年頃の女子にそういうことを気軽にしていけないと言ったではないかっ!」

「じゃあ、代わりにルナの頭を撫でてやろうか?」

「……ッ! 本当にあなたという人は!」


 ルナの反応は逐一面白いの一言だった。行き遅れの21歳JDをからかいつつ、大教会前の大階段を皆で降りていく。


「しっかし、教会側がここまで敵意剥き出しなのは笑えてくるな?」

「ベッキーさんといっしょにヘラ教会のひとつを魔法で焼き払っちゃってますから」

「本当ね~。あの時のことを相当根に持ってるみたいね~」

「アリス、ベッキー。お前たち、意外と過激派なんだな!?」

「謝罪代わりに四天王のひとりを倒したんですけどね?」

「それなのに教皇様は許してくれないの~」


 アリスとベッキーはルナやパンツマン・オミトと合流する前に四天王の中でも最弱と呼ばれた魔族を倒しているらしい。


 それが今から3カ月前の出来事だと教えてもらった。


 アリスは勇者になった後、王都に呼び出しを喰らった。そして、王様の紹介で賢者ベッキーと出会うことになったそうだ。


 だが、ここで問題が起きた。教会側こそがアリスを勇者認定する場だと主張してきたらしい。一介の国王ごときが決めることではないと因縁をつけてきた。


 アリスとベッキーはその時点で教会側に不信感を募らせていたようだ。そして、アリスとベッキーが教会側と真正面からぶつかってしまう。


 それがヘラ教会焼き討ち事件にまで発展するのは時間の問題だったらしい。


「……たく、無茶しやがって」

「教会側と私たちの橋渡しをしてくれたのが女神様なんです」

「うん、あの時の女神様、めっちゃ怒ってたわね~。なんでニンゲン同士でいがみ合ってるの! って~」

「あはは……そりゃ女神様も災難だったろうな」


 パンツマン・オミトは女神から人類側は一枚岩ではないことを教えられていた。しかし、その時は勇者アリスと教会側が友好関係を築けていないことは教えてもらってなかった。


 女神としては聞くよりも実際にその目で見たほうが理解が進むだろうという配慮をしてくれたのだろう。


 やれやれ……と肩をすくめるしかない。どこの世界でも権力者というのは変わらないのだろうとさえ思えてくる。


(民衆を味方につける……か。女神様としてもやりづらいだろうなぁ。本来なら女神信仰の教会が進んで勇者のバックアップをしなきゃならんってのに)


 勇者アリスはスタートから躓いたといっても過言ではない。勇者を招へいした王様としても教会側を出し抜こうとしたのではないだろう。


 しかし、教会側は王様のその動きを快く思わなかった。それが勇者アリスの悲劇に繋がってしまったのだろう。


「あー、まどろこっしいぜ。アリスちゃん。俺が魔王をぶっ飛ばしてやろうか? 四天王があの弱さなら、魔王もたいしたことなさそうだしな?」

「ちょっと!? オミトさん! 調子に乗らないで!」

「魔王を倒したら、アリスちゃんのパンツを食べさせてくれる?」

「本気で言ってるの!?」

「もちろん! 四天王であんな雑魚なんだろ? 魔王なんてワンパンだぜ!」


 アリスのことを思っての勇ましい発言であることは自負している。困っているJKを助けるのはパンツマン・オミトにとっての矜持だった。


 さらに魔王を倒せば、さすがにアリスも喜んで履いているパンツを差し出してくれることだろう。まさに一石二鳥である。


 しかし、そんな自分に対して、賢者ベッキーがジト目を向けてきやがった……。


「怖いもの知らずっているんだな~(棒読み)」

「なんでよ!?」

「魔王はさすがに別格に決まってるでしょ~」

「わからんぞ!?」


 ベッキーが「やれやれ……」と心底呆れたとばかりに肩をすくめている。「グッ」と唸るしかない。


 だが、自分に惚れそうになっている21歳ツンデレJDが自分の肩を持ってくれた。


「四天王の一角をあれほどあっさり倒したパンツマン殿だ。もしかすると魔王もワンパンかもしれぬ」

「だろぉ!?」

「うむ。拙者はパンツマン殿ならそう出来ると信じている!」

「いや、待って!? そこまで信頼を寄せられるような関係になってないよね!?」

「……ッ! 段取りを間違えたのか!? 拙者は!?」


 これだから行き遅れ確定の21歳JD聖騎士様の扱いは難しい。何度も言うが自分は21歳JDにときめくことはない。


 その証拠にルナ相手だとパンツ・ハートがまったく反応しない。「何故だ、どうしてだ!? 何を間違った!?」と焦りを隠せないルナには本当に悪いと思う。


 しかし、パンツ・ハートがときめかない相手にどうしろとこちらが言いたくなってしまう。


 そんなやりとりをルナとしていると、突然、辺りが暗くなってきた。皆で目を白黒させてしまうしかなかった。


 時刻は正午を少し回った頃である。そうだというのに分厚い雲で太陽が覆われているわけでもないのに、空の色がどんどん不気味に黒く染まっていく。


 それとともに王都内で悲鳴が飛び交った。民衆が震えあがりながら、空の一角を一斉に指差し始めた。


 太陽に影が出来ている。その影がそのままヒトの顔を映し出すようになった。しかし、ヒトとは呼べない。ネジリ角の主張が激しすぎた……。


「誰だ? わっちをワンパンできるとかほざいた愚か者はーーー!」


 上空から地上に向かって怒声が解き放たれてきた。腹の底がビリビリと痺れるような感覚に襲われた。


 「ひぃ!」と可愛らしい悲鳴をあげてルナがその場でしゃがみ込む。彼女に寄り添おうとしたが、それをアリスに止められてしまう。


 アリスが影に覆われた太陽へと細い指で指差した。それに視線を無理矢理、誘導させられることになった。


「あれが魔王です! オミトさん!」

「マジか……」

「マジです」

「魔力のほとんど収納魔法に変換しちまった俺でも、魔王の魔力がとんでもないってのがわかるぜ!」

「……え? なんで?」


 アリスが顔だけをこちらに向けてきていた。表情が真剣そのものだった……。


「いや、便利な魔法だから……」

「そうですよ!? 魔法って便利なんですよ!? それなのに魔力キャパを全部、収納魔法にしちゃったんですか!?」

「ダメ……でした?」

「ダメですよ! 剣技がへっぽこな私でも魔力のおかげで勇者をやれてるレベルですよ!?」


 自分は確かにアホすぎる選択をした。女神にも収納魔法に魔力キャパを使っていいの? と確認を取ってきた。


 それはさておき、アリスもまた不穏なことを言っている。


「ちょっと待て……剣技がへっぽこって初耳なんですが!? あなた勇者ですよね!? その腰に佩いてる立派な剣は飾りですか!?」

「だって……私、エルフですもん(にっこり)」

「お、おう……」


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