異世界ファンタジーに関して、にわか知識しか持っていないパンツマン・オミトであるが、剣技がへっぽこレベルのエルフというのは逆に珍しい部類な気がしてならない。
魔法だけでなく弓矢の扱いが得意というのが、昔のエルフ像だった。しかし、昨今は魔法剣士型のエルフもけっこうな数いるはずだ。
そうだというのにアリスははっきりと自分で剣技はへっぽこだと言い切っている。たらりと汗が額から頬を伝い地面へと垂れ落ちた。
「とにかく! オミトさんの一言で魔王がキレたんです! そこが重要です!」
「お、おう! ここは俺がどうにかしないといけないところなんだな!?」
「どうにかするって……どうするんです!?」
魔王の登場で激しく動揺しているアリスだった。彼女を落ち着かせるためにも、収納魔法先から替えのパンツを1枚取り出す。
「ここにパンツがあります。そのパンツを思い切り握り込みます。すると発火します」
「……えっと、どんな握力なんですかね?」
「理屈はこの際、どうでもいいんだよ! 俺は超必殺技を使える! パンツを犠牲にするけどな!?」
パンツマン・オミトは右手で替えのパンツを握り込む。そこにパンツマン・パワーを注ぎ込む。丸まったパンツが発火する。その火が自分の右手全体へと回っていく。
「俺の右手が真っ赤に燃える! パンツを奪うやつらをすべて焼き尽くす! バーニング・ゴッドバード・パンツ!」
真っ赤に燃える右手を影が差し込んだ太陽へと突き出す。それと同時に
影とフェニックスが正面からぶつかり合う。すると、「きゃーーー!」という女性の悲鳴が辺りに響き渡った。
「ちょっと、いきなり何してくれるのじゃ! ここはわっちに驚く場面じゃろうが!?」
「……効いてる?」
「本当にびっくりしたのじゃ! おぬし、何を考えておる!」
「……えっと、魔王をぶっ飛ばそうと」
「あほかーーー!」
魔王に一喝されてしまった。悪いのはどうやらこちらのようだ。魔王の愚痴は止まることをしらない。
「まったく、いったいどんな世の中なのじゃ! わっちは魔王なのじゃぞ!? いきなり燃えたパンツをぶん投げてくるとは、親からいったいどんな教育を受けたのじゃ!」
「……親の教育!? それは聞き捨てならんぞぉ!」
「女子の顔にパンツを投げるように言われたのじゃろう? そんな風に育ったんじゃろう!?」
「ぐぬぬ! 言わせておけば! わっちわっち言いやがって! 俺は18歳以上の女子に優しくしてやるほど、甘くはないぞ! バーニング・ゴッドバード・パンツ!」
もう1枚、替えのパンツを収納魔法先から取り出す。それをあらん限りの力で握り込む。憤りもパンツに込める。先ほどと同じようにパンツが発火した。
燃えたパンツがフェニックスとなって、魔王の顔へと飛んでいく。
「キャーーー!」
本日2度目となる魔王の悲鳴を頂戴した。「むふー!」と満足げに鼻息を吹き鳴らしてみせた。
「うがぁ! お前、なんてやつだー! か弱い女子に暴力を振るうとか最悪すぎるぞ!」
「はぁ!? か弱い女子? 魔王のくせに!? それはさておき……何歳か聞いてやろう」
「15歳じゃが?」
「15歳JCが一人称わっちのわけがないだろうがー! もっとまともな嘘をつきやがれー!」
替えのパンツをもう一枚、収納魔法先から取り出す。一人称わっちの自称15歳JCを懲らしめてやらなければならない!
「魔王とパンツマン殿が意味不明なことで口喧嘩をしてるのだが? アリス殿、パンツマン殿を止めた方がいいのでは?」
「もう好きにして……」
「あはは……世界観が壊れる~」
「世界観が壊れるほどにパンツマ殿がとんでもなさすぎるということか! やはりパンツマン殿は真の救世主……だった!?」
周りがうるさいと思った。こっちは生命力を削って超必殺技を放とうとしているのだ!
JCを騙る一人称わっちの魔王をぶっ飛ばしてやらねば気が済まないのだ!
「おのれーーー! この痴れ者がーーー!」
「痴れ者はお前の方だろ、魔王! 15歳JCとか嘘ついてんじゃねえよ!」
「うるさい! 15歳なのは本当じゃわい!」
「魔族がそう認めようが、俺は断じて認めん! 俺の右手のパンツが燃える! 15歳JCとうそぶく魔王を倒せと轟き叫ぶ! バーニング……うぐ!?」
突然、足腰から力が抜けた。そのままひざまずく格好となる。燃えていたパンツの火が一気に衰える。
(力を使い過ぎた! このままではまずいぞーーー!?)
魔王を散々罵倒した。その勢いで3発目のバーニング・ゴッドバード・パンツをぶっ放してやろうとしていたというのに、それができなくなった。
力尽きようとしている今、魔王から攻撃をされれば自分は完膚なきまで魔王にやられてしまう。
ゴクリ……と息を飲む。肩ではあはあぜえぜえと荒い呼吸をする。しかし、こちらが息も絶え絶えとなっているのに魔王から攻撃してくることはなかった。
「ばーかばーか! お前の里を焼いてやるのじゃー!」
「俺の里!? それはいったいどういう意味だ!?」
「パンツマンの生まれ故郷に決まっておろうがー!」
「待て! 俺とパンツマンの里に繋がりなんてないぞ!?」
「くはは……同郷のパンツマンたちが泣け叫ぶ姿を指を咥えて見ているが良いのじゃー!」
魔王の気配が急に消えていく。それと同時に暗かった空も普段の晴れ間へと戻っていた。パンツマン・オミトは悔しさのあまり、ガンッ! と石の階段を殴るしかなかった。
「なんてこったい! 俺のせいで無実のパンツマンの里が焼き払われちまう!」
「オミトさん……そのなんというか」
「アリス! 俺に力を貸してくれ! 俺にアリスのパンツを食わせてくれ!」
「……どさくさに紛れて何を言っているんです?」
「……チッ」
ぶっちゃけパンツマン・オミトにとって、パンツマンの里がどうなろうか知ったことではなかった。
それよりもアリスの同情を誘って、彼女からパンツをもらえる絶好の機会だと思えたので、パンツマンの里をダシに使ってみた。
しかし、アリスは聡明な16歳JK勇者だった。こちらの企みをいともあっさり看破してきやがった!
そうこうしているうちにどんどん身体から力が抜けていく。このままではまずい。ナマのパンツを食べないといけなくなったと感じてしまう。
王都にやってくる最中、パンツふりかけでナマのパンツ補給を先延ばししてきた。ここにきて、そのツケを一気に払うしかない状態になってしまった。
「ぐぉぉぉ……パンツをお恵みください、アリスさん!」
「えっと……ベッキーさん。私どうしたら?」
「ここは永遠の17歳のお姉さんに任せなさい~」
ベッキーがこちらに手を差し伸べてきた。その手の上にはホカホカのパンツがあった。パンツ・ハートが震えた。このパンツを糸くず1本残さずに食べろと鼓動が高鳴った。
ベッキーからホカホカのパンツを奪い取る。口を大きく開く。「待て、パンツマン殿! それは!」とルナに言われたが、もう止まれない。
パンツを丸ごと口の中に放り込んだ。ムシャッ、ベリッ、ボリッ! と豪快に音を立ててパンツの味を口の中で楽しんだ。
つーんと鼻腔を突き抜ける匂いが食欲をさらに刺激した。ガツガツとパンツを食べて、満足感に浸る。
「ふぅ~。良いパンツでした。少し小便臭かったところがますます良かったって言ったところだなっ!」
「せ、責任は取ってもらうぞ、パンツマン殿!?」
「責任? パンツを食べると責任を取らないといけないのか?」
こちらがキョトンとした顔つきになっていると、ベッキーがへらへらと笑い顔になっている。
「パンツマンが今食べたのは、ルナちゃんの脱ぎ立てパンツでした~♪」
「なん……だと!?」
恐る恐るルナの顔を見る。ルナは今にも泣きそうな顔をしていた。聖騎士鎧のスカート部分を必死に手で押さえている。
「これ、やっちまったてやつですか?」
「うん~。やっちまった以上、責任を取らないとね~?」
「俺……21歳JDと結婚する気はございません!」
「ひどーい! パンツマンは女の敵~! ルナちゃん……パンツマンをしばき倒していいよ~?」
「待てーーー!?」
「うぐっ、ひぐっ。パンツマン殿のバカーーー!」
ルナが放った右のアッパーカットがキレイにこちらの顎を打ち抜いた。これほど見事なアッパーカットは喰らったことはなかった。
パンツマン・オミトは宙を舞った。そして、後頭部をしこたま石の階段に打ち付ける。それだけではアッパーカットの威力を消せなかった。
そのままパンツマンは石の階段を下へと転げ落ちていく。石の階段の一番下までゴロゴロと転がり落ちた。
そこに女学生と思わしき集団がいた。彼女たちは驚きの表情となる。そして、「キャー!」と年相応の若さ満ち溢れる悲鳴をあげる。
パンツマン・オミトにとって、ご褒美ともいえる悲鳴だった。満足感に浸りながら、そのまま深い眠りに誘われてしまった。
「ぐっ……15歳前後の女学生の悲鳴が心地よい……俺は本当にただのド変態だーーー!?」
自分の愚かさを呪いながら、そのまま眠ってしまう……。