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第15話:モンスター裁判

 パンツマンが目覚めるとそこは牢獄の中だった。


「なんでやねーん!」


 なんでやねーん! なんでやねーん! と牢獄の中で虚しくパンツマン・オミトの声がこだまする。


 腹立たしくパンツ・チョップを鉄柵にぶち込む。飴のように鉄柵が捻じ曲がる。続いて石壁にパンツ・キックをぶち込む。石壁に大穴が空いた。


 石壁に空いた大穴をくぐり、牢獄の外へ出る。気持ちの良い朝の空気を肺の中にたっぷりと送り込む。


 そうした後、大穴をくぐって、再び牢獄の中へと戻る。脱獄するのは簡単だ。しかし、それをすれば、アリスに迷惑がかかってしまう。


 パンツマン・オミトは大人しく捕らわれの身となっておく……。


 彼が牢獄で3日間大人しくしていると、看守がやってきて「面会者がやってきた」と告げられる。


 お尻を手でぼりぼり掻きながら、のっそりと立ち上がる。看守に対して両手をそっと差し出す。カチャリという音とともに手枷を嵌められることになった。


(こんなおもちゃみたいな枷、すぐにでもぶっ壊せるのだが……大人しく従うしかあるまい)


 パンツマン・オミトは看守の案内に従い、面会室へとやってくる。分厚いガラスの向こう側にアリスたちがいた。透明なガラスを挟んで、アリスたちと会話することになった。


 アリスはこちらに向かって、申し訳なさそうにペコリと頭を下げてきた。その仕草にこちらはどうしていいものかと逡巡してしまうしかなかった。


 自分が投獄されたのはアリスのせいでないことに気づいている。それでもあちらは頭を下げなければならないのだろう。


 こちらはアリスたちを責める気は一切なかった。


「教会があなたを第1級危険モンスターだと認定したの。ごめんね、力になれなくて……」

「そこは全力で否定してほしいんだけど!?」


 前言撤回。一発目からアリスを責めてしまった。自分は悲しきモンスター・パンツマンであるが、第1級危険モンスターとは思っていない。


 ちょっと他のモンスターよりも年頃の女子のパンツを食べたいという欲を持っているだけである。


 そんな自分のどこに危険性があるのかと問いただしたくなる。


「……パンツマン殿。それだけで十分に危険なモンスターではないか?」

「ルナさん!? もしかして、まだルナさんのナマのパンツを食べたことを恨んでる!?」

「やめろ! それを思い出せるんじゃない! くっ! パンツマン殿はどこまで拙者を辱める気なのだ! 女聖騎士だからといって、誰しもがマゾなわけじゃないんだからね!?」

「お、おう……」


 ルナとやり取りをしていると、彼女に抱いていたイメージがどんどん崩れていく。ツンデレ属性のクッコロ待ち聖騎士様。それがルナの本当の姿だと思えるようになってきた。


 赤面しているルナから視線を外し、アリスの顔を見る。アリスは申し訳なさそうにしょぼん……としていた。


 推定16歳JKのアリスを元気づけるために空元気な台詞を言ってみる。


「安心してくれ。俺は気にしちゃいないさ」

「でも……」

「第1級危険モンスター? ははっ! それがどうしたんだつーの」

「……ッ」


 こちらの気遣いは無駄に終わる。ますますアリスが委縮してしまった。「たはは……」とベッキーとともに苦笑するしかない。


 アリスがこちらに再度、頭を下げてきた。


「ごめんなさい。私は勇者の力を持っているけど、それで教会の権力をどうにかできるわけじゃないの」

「いっそ、俺もヘラ教会のひとつをぶっ壊してやろうか?」

「だめよ……そんなこと、オミトさんにさせられない。私とベッキーでヘラ教会をぶっ壊すわ」

「いや……それって、もっとダメじゃない!?」


 アリスの気持ちはありがたい。だが、彼女にそんなことをさせれば、彼女の立場はもっと悪くなってしまう。


 どうしたものかと考えていると、ベッキーがアリスに変わって口を開いた。


「パンツマン~。名案があるの~。あなたが悪いモンスターじゃないって、皆に示すの~」

「悪いモンスターじゃないことを証明する……か。それはどうやって?」

「モンスター裁判を受けるの~。悪くないモンスターは水に沈んだら浮かんでこないわ~」

「え? 浮かんできたら?」

「残念だけど、悪いモンスターね~」

「魔女裁判かよ!」

「他にも絞首刑にされて、死ななかったら悪いモンスター扱いね~」

「どんな基準なのそれ!?」


 モンスター裁判の内容を聞けば聞くほど、魔女裁判と変わりないことが判明するだけだった。しかし、それでも身の潔白は自分で証明するしかない。


 賢者ベッキーが教会側と話し合った。こちらがモンスター裁判を受けられるように手続きを進めておいてくれるようだ。


 さすが賢者である。ツンデレでクッコロ待ちの聖騎士ルナとは大違いだ。「その方向で頼む」とベッキーに告げる。


 面会の時間が終わろうとしていた。アリスは去り際にもう一度、こちらに頭を下げてきた。


(アリスは律儀すぎる……ベッキーも大変だろうな)


 アリスは筋を通すタイプなのだろう。こういうタイプは筋が通らないことに対して、臆さず不満感を露わす。


 そんな彼女のサポートとして上手く立ち回ってくれるのが賢者ベッキーなのだろう。


 正義のアリス。智のベッキー。パワーのパンツマン・オミト。ツンデレでクッコロ待ちのルナ。なんともバランスが取れたパーティである。


(ふっ……女神様の差配には感心させられる。駄女神と侮るのは金輪際やめておこう)


 パンツマン・オミトはそう考えながら面会室から外に出る。看守の案内に素直に従い、元居た牢獄へと収監されておく。


 そこからさらに三日間待たされることになった。差し入れと称して、女性用パンツが毎日提供された。


 誰が差し入れしてくれたのかは名前を出さなくても検討がついた。その場で食べずに非常食用として、収納魔法先に収納しておく。


(ありがとうな、ルナ。お前のその気持ち……怖いんだよ!? そんな毎日、パンツを提供されるほど、俺とお前の仲って深まってた!?)


 ルナの気持ちをないがしろにしている気分になるが、こちらは21歳JDとどうにかなりたいとか、そもそも考えていない。


 パンツを提供してくれる気持ちはありがたい。だが、それはそれ。これはこれ。良きパーティ仲間以上の関係になりたいとか思っていない。


 一応、提供者不明となっているパンツを虚空の向こう側にしまう。見計らったようなタイミングで看守が牢の前へとやってくる。


「賢者ベッキー様からの伝言だ。今日の午後からモンスター裁判が行われる」

「はいはい。俺は悪いモンスターじゃないことを証明すればいいわけだな?」

「……死ぬなよ」

「お、おう? もしかして俺のことを気遣ってくれてるのか?」

「……ああ。あんたが魔王の影に2撃も入れているのをこの目で見たからな。あんたは良いモンスターじゃないだろうが、悪いモンスターにも見えんのだ」

「どっちだよ!?」

「ははは……せいぜい抗ってくれよ?」


 牢獄だというのに自分の味方がいてくれたのはありがたい。これも女神の策略が上手くいっている証拠なのだろう。


 教会が敵対的ならば、民衆を味方につける。王都にやってくるまで時間をたっぷりとかけたことが、ここでも功を奏しているといえた。


 時間が過ぎるのは早い。あっという間に午後になる。パンツマン・オミトは看守の案内で、モンスター裁判の会場へと移動する。


 そこは円形闘技場であった。見物客たちで満席となっている。その席でも一番に目立つ場所に司祭たちが陣取っていた。


「これから被告パンツマンのモンスター裁判を行う!」


 司祭の中でも身分が一番高いと思える恰好をしている者が高らかとそう宣言した。観客たちが一斉に怒号と歓声をあげる。


 それを受けて、腹の奥にまでビリビリと痺れを覚えた。今の自分は観客たちを楽しませる見世物だった。


 モンスター裁判はまず水責めから始まった。長方形の大きな石を抱かせられる。それを縄でしっかりと身体に固定される。


 その姿で水が張っているプールの際に立つ。ラッパの音を合図として、尻に思い切り蹴りを入れられた。


 どぼーーーん! という音とともに身体が石ごとプールへと突き飛ばされた。パンツが濡れて力が出ない。抗うことも出来ずにプールの底へと沈んでいく。


(……俺って本当にモンスターなんだな。水の中で平然と呼吸できてるぞ!?)


 自分自身でも驚くしかなかった。普通の人間なら数十秒も持たずに溺死してしまっていたであろう。


 だが、顔に張り付いたトランクスによって、水中でもなんなく呼吸できてしまう。5分間、水の中に沈められた後、水の中から引き揚げられた。


 こちらは溺死しなかった。そのため観客から悲鳴と歓声が同時に起きた。


「ぐぬっ! 次は火責めだ!」


 十字に組まれた木の棒に磔にされてしまう。足元には薪が山のように積まれている。たらりと汗が額から頬を伝い薪へと零れ落ちる。


 薪に火がつけられた。ここでもインディアンハット状態のトランクスが役に立った。炎の熱に煽られて、トランクスが顔に張り付いた。


 煙が顔を襲ってきたが、トランクスがガードしてくれた。メラメラと炎が足を焼いたが、濡れていた履いているパンツを乾かしてくれる。


 そのおかげで、パンツマン・パワーが身体に戻ってきた。こうなれば、火などまったく恐れることもない。


 少し身体に焦げ目がついただけで済んでしまった。


「おのれーーー!? 何故、死なぬのだーーー!?」

「……えっと、俺が死ぬこと前提なんですかね!?」

「……ごほん。これはモンスター裁判だ! 死刑ではない! 次だーーー!」


 なんともわざとらしい咳払いだった。こうなればとことんモンスター裁判を続けてくれと思う。


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