パンツマン・オミトのモンスター裁判はその後2時間続くことになった。水責め、火責めだけでなく、針の山で横になったり絞首刑も喰らう。
いろいろな方法でパンツマン・オミトは悪いモンスターかどうかの審査が行われた。その結果が司祭たちから発表されることになった。
「被告は悪いモンスターです! めっちゃ
「知ってたよ! 裁判の結果なんて! てか、死ななくて悪かったな!?」
「うるさい! 死んだモンスターだけが良いモンスターなのだよ!」
「ハッキリと言いやがった!?」
モンスター裁判は結局のところ、死刑となんら変わりなかった。教会側はどうしても自分を亡き者にしたがっていることが伝わってくる。
どうして、教会側がそこまで自分に執着してくるのだろうかと訝しむ。
アリスが自分と司祭たちの間に割って入ってきた。両方がやり合い始めたことで、教会側の狙いが見えてきた。
「待ってください! パンツマンは四天王のひとりを倒したのです!」
「それがどうしたの言うのだね?」
「パンツマンは立派に正義の側です!」
「だまらっしゃい! 正義か悪かは教会が決めることだ!」
(あっ……なるほどね? そういうことか)
パンツマンはここにきて、この世界の成り立ちを深く認識する。勇者アリスは魔王を倒さなければならない使命を背負っている。
その勇者をバックアップしている教会から見れば、勇者の功績を横から掠め取ったのがパンツマンということになる。
これでは教会は都合が悪い。ならば、解決方法は至ってシンプルであった。
「あーーー。俺を差し置いて盛り上がっているところ、悪いんだが。四天王を倒したのは勇者アリス様だ。俺はほんのちょっと手伝ったにすぎない」
「えっ、オミトさん、何言ってるの!?」
アリスは動揺している。そんな彼女に向かってウインクしておく。アリスが何かを言う前にもう一度、四天王レッドオーニを倒したのはアリス本人だと主張しておく。
すると、司祭たちが破顔した。「ケッ……」と唾を吐きたくなってしまう。
「ふむ。モンスターのくせに頭が回りますねえ?」
「俺はパンツマン改め、アホアホマンだー! 俺、難しいことわかんなーい!」
「いいでしょう。四天王レッドオーニを倒したのは勇者アリス。アホアホマンよ、そうであるな?」
「アホアホマンはそれでいいなのだー!」
司祭たちはほくほく笑顔であった。教会側はやっと求めている回答を得られたようだ。しかし、それに納得できないアリスが口を開く。
「そんな! じゃあ、パンツマンの活躍はどうするんですか!?」
「はて? パンツマン? ここにいるのはアホアホマンですよ?」
「ぼく、アホアホマーン!」
「グッ!」
アリスが悔しそうに唸っていたが、これが政治の世界というものだ。納得できないという表情を露わにしているアリスを置いて、モンスター裁判の幕が閉じることになる……。
◆ ◆ ◆
釈放されたパンツマン・オミトは円形闘技場の控室に案内された。そこでアリスたちと合流を果たす。
しかし、アリスは申し訳なさそうにしていた。
「パンツマン。あなたにどうお詫びすればいいのか」
しおらしいアリスは本当に可愛らしい。思わず、パンツ頂戴! と言ってしまいたくなる。その気持ちをグッと抑えて、彼女の心を宥める方向で頑張ることにした。
「気にするな。可愛い美少女に功績を譲るのに何のためらいもないぜ?」
「……口が上手いですね。でも、私のパンツはあげませんよ?」
「そんなー! ひと口だけでいいから!」
「そういって全部食べちゃうんでしょ?」
「そ、そんなことしないよ!? 本当にひと口つまむだけだから!」
アリスが「うふふ」と笑ってくれた。これだけでパンツマン・オミトにとっては十分な報酬だった。
ベッキーとルナもアリスに釣られて笑顔になっている。そんな女性陣に向かってサムズアップしておく。
「いやしかし……俺の身体どうなってんの!?」
「パンツマン殿の生命力には驚かせられるばかりだった……ぞ!」
「ルナちゃん、泣きそうな顔してたもんね~」
「ベッキー殿! そ、そんなことない! 拙者はただ驚いただけで!?」
「本当~? あたしが止めなかったら、司祭たちに斬りつけてたかもしれないじゃない~」
「クッコローーー!」
自分のために怒ってくれること自体は嬉しい。しかし、司祭たち相手に軽率な行動を取ってほしくないとも同時に思ってしまう。
ベッキーはまさに思慮深い賢者であった。彼女がアリスとルナを止めてくれていたのだろうと察することができた。
「ベッキー、ありがとう。俺を信じてくれたのだな?」
「うん~。というか、パンツちゃんがどれほどに強いのかのテストも兼ねてというか~?」
「あはは……さすがは賢者だよ。モンスター裁判を俺の耐久テストと見ていたわけか?」
「うんうん~。四天王レッドオーニを完膚なきまで叩きのめしたパンツちゃんだもん。合格~、花丸~、92点~!」
「100点満点じゃないところがひっかかるな?」
「パンツが水で濡れた時に、パンツちゃんが弱体したように見えたのよね~。そこが減点ってとこ~」
ベッキーの指摘に苦笑するしかなかった。彼女は本当に自分のことをよく見ている。だからこそ、パンツマンの弱点を包み隠さず、彼女に告げておく。
ベッキーが「ふむふむ~」と言いながら、こちらの股間をじっくりと観察してきた。股間がむずかゆくなってしまう。
さらにベッキーが「じゅるりっ!」と音を立てた。ゾゾ……と怖気を感じ、股間をパンツの上から手で隠すことになる。
それはさておき、勇者アリスとはなんとも危うい立場だと思ってしまう。教会ではなく国王に庇護を求めてはどうかと提案した。
しかし、それはベッキーによってあっさりと否定されてしまうことになった……。
「ダメよ~。国王の庇護下には聖女がいるの。勇者までも国王の庇護下に入れば、教会はますますアリスに対して、ひどい扱いをしてくるわ~」
「それって、勇者裁判が行われるってこと?」
「それに近いことは行われると思う~。まずはアリスの功績全てを剥奪してくるでしょうね~」
なんとも嫌な話を聞かされてしまった。勇者とあろうものがニンゲン社会の権力のパワーバランスに使われている。
アリスはそれでも困っているひとをひとりでも助けられればいいと思って、今まで勇者として活動してきたそうだ……。
こりこりとこめかみを指で掻く。何かいい方法がないかと思案した。そうしていると、ピコーン! と頭の上で電球が光り輝いた(イメージです)。
「アリス……それなら勇者辞めちゃう?」
「それは今までの私を全否定することになります! お爺ちゃんだって、私に勇者であることを望んでいるはずです」
「そのお爺ちゃんってのは何者なの?」
こちらの問いを受けて、アリスの顔に影ができた。まずいことを聞いてしまったかもしれない。
しかし、アリスは気丈にも、こちらの顔をまっすぐと見てきた。
「私のお爺ちゃんは先々代の勇者です。先代の勇者は私のパパで魔王との戦いで命を落としてしまって。それで私が現役の勇者として引継ぎを行ったんです」
「ふーーーん。わかりやすく言うと、アリスちゃんの家は勇者の家系なわけね?」
「はい……」
アリスはシュンとしてしまった。過酷な運命を背負わされているのだろう。推定16歳JKには荷が重すぎると感じた。
その荷を軽くしてやることこそが、自分の使命だと思えてくる。アリスへと手を差し伸べる。
「ちょっと、その聖剣、俺に持たせてくれる?」
「変なことしないでくださいね?」
「しちゃうんだよなぁ! これが!」
受け取った聖剣を控室の壁に向かってぶん投げた。ドッカーーーン! という音とともに壁に大穴が空く。
しかし、さすがは勇者の聖剣だ。勢いを殺さずに何枚も壁をぶち抜きながら、ここではないどこかへとすっ飛んでいった。
「何をするんですかー! オミトさん、やっていいことと悪いことがあるんですよーーー!?」
アリスが真っ青な顔になりながら、こちらを問い詰めてきた。だが、こちらはニカッと白い歯を見せつけてやった。
「これで勇者を辞めれるな?」
「そんな簡単なことじゃないですぅ! ああ、もうどうしたらいいの!?」
おろおろとしているアリスには悪いが、こちらはせいせいした顔つきになっていた。しかし、ここで女神から念話が届いてきた。
"ちょっとーーー! なんで聖剣をぶん投げたの!? あれ、とんでもないしろものなんだからーーー!"
"でも、アリスちゃんを困らせているもんなんだし、無くなったほうがいいだろ?"
"あわわ……あの聖剣が悪しき心を持つ者に渡ったら……世界が崩壊するわ"
"そんなおおげさな~って……マジ?"
"マジよ。さすがにおふざけしてる場合じゃないもの! さっさと回収に向かいなさい!"
女神にめっちゃ怒られた……。自分はいいことをしたはずなのに。しかし、女神の声色から察するに自分はとんでもないことをしでかしたような気がしてならなかった。
(マジでやらかしたのかもしれんぞ、これは!?)