これは、私の友人の浦佐君(仮名)の中学の同級生であるK君が体験したという話しです。
当時、彼らが通っていた中学校の裏には雑木林があり、その中にポツンと一軒家がありました。
その家は築20年以上は経過してるだろうと思われる外観で、2階建てではありましたが、全ての窓の雨戸が閉じられており、誰が見ても空き家だと分かったそうです。
表札にはローマ字で「MURAKAMI」と書かれていた理由から、生徒間では「ムラカミさんの家」というアダ名で呼ばれていました。
浦佐君らが入学した時には、既に学校内では「ムラカミさんの家」は幽霊屋敷だと囁かれるようになっており、学園七不思議の一角のような扱いでしたが、あくまで噂話の範囲でした。
しかし、彼らが中学2年の夏休み前、その噂が真実だと思われる事件が発生したのです!
K君は野球部に在籍してましたが、ある日の練習を終えた頃には、日が沈みかけており、彼は部室で帰宅の準備をしておりました。
すると、先輩であるAさんとNさんが「おい!K!今から俺らで〝ムラカミさんの家〟に行ってみようぜ!」と彼に提案してきたそうです。
彼は、突然の提案に戸惑いながらも「いきなり、どうしたんですか?」と尋ねました。
するとAさんは「あの家さ、学校中の皆がオバケ屋敷って言ってるけど、誰も確かめてないだろ?俺らも、もう少しで卒業だし、その前に嘘か本当か調べてみたくてさ!それに夏だし肝試しにもなるから一石二鳥じゃん!だから、行こうぜ!」と興奮気味に答えたそうです。
K君は練習で疲れてたし、幽霊の類の話は好きじゃなかったそうなので、「いや、俺はそういうのはちょっと苦手なんスよ……。ごめんなさい」と断ろうとしたのですが、今度はNさんが口を挟んできました。
「お前、俺らと同じ3年で陸上部のSちゃんは知ってるよな?アイツはオカルトとか幽霊の話が好きなんだよ。だから、Aが〝ムラカミさんの家〟の本当のことを調べ上げれば、SちゃんもAの事を見直すに決まってるだろ!?先輩の恋路を手伝ってやれよ!」とK君に言ってきました。
そう、Aさんが好きなSちゃんの気を引きたくて、〝ムラカミさんの家〟を肝試ししようという中学生らしい考えによる提案だったそうです。
結局、K君は先輩2人の誘いは断れず、渋々付き合うことにしました。
これは私の推測ですが、彼らは2人だけでは怖かったので、仲間が欲しくて後輩を誘ったのでしょう。
こうして3人が〝ムラカミさんの家〟に着いた時には、辺りは暗闇に包まれていたそうです。
K君は「先輩、真っ暗で何も見えませんよ!明日にしませんか?」と言いましたが、Aさんは鞄から懐中電灯を取り出して「大丈夫!ちゃんと準備しておいたんだよ!」と得意げに言いました。
前述したように窓は雨戸で閉められていたので、彼らは玄関から入ろうとしたのですが、当然鍵はかかっていました。
しかし、男子3人で力任せにドアを何度か引っ張ったところ、鍵が壊れたのか扉が開いたので、彼らは〝ムラカミさんの家〟に足を踏み入れました。
彼らがまず目にしたのは、玄関マットの上に置かれていたクマのヌイグルミだったそうです。
〝それ〟は、ボロボロになっており、片耳が千切れて中の綿が露出していた状態だったそうですが、まるで3人を出迎えるかのように配置されていました。
ヌイグルミを見た瞬間、K君は逃げ出したい衝動に駆られたそうですが、2人の先輩は怯む様子もなく、奥へと進んでいきました。
K君は、慌てて彼らの後を追いかけました。3人は、まず1階を探索しましたが、居間が多少散らかってはいましたが、特に目ぼしい物は無かったので、2階へ行くことにしたそうです。
手前から順番に各部屋を覗いてる内に、やがて家長の書斎と思われる奥の部屋に入りました。
室内の机にはA4サイズの書類が入る封筒が積み重なっており、彼らは中身を確認しましたが、それらはサラ金会社から借金の返済を求める督促状の類でした。
AさんとNさんは、その書類を見て「ムラカミさんって、借金し過ぎて夜逃げしたのかよ?」、「いや、金返せなくて自殺したんじゃね?」などと好き勝手なことを言ってたそうです。
その時、K君は黙って彼らの様子を見てたそうですが、次の瞬間、床から「ドン!」という音が聞こえてきたそうです。
それは例えるなら、真下の部屋から人間が天井を拳で殴りつけたような音だったとK君が私に話してくれました。
3人が無言で顔を見合わせてると、再び床から「ドン!」と音が鳴り響きました。
それを聞いた途端、Aさんは一目散に書斎を飛び出しました!
後々、浦佐君が、K君から聞いた話ですが、彼は2回目の音を聞いた直後、本能的に〝その音〟から怒気のような感情を察知したので、逃げ出したそうです。
懐中電灯を持ってるAさんが逃げ出したので、NさんとK君も彼の後を追うように部屋を飛び出しました。
そして、1階へと続く階段を降りてる途中、Aさんは「ヒッ!」と悲鳴を出して立ち止まりました。
K君が彼の照らす灯りの先を見た瞬間、腰を抜かしかけたそうです。
何故なら、階段の真ん中には、
完全にパニック状態になった彼らは〝それ〟を避けるようにして階段を駆け降り、我先にと玄関から逃げ出したそうです。
その後、無我夢中で雑木林を抜けた彼らは無言で解散しました。
その後、浦佐君も風の噂で聞いたそうですが、彼らが卒業して数年後に〝ムラカミさんの家〟は取り壊され、現在は更地になってしまったそうです……。