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ー記憶ー6

 未だにハンドルだけを握って俯いている状態でいる望。


 そんな望に雄介は心配そうに見つめるのだ。


「望? 大丈夫かぁ?」

「……へ? あ、ああ……」


 暫くして、やっと望は落ち着いてきたのか顔を上げるとやっと雄介を見る事が出来たようだ。


「なんだ? 何か言ってたのか?」

「今まで話聞いてなかったんか? まぁ、それはええとして……あのな、何処行くん? って聞いておったんやけど?」

「え? あ、そうだったなぁ。 そうだなぁ? レストランでいいだろ?」

「俺の方は食えるんやったら、何処でもええよ」


 そう雄介は一声返すと望の方はやっと落ち着く事が出来たのかアクセル踏み車を走らせる。


 暫く車を走らせると今までは住宅街の中で静かな所にいたのだが、少しすると賑やかな街へと出るのだ。


 ここは東京。昼間も活気溢れている街なのだが、夜の方も負けない位に賑やかな街でもある。そう眠らない街とも言われているだけあってか夜だって街は至るところでネオンは光り、その光りで街は活気溢れる所となっているのだから。


 昼間も昼間で社会人が歩き回り人々が行き交っている街でもある。そして夜は今度人々が遊び回れるような街になるのだ。


 明日は土曜日だからであろうか。人々は明日が休みという事もあってか今日位はハメを外してもいいとでも思っているのであろう。だからなのか今日は普通の平日の夜に比べたらゆっくりと出来るという事もあってか街中にも人が溢れ、車の方も渋滞していた。


 そんな渋滞に引っかかってる中、道を挟んだ向こう側では店員さんが声を張り上げ客達を呼び込もうと営業をしている姿が視界に入ってくる。そんな姿は望からしてみたら普通の光景だ。


 渋滞に引っかかり、なかなか動かない車にため息が漏れる。


「見事に渋滞に引っかかっちゃったみたいだな。この状態だと暫く動かなそうなんだけど……?」

「せやなぁ……。望は何処に行くつもりやったん?」

「え? 高層ビルの最上階にあるレストランだけど……。嫌だったか?」

「あー、さっき言うとけば良かったな。俺はその……その辺にある牛丼屋の方が気楽で良かったんやけど? そう高級そうな所は、なんていうんか……疲れるって言うんかな?」

「あ、そうだったのか……」


 その雄介の意見に気持ち冷たく返してしまっていた望。


 まぁ、渋滞に引っかかってイライラしていたっていう事もあったからなのかもしれない。


 しかしまだ二人は恋人になって初めてプライベートで会ったばっかりなのだから、喧嘩なんかしたくはないと思ったのか、望はそれでも気持ち的には押さえて言ったつもりでいたようだ。

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