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第4話 ついに中身(正体)を見破られる!?

「うん? そういえば今日はやけにもきゅ子が大人しいのだな?」

「も、もきゅっ!?」

(そ、そこで俺に振るのかっ!?)


 アマネは思い出したように、そこで俺へと話題を振ってきた。

 普段のコイツを知らない俺にとって、それは無茶振りとも言える振りである。


「もきゅ子も先程まで寝ていましたからね。きっとまだちゃんとは目が覚めていないのですよ。ね、もきゅ子?」

「も、もきゅ!」

(そ、そうなんだ!)


 返事をするように俺は右手を挙げて、それに応える。


「なんだそうなのか? ふふっ。もきゅ子もシズネに負けず、暢気なのだなぁ~」

「きゅっ」

(ほっ)


 どうにかシズネさんのフォローによって、事なきを得るができた。

 グ~ッ。だがそのタイミングで、俺の腹から音が鳴り響いてしまう。どうやらこの体は腹が減っているみたいだ。


「ほっほぉ~っ」

「あらあら」

「きゅ……きゅ~(照)」

(はっ……恥ずかしい(照)) 


 二人とも示し合わせたかのようにその音源へと注目し、そして何やらニヤニヤとした笑いを浮かべていた。

 俺は恥ずかしさとそんな視線から逃れるように、ぷいっと横を向いてしまう。だが、自分でも判るくらい頬には熱を帯びていた。 


「まぁ、もうお昼も大分過ぎたからな。仕方ないさ」

「ええ。さっそくお昼ご飯の用意をいたしましょうかね」


 そんな俺を見かねてか、話を逸らすように今から昼食の準備をするのだと言う。


「さっ、もきゅ子。貴女は先にいつもの席・・・・・へと着いていてくださいね。ワタシとアマネで昼食を作りますから……っと言っても、今日もお店の売れ残りであるナポリタンしかありませんけどね。我慢してくださいね」

「もきゅ」

(分かった)


 さすがにこの身長では調理するのは愚か、料理を運ぶことさえ至難の業である。むしろ邪魔してしまうので俺は言われるがまま、そのいつもの席とやらを探すことにした。


(にしても今シズネさんが言っていた『今日もお店の売れ残りであるナポリタンしか』って言葉がやけに引っ掛かるよなぁ~。どうもその口ぶりから察するにこの店はレストランのようだけど、案外店の経営は上手くいっていないのかもしれないなぁ~)


 お昼時を過ぎているとはいえお客は誰も居らず、店の中は閑散としており、どこか寂しくも既に廃れてしまった田舎のレストランなのかもしれない。


「きゅきゅ……もきゅ~っ?」

(席席っと……あれはなんだ?)


 席を探すため周囲をキョロキョロ見渡していると、厨房とは反対側の玄関入り口付近に黒くて大きな塊があるのが目に入ってしまった。

 興味を惹かれた俺は「なんだろう???」っと首を横に傾げつつも、近づいてみることにした。


「もきゅもきゅ♪ もきゅもきゅ♪」

(イッチ、二、イッチ、二。……にしてもこの体、歩きにくいったらありゃしない。まるでペンギンの単独行進だぜこりゃ)


 右左、右左……っと、順番に短い足で歩みながらバランスを取るため体を揺らし、一歩一歩その塊の方へと近づいて行く。


「も、もきゅっ!?」

(うわっ、ととっ!?)


 ふと気を抜いたその瞬間、床ばり板の隙間へと左足の爪が引っ掛かり、そのまま前のめりに倒れこんでしまう。


 トン。だが、幸いにも何か・・へとぶつかり事なきを得る。

 たぶんこの体自体の体重が軽かったことも怪我をしなかった要因かもしれない。


「も、もきゅ~っ。きゅ、もきゅきゅぅ? ……きゅきゅっ!?」

(いっ、ててぇ~っ。にしても、俺は何にぶつかったんだ? ……んん!?)


 俺は転びぶつかったその何かを見上げる形になりながら、その正体を知って驚きを隠せなかった。


「おや、姫さんやないですか。おはようさんですぅ~っ」

「も、もきゅ~っ!? きゅきゅきゅ~っ……きゅ、もきゅきゅ!?」

(ど、ドラゴンだと!? ドラゴンが何でこんな街中に……っつうか、こんな建物の中にいるんだよ!? まぁ……俺も今はドラゴンなんだけどね)


 そう、その黒くて大きな塊の正体とは、いかにも屈強そうな黒衣ドラゴンだったのだ。


 その巨体に対して建物が極端に手狭すぎるのか、背中に付いている大きく黒い羽根二枚はすまなそうに折りたたまれ、また息をする度に頭上からはパラパラっと砂埃が舞い落ちてくる。

 両目は何物でさえも睨まんばかりに鋭く赤く光り、両手の爪は何物も引き裂かんばかりに鋭く長かった。そして体全体はいかにも硬そうな鱗で覆われており、背中部分には背骨に沿ってなのか、突き刺さんばかりのトゲトゲが生えていた。


「もきゅ~」

(でっけぇなぁ~)


 何故このような狭い建物の中に、こんな巨大なドラゴンが押し込められているのだろうか?

 また人間の言葉を喋るのは良いとして、何故似非関西弁を喋っているのだろうか? 


 俺は極度の混乱から様々な考えが駆け巡り、固まりながら思考が停止してしまっていた。


姫さん・・・、どないしはったんでっか? そのようにワテを呆けながらに見上げてさかい。なんや具合でも悪いんでっかいな?」


 姫さんとは、この俺……つまりこの『もきゅ子』を指している言葉なのだろう。

 だが生憎と俺は声をかけられてもなお、お口を馬鹿みたいに開いたまま何も答えられなかった。


 それだけ目の前のドラゴンに圧倒されていたのだ。


「もきゅ~っ」

(すっげーっ。マジ断然強そうで格好良いじゃねぇかよ、このドラゴン。俺も出来ればこっちのドラゴンに転生したかったんだけどなぁ~)


 そんな風に見惚れていると、目の前のドラゴンはこんなことを口にする。


「何か変やなぁ~。もしかして……アンサンの中身、姫さんやないやないかぁ~? そうでっしゃろ?」

「もきゅ!?」

(バレた!?)


 ついにもきゅ子の中身……もとい、俺の正体が見破られてしまった!?



 第5話へつづく

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