〖真雲視点〗
なるほど。
ようやく分かった。
『闘階冒険者』ってのが、どういうもんかが。
「『ギルド内で最高峰の実力を持つ冒険者』、か……」
ガルザックってじいさんに、後衛にいた、あの二人。
ゼルドとリナスだっけ?
実はすげぇヤツらだったんだな。
すげぇってのは、単に偉いポジションにいるとか、腕が立つからとか、そういう話じゃない。
強いやつってのは、必ず何か特別なモノを持ち合わせてるもんなのだ。
人を惹きつけ、影響を与えるような、そんな何か。
俺が悪の組織で怪人やってた頃だって、強いやつには独特のカリスマがあった。
仲間を引っ張る気概、上に立つ者としての
そんなものを、あのじいさんたちは持っていて、周りもそれを認めていた。
それがすごいのだ。
なのによ……。
シルバの話で、じいさんがアランの詐欺や誘拐に加担していたと聞いたとき、俺は俺で、腑に落ちないものがあった。
それは、じいさんがアランの件を隠していたこととは、また別の違和感。
「スリルを求めて人を傷つけるような人間には、どうしても見えねぇんだよな……」
直接話したわけじゃない。
けど——この目で見た。
あのとき、俺に向けられた剣が震えていたのを。
あれは、恐怖からくる震えなんかじゃない。
抗っていたんだ。
これは勝手な想像ではあるが、『剣を抜く相手は、自分で選ぶ』——そう言いたかったんじゃないのか?
思考を乗っ取られた状況下でなお、じいさんの本能は、誰かを傷つけることを断固として拒んでいたとか。
少なくとも、俺にはそう見えた。
「どうなってんだよ、いったい……」
頭の中でぐるぐる考えが回る。
開いたメモ帳を胸に抱いて、ベッドに寝転がったまま天井を見上げる。
木目の模様が、なんだか歪んだ顔みたいに見えてくる。
まるで、俺を
なんか、ムカつく。
散歩でもして気を紛らわせたいけど、部屋から出るわけにはいかない。
頭の下にいるスライムを、八つ当たりするように揉みしだく。
苛立ちと不快感に囚われた俺にとって、柔らかく、ひんやりとしたそいつの感触は、気分を紛らわせるのに丁度よかった。
こいつはこいつでまだ眠っているのか、されるがままだ。
——ダンッ、ダンッ
突然、ドアが勢いよく叩かれた。
俺とスライムは、同時にビクッと引っ付き合う。
——ダンッ、ガチャガチャガチャ、ダンッ、ダンッ、ガチャガチャ
続いて、ドアノブを乱暴に回す音が重なる。
「え、え、なに……」
「ちょっと、真雲さん!」
ドア越しでかなり上ずっているが、シルバの声だ。
「なんだシルバかよ。やけに帰りが早いな」
あ、やべ。
報奨金、片づけてねえ。
これ、怒られるやつだ。
ベッドから体を起こし、テーブルに散らばった金貨を隠すようにメモ帳を置く。
「ど、どした? 何か忘れ物か?」
ドアに近づきながら、軽い調子で声を投げた。
忘れ物なら、さっと渡してドアを閉めよう、と。
「いや、それどころじゃないんですよ! まずいことになってるんです!」
あれ、なんか様子がおかしい?
明らかに焦っている。
冷静沈着なシルバがこんな慌て方するなんて、ただ事じゃない。
「まずいって何だよ!? 衛兵にでも追われてんのか?」
「違います! 街で——!いや、説明するより見たほうが早くて! あの! 今、両手が荷物で塞がってるんで、早く開けてくれませんか!?」
「分かった、ちょっと待てよ」
ドアノブに手をかける。
が、その手を止めた。
なんか、おかしい。
心の奥で、引っかかりを感じた。
「なあ………」
「もうなんですか!急いでくださいよ!」
「お前だれ?」