洞窟の中は薄暗いが、所々に生えている
その糸には、大人ふたりは入りそうな大きな繭が三つほど括られており、繭たちは薄闇の中でぼんやりと青白く光っているように見える。
「まさか反抗期? 子どもじゃあるまいし。虫けらのくせに生意気じゃない?」
黒装束を纏った、少年らしき声が鬼蜘蛛に問いかける。鬼蜘蛛は反応を示さず、同じ体勢のまま糸の結界の内側で言葉を聞き流す。この中に少年は入れないらしく苛つきが声に出ていた。
「そもそも想定外の事態。不可抗力だろ、あんなの。俺の蟲笛を遮っただけじゃなくて、操ってる
頭に深く被された衣が、少年の表情さえも隠す。
「たかが
久々に能力を使ったため、力が劣っていたのかもしれない。かつての自分ならこんなへまはしなかった。それもこれもぜんぶ、あの笛の音のせいだ。
「まあこれで俺の任務は完了なわけだし、鬼蜘蛛を完全な
少年は口元に蟲笛を付け、息を吹き込む。すると、真後ろに少年の二倍以上大きな黒い
「鬼蜘蛛の肉を喰らうのがそんなに楽しみか? だがその前に、お前には邪魔が入らないように他の奴らの始末をしてもらう。お楽しみはその後だ」
首をかくかくと左右に動かし、大きな深緑色の眼で鬼蜘蛛の方をじっと見ている
「さっさと行け。夜が明ける前に終わらせろ」
命を受け、巨大な
「まあ本来の目的さえ完遂すれば、過程なんてどうだっていい」
少年は近くの岩に腰を下ろすと、そのままぶらぶらと足を揺らす。
「あいつは俺たちを利用しているつもりだろうが、利用されてるのは自分だってことを思い知ればいいんだ」
口の端を歪めて言い放つ。首から下げた蟲笛を指先で弄びながら、少年は漆黒の衣の奥で不敵な笑みを浮かべる。頭から深く被った衣は、口元以外は影になってよく見えない。少年のような姿をしているが、実際のところはわからない。
ふんふんと鼻歌を歌いながら、楽し気に身体を揺らす。調子はずれで独特な音程のその鼻歌は洞窟の中で反響し合い、不思議な音色を奏でていた。