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第4章:ヤンデレ後輩、保健室にて (00)

 蒼馬が目を覚ましたのは、見覚えのある白い天井だった。


「……ここ、保健室?」


「せんぱいっ♡ やっと起きてくれましたね〜〜〜〜!」


 急に飛び込んできたのは、セーラー服の胸元を揺らしながら全力で飛びついてきた――後輩の由貴。


「ちょっ、痛い! 肋骨に、肋骨にっ!」


「えへへ、そんなこと言っても……さっきまでずっと眠ってたくせにぃ。心配したんですよ〜?」


「そりゃ急に貧血起こして倒れたからな……てか、なんでお前がここに?」


「え? え〜? ……だって、保健室って、蒼馬先輩が倒れたら来るって思って、待ってたんですよ?」


「…………怖っ!」


 由貴はニコニコ笑いながら、氷の入った冷たい水を差し出してくる。

 その顔は、天使のように可愛くて――その行動は、地獄のように怖かった。


「ふふふ……この水、体にいいお薬も入ってますから。心も体も、私のことでいっぱいになれますよ……?」


「一体何を入れたんだ……!?」


「うっそでーす♡ ただの水ですよ〜。でも、ちょっとは焦りました? 焦ったら、私のこと、忘れられなくなりますよね?」


「ああもう! お前、そういうとこあるからな!? 真面目にヤバい奴ランキングぶっちぎりだぞ!?」


「えへへ、ありがとうございます♡」


「褒めてねえよ!」


 蒼馬はベッドの上で身を起こした。と、横には細かい文字でぎっしり書かれたノートがあった。


「これ……何?」


「先輩が倒れてる間に、次に一緒に行くおすすめデートコースを考えてたんです! 1ページ目は“学校の屋上でふたりきりの昼寝”、2ページ目は“裏山の祠で誓いの口づけ”、3ページ目は“あ、これはちょっと、えっちなやつなのでナイショです♡”」


「ナイショにするなら見せるな!」


 その時、保健室のカーテンが勢いよく開いた。


「蒼馬! 倒れたって聞いて――うわ、なんかすげえ空気だな!」


 駆け込んできた元気が状況を見て一瞬で後ずさる。絃葉と香澄も顔を出し、教室の空気が一気に騒がしくなる。


「ちょっと、由貴さん。先輩を“人質”みたいに囲むのはやめなさい」


「ええ〜? 私、ちゃんと看病してましたよぉ?」


「蒼馬、アイス持ってきたわ。……って、由貴が先に渡してる!? ずるいっ!」


「蒼馬くん、そんな……“保健室でモテモテイベント”みたいな状況、ほんとに羨ましいわ……」


「羨ましがるなよ!? 俺が一番怖いんだよ、今!!」


 教室の天井を見上げながら、蒼馬は心から叫んだ。


(もうちょっと、普通の高校生活がしたい……!)


 だが――その願いは、これからもまず叶いそうにない。


 つづく(01)>>

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