おかしいな、俺は確かバカンスで海外旅行に来た筈なんだが?
何故6歳なのに仕事してるんだろうか……?
解せぬ顔をしながら、俺はソシエテ海軍の軍用船サンク号の舳先辺りに立っていた。
海賊船が現れたら遠慮なくブッ壊してくれと言われている。
「海賊たちを震え上がらせた海竜召喚、期待しているよ!」
一緒に来ているトーンルンさんがニコニコしながら言う。
しかし海賊たちも軍艦を襲うほど馬鹿じゃないんだろう、全く現れない。
やがて前方に小さな島が見えてきた。
島の港は不釣り合いなほど大きく作られており、黒い船が5隻停泊している。
本来はもっと船の数が多いだろうけど、今は港の半分くらいが空いていた。
「海軍が来やがったぞ!」
「迎撃しろ! 島に近付けるな!」
船の中にいた海賊たちが甲板に駆け出し、砲台をこちらへ向けて戦闘態勢に入っている。
海賊船5隻の全砲門がこちらを向く。
『ラメル様、いつもより多くいきますよ』
『問題無い。いきなさい』
ラメル様に念話で伝えた後、俺は片手をルカン島の港へ向けた。
いつもはピストルの形を作るが、今回は手を広げたまま5本の指に魔力を集める。
5隻の海賊船が一斉砲撃を仕掛けるより早く、俺は魔法を発射した。
水属性魔法(特殊):
→水属性魔法(特殊・上位変換拡大):
5本の指から放たれた水の弾丸が、一気に膨れ上がって5匹の海竜になる。
海竜はそれぞれ狙いを定めた海賊船に襲いかかり、爪を振り下ろす。
港に停泊したまま砲撃しようとしていた5隻の海賊船は、こちらへ砲弾を浴びせる前に青い竜たちの爪に切り裂かれて大破した。
「うわぁぁぁっ!」
「海竜使いだぁっ!」
船の残骸と共に海に落下した海賊たちは、必死に泳いで島へと逃げ込んでいく。
港の建物辺りにも海賊らしき人々がいたが、海竜を見た途端に全力ダッシュで島の奥へ逃げ出していた。
「おぉ~!」
「凄い、これが海竜!」
「圧倒的じゃないか!」
トーンルンさんと海兵たちは、初めて見る海竜に感動している。
海賊たちはこちらを攻撃する暇も無く惨敗、海軍サイドは全くの無傷だ。
『ゴミはいつもの場所へ捨てればよいか?』
『はい、お願いします』
ラメル様はよく分かってらっしゃる。
港の前を覆う残骸が、横波に押し流されて島から離れていった。
逃げ遅れた何人かの海賊も流されていくが、コメルス港にいる警備兵たちが地下牢にブチ込んでくれるだろう。
「敵の牙は折れた! 全員捕縛しろ!」
トーンルンさんの命令ど、海軍の皆さんが進撃を始める。
軍艦から小型艇が次々に島へ向かい、スッキリ片付いた港から島の中央へと兵士たちが武器を手に駆け込んでいった。