ルカン島は、海賊たちが商船から奪った物を保管しておく場所だった。
最大の攻撃手段である船を破壊された海賊たちに、海軍に抵抗する戦力は無い。
海賊たちは、一気になだれ込む海軍のみなさんに呆気なく捕縛されてしまった。
軍用船サンク号の船内、牢の中。
床に座る海賊たちは意外に大人しかった。
武器は全て没収されたから観念したのかもしれない。
独房に入れられた隻眼の大男が、静かなまなざしをこちらへ向けてくる。
他の海賊たちの視線もこちらに向いていた。
「船を失った俺たちは牙の無い鮫と同じだ。鮫は牙が無ければ戦えねぇ。強制労働でも処刑台でも行ってやるよ」
大男が言う。
その隻眼からは、怒りや憎しみは感じられない。
「坊主、お前の名前を教えてくれねぇか? 冥途の土産に持っていきてぇからな」
「アルキオネ」
「そうか、いい名前だな」
大男に言われて、スバルは名乗った。
前世の名は言えないから、僕の名前を。
大男は眼帯に覆われていない片目を細めて、穏やかな笑みを浮かべた。
隻眼の大男は【海賊王】と呼ばれる人だった。
全ての海賊を従える、海賊の王様。
ソシエテ政府からギルドに討伐依頼がきていたけれど、今まで誰も達成できなかったらしい。
サンク号がコメルス港に着き、ロープで縛られ連なった海賊たちが続々と船から出てくるのを見て、街の人々は只事ではないと感じて集まってきた。
野次馬たちは、大男が姿を現すと一斉に驚きの声を上げる。
「か、海賊王?!」
「海軍がルカン島を制圧したのか?!」
そんな騒めきが聞こえる。
黙々と歩いていた大男がピタリと立ち止まり、人々を睨んだ。
「海軍じゃねぇ! 俺たちを倒したのはあそこにいる銀髪の少年、海竜使いのアルキオネだ!」
辺りにビリビリと響く大声で怒鳴る海賊王。
両手を縛られているので指差せない彼は、顔をこちらへ向ける。
釣られるように、港にいる人々の視線が集まった。
(ちょ、なんでこんな大勢の前で言うの?!)
甲板に立っていたスバルがギョッとした。
スバルとしてはルカン島制圧は海軍の手柄にして、自分は依頼達成報酬を貰えばいいや~という気分だったのに。
誇り高い海賊王は、それを許さないらしい。
「俺たちは海軍に負けたわけじゃねぇ、アルキオネに負けたんだ! お前らの英雄を違えるな!」
またビリビリと空気を震わせる大声が響く。
言い終えた海賊王は、再び歩き出して港の地下へと入っていった。
(英雄って何?! 俺はちょっと魔法ブッ放して海賊船を壊しただけだよ?!)
焦るスバルの横に、トーンルンさんが歩み寄る。
後ろには船内に残っていた海兵さんたちが並んだ。
「海賊王の言う通りだ! 我々はこの子の力を借りて、ルカン島を制圧したんだ!」
船上から港まで響き渡る大声で、トーンルンさんが言う。
途端に、港の人々から歓声が上がり、スバルは驚いて後退りかけた。
でもトーンルンさんにガッチリ両肩を掴まれていたので、人々の視線から逃げられない。
(な、夏休みの自由課題、「海賊討伐の英雄になってみた」でいいかな?!)
動揺するスバルは、そんなワケの分からないことを考えていた。