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第32話 四天王第二の男

「俺の名はサヨナラ四天王第二の男、ザンギだ!」


 その男は長柄の斧ポールアックスを肩にかけ、墓石に片足を乗せて、朗々たる声を響かせた。手脚は長く筋肉質で、くたびれた青い外套を身につけている。肩と膝には凶悪なトゲ付きパッド。ベルトにはスペードをあしらったバックル。

 決して痛々しい中二病ではない。相手を威圧するためにあえて買い揃えた物だ。

 髪を脱色して白くしているのも、その方がより不気味に見えるためで他意はない――少なくとも当人はそう主張している。

 当然ながら場所は墓場だが、本物ではなく小夜楢未来が結界の中に構築した仮想世界だ。

 未来が藤咲たちを襲ったときと同じく、背後には骸骨じみた怪物を引き連れている。

 襲撃の相手は十名前後の高校生たちだが、彼らはグループで行動していたわけではない。下校中の者たちを無作為に抽出してこの空間に引き入れただけだ。

 慌てふためく若者たちを睥睨しつつ、ザンギは斧を突きつけて言い放つ。何度も鏡の前で練習した格好いいポーズだ。


「この腐った世界を変革するため、てめえらの命を頂く!」


 若者たちはパニックを起こして逃げだそうとしたが、出口を見つける間もなく骸骨兵がそれを取り囲む。

 ただし、その中でただひとり、いかにも生真面目そうな男子生徒だけは毅然とした顔でザンギを睨み返してきた。


「噂では魔女とのことだったが、お前はその手下といったところか」


 男子生徒の言葉を聞いてザンギは愉しげに口元を歪める。


「何者だ、てめえ?」

「僕は槇村悟。ハルメニウス様にお仕えする者だ」


 教団のシンボルらしき聖印を手に凜として言い放つ。

 ザンギはせせら笑った。


「田舎神様がどれほどのものかは知らねえが、てめえひとりで何ができる。身の程ってものを思い知りやがれ!」


 叫ぶと同時に墓石を蹴って男子生徒――槇村に斬りかかる。

 槇村は臆することなく手にした聖印を突きつけて声をあげた。


「神よ、我にご加護を!」


 瞬間、青い光が生じて、ザンギの長柄の斧ポールアックスを弾き返す。間違いなく魔力の障壁だ。


「何!?」


 意外な強度に驚きの声をあげるが、次の瞬間、槇村が張った魔力障壁はガラスのように砕け散っていた。


「くぅっ!」


 悔しげに唇を噛みしめる槇村。

 ザンギは容赦なく長柄の斧ポールアックスによる二撃目を放つ。血飛沫が上がるが、槇村の身体は地面に倒れる寸前に光の粒子となってかき消えた。

 それを見た残りの高校生たちが恐慌をきたすが、そちらは骸骨兵に任せてザンギは長柄の斧ポールアックスを地面に突き立ててから、大声で告げる。


「心配すんな。命を頂くとは言ったが殺しやしねえ。寿命をちいとばかし削らせてもらうだけだ。今の野郎も死んじゃいねえし、今日明日の命ってわけでもねえ。だからてめえらも安心して殺されな」


 そんな説明をされたからといって納得して殺される者などひとりもいなかったが、ただの高校生が骸骨兵に抵抗できるはずもない。ひとりまたひとりと胸を貫かれて、槇村と同じように、この仮想世界からかき消えていった。


「任務完了だ」


 長柄の斧ポールアックスを肩に担ぎ直してザンギが笑う。

 今回の仕事は実に簡単なものだった。だが、もちろんこれで終わりではない。同様の事件は陽楠市のあちこちで多発しており、怖ろしい都市伝説として、この地方の若者を恐怖のどん底に落とし始めていた。

 そうなれば当然、邪魔者である地球防衛部が、どこかで立ちはだかることになるはずだ。


「へへ……その時を期待しているぜ、エイダ・アディンセル。俺はザンキのような間抜けとは違う。四天王の真の力、その時こそ見せつけてくれるわ」


 いかにもな台詞を残して悠然と立ち去ろうと背中を向けるが、もちろん仮想空間から歩いて出られるはずもなく、未来が結界を解除してくれるのを待たねばならないのだった。

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