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第33話 教団

 ザンギを名乗る怪人が事件を起こしたからといって、その情報がすぐさま地球防衛部に飛び込むはずもない。

 実際に死人でも出ていれば別だが、結界内で殺害された者たちは現実では傷一つ負っておらず、まるで夢でも見たかのような心境だった。

 ただし、襲撃を受けた直後は、奇妙な気怠さを感じるため、ザンギの言った「寿命を削る」という言葉が気にならないはずがない。

 そもそも白昼夢と思い込むには、幾人もの人物が同時に同じ夢を見るなど、やはり無理がある。

 だからといって、こんな話を親や警察にしたところで、信じてもらえるとは思えない。頭がおかしくなったと思われるのがオチだろう。

 悩んだ末に彼らが頼ったのは、やはり襲撃されたメンバーの中で唯一超常の力を使って見せたハルメニウス教団の信者を名乗る少年――槇村悟だった。

 それまで彼はおかしな宗教にかぶれた変人だと思われていたが、実際にアレを見た後では誰もが考えを改めた。

 襲撃を受けたメンバーは槇村に連れられてハルメニウスの教会へと足を運ぶ。

 そこには彼らと同世代の人間が幾人も集まってきていた。どうやら彼らもまたザンギや小夜楢未来に同じ目に遭わされた人々のようだ。

 教会はその名のイメージに則した白い建物で、掲げているシンボルこそ違えど有名な宗教のそれを連想させる。

 それなりの広さのある礼拝堂に集められた彼らの前に現れたのは、白いローブを身に纏った美しい女性だ。


「ようこそ、ハルメニウス教会へ。わたしは教団の長を務める、朝日向あさひな耀ひかりです」


 その容姿に見合った潤いのある声が響くと、集められた誰もが魅入られたように視線を向ける。男子はもちろんのこと、女子たちも一瞬にして心を奪われていた。


「みなさんの窮状は、わたしどもも把握しております。今日はその対策について、ご説明いたしましょう」


 教義に関する説明も勧誘もそっちのけで、彼女はすぐさま本題に入った。

 そんな教祖の姿を、聖深天はやや離れたところから見つめている。熱に浮かされた様子もなく落ち着いた表情で、ただ黙って教祖の言葉に耳を傾けていた。

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